原三溪の美術 伝説の大コレクション

1s 国宝《孔雀明王像》

国宝《孔雀明王像》平安時代後期(12世紀)、絹本着色・一幅
147.9 x 98.9 cm 東京国立博物館蔵
Image :TNM Image Archives [7月13日~8月7日(展示終了)]

至宝と呼ぶにふさわしい原三溪(はら・さんけい、1968-1939)のコレクションが一堂に集まりました。日本各地の様々な美術館などに収蔵されているこれらの作品を、よくぞ集結させたものだと主催者、関係者の努力に脱帽です。原三溪は独自の美術史観を持ち、その上でコレクションをしていますが、それらが後に国宝や重要文化財に指定されたことをみても、三溪の鑑識眼の確かさを物語ります。実業家、アーティスト、コレクター、茶人、パトロンと幅広い顔をもち、その顔ごとにもつ素晴らしい作品ですが、三溪自身も一堂に観ることが適わなかった旧蔵の名品を、過去最大規模で展観する見応えのある展覧会です。

展覧会は三溪のそれぞれの顔ごとに、「プロローグ」を含め5つに分かれて構成されています。

第1章    三溪前史 ― 岐阜の富太郎

原富太郎(号:三溪)は、現在の岐阜市で代々庄屋を務める青木家の長男として明治初年に生まれました。母が南画家や漢詩で著名な高橋杏村の娘であったことから、伯父の高橋杭水に絵画や詩文を学びました。少年の頃から秀才で、12歳から漢学塾に席をおき、漢詩、漢文、儒教の素養を身に付け、画においても加納藩の旧藩主に献上されるほどの腕前でした。17歳で上京すると東京専門学校(現早稲田大学)で政治と法律を学び、23歳のときに生糸業で材をなした横浜の実業家、原善三郎の孫娘、やすと結婚します。その後は近代的な経営手段によって原家の事業を大きく成長させ、経営者としての才覚を充分に発揮しました。富岡製糸場を中心とした製糸工場を各地に持ち、昭和前期にいたる近代日本の黎明・発展期に経済界を牽引しました。

この章では三溪の誕生、上京前の日常、写真等々、三溪の心の支えだった時期に焦点をあてています。何不自由なく育ったうえに高度な教育を受けた申し分ない生い立ちですが、三溪自身はその事を充分に理解し、感じながら、躊躇なく自分を伸ばして生きたように思います。もちろん時代が三溪の味方になったことも否めません。

原三溪ポートレート 提供:三溪園

第2章    コレクター三溪

三溪が収集した美術品の多くは、自筆の蔵品目録などの資料によって解明されつつあります。全五冊の買入覚には原家に入籍した翌年の明治26年から晩年の昭和4年まで37年間にわたる美術品売買実績が記されていて、大正の中頃を最盛期として関東大震災の大正12年を境に茶道具のわずかな購入を除き収集をやめます。関東大震災で大きな被害を被った横浜を、三溪が私財を投げ打って復興に尽力したためです。素晴らしい経済人であり、かつ人格者であったようです。

コレクター三溪の名前を有名にしたのは、明治36年に井上馨から冒頭画像の《孔雀明王像》を一万円という破格の値段で入手したことです。三溪は古代から近世まで、広範囲にわたる美術史学の流れを踏まえながら時代を代表する名品を収集しています。彼の収集によって日本の文化財の海外流出が少しは防げたはずで、よくこれまで収集してくれたことへ感謝の意を表したいと誰もが思うでしょう。

国宝《寝覚物語絵巻》(部分)平安時代後期(12世紀)
紙本着色・一巻 26.0 x 533.0 cm、大和文華館蔵
[展示期間:8月9日~9月1日]

第3章    茶人三溪

三溪は益田鈍翁、松永耳庵と並び称される数寄者でもありました。彼らのような稀大な実業家で数奇者との交流を通じて本格的な茶の湯に入り、元来持っている鑑識眼で茶道具を収集し、各界の名士達と茶会を重ねていました。茶を嗜むということは書画、陶芸、工芸、自然と広範囲な文化を理解し、あるいは取得した上で同じ教養、素養を備えた人々との会話を楽しむという豊かな空間時間を持つことです。

重要文化財 伝本阿弥光悦《沃懸地青貝金貝蒔絵群鹿文笛筒》
江戸時代初期(17世紀)、木製漆塗・一本、長39.6・径3.3cm
大和文華館蔵 [展示期間:8月9日~9月1日]

第4章    アーティスト三溪

三溪にとって、自らを自由に表現することのできる創作活動は重要でした。原家の実業を継いで忙しい中、明治35年に現在の三溪園内に私邸を建て、造園に着手し、そこを美術品の収集や作家支援の拠点とし、茶を通した文化人たちとも交わりを愉しみ、自らは漢詩を読み、絵画を描きました。

画像の《白蓮》は三溪が好んで描いたモチーフです。三溪は蓮を好んで描きました。なんとも優しい色使いです。淡い色彩の中に厳かさも感じます。

原三溪《白蓮》 昭和6(1931)年、絹本淡彩・一幅
128.0 x 41.6 cm

第5章    パトロン三溪

古美術や茶道具の収集家としての三溪やアーティスト、茶人としての顔の他にもう一つ、同時代の美術家を支援するパトロンという顔があります。最初の援助を受けたとされる荒井寛方を始めとして、横山大観、下村観山、安田靫彦、今村紫紅、前田青邨、小林古径、速水御舟、牛田雞村、小茂田青樹ら当時を代表する日本画家だけでなく、平櫛田中、佐藤朝山ら彫刻家たちも支援していました。三溪は生活費や研究費の支給、作品の注文、購入に留まらず、豊富な古美術の収集品を実見する場を彼らに与え、共に議論するといる共同研究の機会も儲けたのです。これほど意気ある懐豊かな人がいるでしょうか。

重要文化財 下村観山《弱法師》上:右隻、下;左隻
大正4(1915)年、絹本金地着色・六曲一双、各186.4 x 406.0 cm
東京国立博物館蔵 Image :TNM Image Archives [展示期間8月9日~9月1日]

あらゆる時代の中からあらゆるジャンルで原三溪の眼に叶った逸品達が揃ってます。これほどの展覧会はこれから先に開催されるかどうか危ぶまれるので是非ご覧ください。また作品により展示期間が異なりますので、ご注意ください。

作品展示リスト

展覧会公式サイト

横浜美術館ホームページ

Yokohama Museum of Art Exhibition Website

開始日2019/07/13
終了日2019/09/01
エリア神奈川県
時間開館時間 10:00〜18:00、毎週金曜・土曜は20:00まで開館 入館は閉館の30分前まで
休日休館日 毎週木曜日
その他備考観覧料 一般1600円、大学・高校生1200円、中学生600円
開催場所横浜美術館
アクセス〒220-0012
神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
☎045-221-0300(代)
●みなとみらい線(東急東横線直通)「みなとみらい」駅〈3番出口〉から、マークイズみなとみらい〈グランドガレリア〉経由徒歩3分、または〈マークイズ連絡口〉(10時~)から徒歩5分。
●JR(京浜東北・根岸線)・横浜市営地下鉄「桜木町」駅から〈動く歩道〉を利用、徒歩10分。
https://yokohama.art.museum/visit/access.html