メスキータ Samuel Jessurun de Mesquita

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《ヤープ・イェスルン・デ・メスキータの肖像》
1922年、個人蔵 Photo: J&M Zweerts

東京ステーションギャラリーで開催中のメスキータ展のフライヤーに目を引かれました―エッシャーが命懸けで守った男。丁度1年前、上野の森美術館で開かれたエッシャー展、「ミラクル・エッシャー」が強烈に印象に残っていたので、そのエッシャーが命懸けで守ったメスキータとは誰なのだろうと、よく知らずに展覧会に足を踏み入れました。日本で初めてとなる回顧展です。かなりモダンなデザインや、暗示するような自画像、動物、妄想の作品など、どこか日本の版画に通じるようなものもあり興味深い作品が並んでいます。

サミュエル・イェスルン・デ・メスキータ(1868-1944)は、アムステルダムでポルトガル系ユダヤ人として生まれ、19世紀末から20世紀前半にかけてオランダで活躍した画家、版画家、デザイナーで、美術学校の指導者として教鞭をとり、教え子の中にだまし絵で有名なエッシャーがいたのです。日本の浮世絵などからも影響を受け、さまざまな技法を用いて個性的な版画を数多く制作しました。ユダヤ人であったメスキータは、1944年アウシュビッツで妻と共に亡くなり、アトリエに残された多くの作品を、エッシャーら教え子たちが決死の思いで救い出し、守り、戦後には展覧会を開催するなど顕彰に努め、今日までメスキータの名が残ることとなりました。これが先にあげたフライヤーの言葉「エッシャーが命懸けで守った男」の意味です。

本展を構成しているのはドイツ人収集家であるクリスティアン・オルトヴィン・ヴォルタース氏とマリア・ヴォルタース=へーインク氏のコレクションです。ヴォルタース夫妻は個人としては最大のメスキータ作品コレクターです。今年没後75年を迎えたメスキータの全貌と魅力を伝える展覧会となっています。

《メメント・モリ(頭蓋骨と自画像)》1926年、個人蔵 Photo: J&M Zweerts

第1章  メスキータ紹介

メスキータは1885年に国立美術工芸学校に入学したあと、1年後に国立師範学校に転籍、美術教員の資格を取りました。初期のメスキータは油彩や水彩、ドローイングなどを制作しましたが、1890年代以降は、エッチング、リトグラフ、木版画など様々な技法に挑戦しています。

生涯を通して制作した自画像は年齢を重ね、冷静に自分を描いています。特に骸骨と向き合うメスキータの深い首筋の皺が印象的です。

《サボテンと自画像》1926-29年、個人蔵 Photo: J&M Zweerts

第2章  人々

美術学校で教鞭をとっていたメスキータの有名な教え子はM.C.エッシャーです。エッシャーの初期の作品にはメスキータの影響が顕著に見られます。人物をモチーフにした版画作品は、特定の人物の肖像画の他、寓意的・象徴的な意味を持つ作品など多岐にわたりますが、明暗のコントラスト、シャープな線にアール・デコやモダン・デザインの時代を反映するなど、洗練しています。

《うつむく女》1913年、個人蔵 Photo: J&M Zweerts

《トーガを着た男》1923年、個人蔵 Photo: J&M Zweerts

版画の制作においては、工程の段階ごとに試刷りをし、さらに加えるべき線を検討するのが一般的で、最初の試刷りを第1ステートと呼び、以下最終ステートまで順に番号をつけていきますが、メスキータは作品によっては10点近くのステートを残しています。本展覧会では一つの作品をいくつかのステートと並列で展示しているので、メスキータがどのような仕上がりに持っていこうとしていたのかがわかります。

《ユリ》1916-17年、個人蔵
Photo: Martin Wissen Photography, Borken, Germany

《エクスタシー》1922年、個人蔵 Photo: J&M Zweerts

第3章  自然

動物や植物のモチーフの多くは、アムステルダムのアルティス動物園に取材したそうです。熱帯の植物やエキゾチックな動物など、オランダでは普通目にすることのないものです。この章の作品は、特に明暗の効果や線の美しさが際立っています。《シマウマ》の体の線と小屋の板壁の線が不思議なバランスをかもしだして、餌の藁と思われる線も無造作なようで計算されていることに感歎します。

《シマウマ》1918年頃、個人蔵
Photo: Martin Wissen Photography, Borken, Germany

《パイナップル》1928年、個人蔵
Photo: Martin Wissen Photography, Borken, Germany

《ワシミミズク》1915年、個人蔵 Photo: J&M Zweerts

第4章  空想

メスキータは多くの版画作品を制作するかたわら、膨大な数のドローイングも描いています。これらのドローイングは版画と違い、想念を思いつくままに描き連ねていきます。異国風のモチーフやユダヤ人の社会を反映したような作品、幻想やそれによって歪曲された人体など、現実と空想がないまぜとなってメスキータの独自の世界を築いています。

《ファンタジー:月を見上げる人》1914年、個人蔵 Photo: J&M Zweerts

《ファンタジー:稲妻を見る二人》1914年、個人蔵 Photo: J&M Zweerts

《ファンタジー:稲妻を見る二人》では明暗のコントラストがとても巧みで、右側から黒い髪、白い顔、その奥の黒い顔、室内の白、窓の黒と、それぞれ交互に重なって強めています。見事な構成とバランスです。

第5章  ウェンディンゲン

メスキータは「建築と友好」協会の会員として活動し、その主催する展覧会で出品しています。「建築と友好」協会は、建築にとどまらないすべての芸術を網羅し、メスキータは機関誌「ウェンディンゲン」の表紙を9回担当しています。ルドン風の幻想的なものから、アール・デコ風のものまで、木版やリトグラフなどの技法を用いて多彩です。

『ウェンディンゲン』表紙 1923年、個人蔵
Photo: Martin Wissen Photography, Borken, Germany

『ウェンディンゲン』表紙 1931年、個人蔵
Photo: Martin Wissen Photography, Borken, Germany

ウェンディンゲン誌の判型は、33x33cmの正方形で、開くと長辺が短辺の2倍になるスタイルは、日本の畳に想を得たということです。また紙の片方だけに印刷して二つ折りし、片側をラフィア(ヤシの繊維)で綴じる製本方法も、日本の和綴じが参考にされたそうです。

製本のスタイルのみならず、メスキータの版画を始め、日本の浮世絵に影響されたヨーロッパの画家や文化人達は時間を超えて芸術の交流をしているのだと思いました。

東京ステーションギャラリーホームページ

開始日2019/06/29
終了日2019/08/18
エリア東京都
時間開館時間 10時~18時(金曜日は20時まで、入館は閉館の30分前まで)
休日休館日 月曜日(7/15, 8/12は開館)、7/16(火)
その他備考入館料 一般1100円、高校・大学生900円、中学生以下無料
開催場所東京ステーションギャラリー
アクセス〒100-0005
東京都千代田区丸の内1-9-1
JR東京駅 丸の内北口 改札前 連絡先:03-3212-2485 http://www.ejrcf.or.jp/gallery/access.html