ルート・ブリュック 蝶の軌跡

kokoelmat

《ライオンに化けたロバ》1957年、
タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団蔵
Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection /
EMMA – Espoo Museum of Modern Art
©KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2531

ルート・ブリュック?聞き慣れない名前ですね。北欧・フィンランドを代表する陶芸家ですが、昨年、目黒区美術館の「フィンランド陶芸 ― 芸術家たちのユートピア」で展示されたものの、日本で本格的に紹介されるのは初めてではないでしょうか。この写真のクレジットにある「タピオ・ヴィルカラ」はフィンランド・デザインの巨匠でブリュックの夫、タピオ・ヴィルカラ(1916−1985)です。「ん、ヴィルカラ?」と思われましたか?越後妻有の大地の芸術祭で「全ての場所が世界の真ん中」や「ブランコの家」でアートファンの印象に残るマーリア・ヴィルカラは、ルート・ブリュックとタピオ・ヴィルカラの娘さんです。

そのルート・ブリュック(1916-1999)の回顧展が東京ステーションギャラリーで開催されています。

《蝶》1957年、タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団蔵
Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection /
EMMA – Espoo Museum of Modern Art
©KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2531

グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートしたブリュックは、1942年に、1873年創業のフィンランドの名窯・アラビア製陶所の「美術部門(アート・デパートメント)」に入所します。英国発のアーツ・アンド・クラフツ運動や世界中を席巻したアール・ヌーヴォーを経て、自国のアイデンティティに基づいたものづくりや芸術が巻き起こるなか、アラビア製陶所も海外の真似ではないフィンランド独自の芸術性を打ち出していかなければならない、と1932年に美術部門が開設されていました。

《ヴェネチアの宮殿:リアルト橋》1953年、
タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団蔵
Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection /
EMMA – Espoo Museum of Modern Art
©KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2531

陶芸の経験も知識もなかったブリュックはアラビア製陶所で技術を習得し、独自の釉薬や版画の技法を応用した型の技術を開発、巧みな釉薬技法とスタンプやエングレービングによる加飾でオリジナルの陶板をつくりました。果物や鳥、建物など日常的なモチーフを描いた陶板は、戦後のフィンランドの人々の生活に彩りを添え、1951年、イタリアのミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞するなど、高く評価されました。

《結婚式》1944年、タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団蔵
Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection /
EMMA – Espoo Museum of Modern Art
©KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2531

会場の作品を見るとまず非常に美しい青色が目につきます。《ヴェネチアの宮殿:リアルト橋》もそうですが作品全般の青色が深く透き通るようです。他の色合いもとても繊細な陶作品です。

《スイスタモ》(部分)1969年、
タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団蔵
Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection /
EMMA – Espoo Museum of Modern Art
©KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2531

以来、アラビア製陶所で50年に渡って活動しますが、1950年代後半以降は具象から抽象表現へと変化していきます。もともと建築家志望だったブリュックは、60年代からタイルピースを組み合わせた抽象的で立体的な作品へと移行し、市庁舎、銀行、教会、大統領邸など公共建築のための大型壁画を手がけます。膨大な数のタイルを組み合わせ、繊細でありながら力強いモザイク壁画は、技術と造形、色彩感覚を併せ持つブリュック作品の魅力です。

《黄金の深淵》1969年、タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団蔵
Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection /
EMMA – Espoo Museum of Modern Art
©KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2531

初期の愛らしい陶板から晩年の迫力あるモザイク壁画まで、重厚でエレガントな釉薬の輝きと、独自の自然観にもとづく繊細な図や形態は、今も多くの人々を魅了します。わたしたちにとってフィンランドはマリメッコやムーミンに代表される「明るく、かわいい」イメージですが、ブリュックの作品はナイーブでロマンティック、そしてどこか静かなパワーを溜めているように見えます。独自の文化や生命観をもつフィンランドの風土に根ざすブリュック作品によってプロトタイプなイメージが塗り替えられ、フィンランドについて知らなかったことの多いことを思わされます。

《母子》1950年、タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団蔵
Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection /
EMMA – Espoo Museum of Modern Art
©KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2531

ブリュックの残した膨大なタイルを使ったマーリア・ヴィルカラによるインスタレーション《心のモザイク――ルート・ブリュック、旅のかけら》も特別展示されています。

《色づいた太陽》1969年、タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団蔵T
apio Wirkkala Rut Bryk Foundation’s Collection /
EMMA – Espoo Museum of Modern Art
©KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2018 C2531

美術館ホームページ

公式サイト

ルート・ブリュック|Rut Bryk Photo: Tapio Wirkkala

開始日2019/04/27
終了日2019/06/16
エリア東京都
時間開館時間10:00~18:00(金曜日は20:00まで。入館は閉館30分前まで)
休日休館日 4月29日、5月6日、6月10日をのぞく月曜日、5月7日(火)
その他備考入館料 一般1100円/高校生・大学生900円/中学生以下無料
開催場所東京ステーションギャラリー
アクセス〒100-0005
東京都千代田区丸の内1-9-1
☎03-3212-2485
交通:JR東京駅丸の内北口改札前