コートールド美術館展 魅惑の印象派

1s.エドゥアール・マネ《フォリー=ベルジェールのバー》

エドゥアール・マネ《フォリー=ベルジェールのバー》1882年
油彩、カンヴァス 96×130cm コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

コートールド美術館展が東京都美術館で開催されています。コートールド美術館はロンドンにあり、イギリスが世界に誇る印象派、ポスト印象派の殿堂です。美術館の創設者サミュエル・コートールド(1876-1947)はイギリスの実業家で、レーヨンの製造・国際取引で莫大な富を得、その富をもとに卓越した審美眼で作品を収集しました。フランス近代絵画の魅力を母国イギリスに伝えたいと、1920年代を中心に、精力的に収集を行いました。1932年、ロンドン大学に美術研究所が創設されるとコレクションを寄贈、研究所はコートールド美術研究所と名付けられ、その展示室としてコートールド美術館ができました。

冒頭画像の《フォリー=ベルジェールのバー》はマネ最晩年の傑作で、本展の目玉ともいうべき作品です。この作品は滅多に貸し出しされない秘蔵品なので今回の展覧会で見られることは幸いです。作品の女性はカフェ・コンセール(ショウ附きの酒場)で、当時「バーメイド」と呼ばれていた女性バーテンダーですが、娼婦でもあったようです。後ろの鏡に映し出されているのは、客席から舞台を見ている紳士淑女たちです。左上には踊り子の足がのぞいているので、舞台ではちょうど空中ブランコのショ-が行なわれていることがわかります。はっきりした輪郭と色彩をもった前列の静物(ボトルはラベルの文字まで読めます)に対し、鏡の中はぼんやりと描かれています。鏡の位置が不確かであること、バーメイドの後姿が右へずれていること、バーメイドが応対している紳士が手前には存在しないこと、カウンターに置かれたビンの位置と数に相違がある等々、この絵画には不思議な点がいくつもあります。マネは何を意図してこのように描いたのでしょうか。

展覧会は三章に分かれて展示され、それぞれの章に「収集家の眼」と題して一人の画家をクローズアップして展開しています。以前に原三渓展でも収集家としての眼というような展示がありましたが、コレクションはまさに収集家の審美眼、美意識、鑑識眼を物語るものですが、その視点を言葉で知ることができます。

1.  画家の言葉から読み解く

画家たちは、どのように風景を見つめ、何を考えながら筆をとったのでしょうか。その思いを知ることは難しいですが、講演の記録や画家の手紙などには手掛かりとなる言葉が残されています。電話やメールなどを使わない19世紀後半、画家は画商や画家仲間、家族や友人宛てに手紙を記しています。多くは失われていますが、ファン・ゴッホなどは書き送った手紙を家族が大切に保管し、820通以上が残されていることが知られています。

フィンセント・ファン・ゴッホ《花咲く桃の木々》1889年
油彩、カンヴァス 65×81cm コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

「前景の葦の垣根に囲まれた果樹園では、小さな桃の木々が花盛りだ―この地のすべては小さく、庭、畑、庭、木々、山々でさえまるで日本の風景画のようだ。だから、私はこのモティーフに心惹かれたのだ。」1889年4月にポール・シニャックに宛てたフィンセント・ファン・ゴッホの手紙です。ジャポニズムが流行していたパリから南仏アルルに移ったゴッホは、そこの風景に日本を感じたようです。手前の桃の木々が山梨の桃を連想させるのは私だけでしょうか。

クロード・モネ《アンティーブ》1888年 油彩、カンヴァス
65.5×92.4cm コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

「私がここから持ち帰るものは、甘美さそのものだろう。白、ピンク、青、すべてがこの夢のように美しい空気の中に包まれている。」(アリス・オシュデに宛てたモネの手紙、1888年2月3日)1888年1月、彫刻家ロダンに宛てたモネの手紙で、南仏アンティーブの色彩の扱いに奮闘している様子がわかります。「私は、太陽と刃を交え闘っています。この地の太陽は、なんて太陽だ!黄金と宝石で描かなければならない。」

<収集家の眼> ポール・セザンヌ

コートールドが最も多くの作品を収集したのがセザンヌです。彼がセザンヌの収集を始めたのは1920年代で、そのころイギリスではそれほど評価は高くなかったのを、コートールドはセザンヌが自然に向ける、鋭く揺るぎないまなざしを愛したようです。それは田舎を散策し、自然を愛したコートールドと共通するものがあったのでしょう。

ポール・セザンヌ《大きな松のあるサント=ヴィクトワール山》1887年頃
油彩、カンヴァス 66.8×92.3cm コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

ポール・セザンヌ《カード遊びをする人々》1892-96年頃
油彩、カンヴァス 60×73cm コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

セザンヌからエミール・ベルナールに宛てた書簡がまとまって展示されています。セザンヌの芸術論が表明されている貴重な資料です。

2.  時代背景から読み解く

産業化が急速に進んだ19世紀フランスのパリでは、中産階級が台頭して、都市生活や余暇を謳歌する人々が増えていきました。街並みや人々の生活が著しく変わり、これまでにない新しい景色の絵画が誕生しました。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ジャヌ・アヴリル、ムーラン・ルージュの
入口にて》1892年頃 油彩・パステル、板に貼られた厚紙 102×55.1cm
コートールド美術館 © Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

エドガー・ドガ《舞台上の二人の踊り子》1874年 油彩、カンヴァス
61.5×46cm コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

<収集家の眼> ピエール=オーギュスト・ルノワール

コートールドは、マネ、セザンヌと並びルノワールを近代美術の動向を代表する一人と考えていたようです。「桟敷席」から最晩年まで、珠玉の作品を収集しています。コートールドはルノワールの作品に、全体の詩情や優美さに加えて、愛すべき存在として表現される人物に、魅了されていました。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《桟敷席》1874年
油彩、カンヴァス 80×63.5cm コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

1874年の第1回印象派展に出品されたこの作品は、1925年にコートールドが110,000ドルという、彼が収集に費やした中で最高額であろう価格で手に入れました。この作品についてコートールドは「私見だが、彼は1880年以前に頂点に達していたと思う。彼独自の傑出した魅力を構成する、鋭敏な視覚という類まれな才能を無駄にすることなく、のちに得ようと努力していくものの本質の片鱗が現れている」と言っています。そしてこの作品にコートールドは詩をささげています。作品をとても愛していたことがうかがえます。

3.  素材・技法から読み解く

コートールド美術館では長年にわたり、X線や赤外線などを用いた科学的な調査・研究が行われ、その成果として、制作の背景や過程、芸術家の工夫や試行錯誤、ときにためらいなどを明らかにしてきました。

アメデオ・モディリアーニ《裸婦》1916年頃 油彩、カンヴァス
92.4×59.8cm コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

このモディリアーニの官能的な裸婦は、様々な技法で描かれたことがX線調査からわかりました。顔と身体の筆使いがまったく異なっています。身体はカンヴァスに筆を押し付けていくような独特のうろこ状の筆触が見えますが、一方顔には細い筆で薄く絵具が置かれより滑らかな仕上がりを目指しています。髪には絵具が乾かぬ間に引っ掻いた跡がみられました。このように絵画をみることも斬新ですね。

<収集家の眼> ポール・ゴーガン

コートールドがポスト印象派に高い関心をもったのは、1922年にロンドンで開催された「フランス美術の100年」展で、同年ゴーガンの作品を2点購入しています。コートールドはゴーガンの感性に訴える色彩に魅了されたと言われています。そののちも収集を続け、彼のコレクションを核としたコートールド美術館は、現在イギリスでは随一のゴーガンコレクションを有するに至っています。

ポール・ゴーガン《テ・レリオア》1897年 油彩、カンヴァス
95.1×130.2cm コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

「テ・レリオア」というタイトルは、タヒチ語で夢という意味だそうです。画面からどことなく不可思議な雰囲気が漂います。視線を合わせない二人の女性の関係がわからず、眠る赤ん坊はどちらの子なのか全く別なのか、わざと安定性を欠いた絵画にしたのでしょうか。

ポール・ゴーガン《ネヴァーモア》1897年 油彩、カンヴァス
60.5×116cm コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

素晴らしい絵画が集結しています。そしてそれをコレクターの目線も交えて、絵画自体を解剖するという趣向で期待を裏切りません。

サミュエル・コートールド肖像写真

東京都美術館展覧会ホームページ

展覧会公式サイト

開始日2019/09/10
終了日2019/12/15
エリア東京都
時間開室時間 9:30~17:30 金曜日、10月16日(水)、11月2日(土)、11月20日(水)、11月30日(土)、12月7日(土)、12月14日(土)は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
休日休室日:月曜日、、9月17日(火)、9月24日(火)、10月15日(火)、11月5日(火)
※ただし、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)、10月14日(月・祝)、11月4日(月・休)は開室
その他備考観覧料 一般1600円、大・専門学校生1300円、高校生800円、65歳以上1000円
開催場所東京都美術館
アクセス〒110-0007
東京都台東区上野公園8-36
☎03-5777-8600(ハローダイヤル)
・JR上野駅「公園口」より徒歩7分
・東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅「7番出口」より徒歩10分
・京成電鉄京成上野駅より徒歩10分
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