日本刀の華 備前刀 Bizen Swords―The Flower of Japanese Swords

①s_古備前高綱太刀

重要文化財 古備前高綱太刀 鎌倉時代(12~13世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵

シンと静かな会場で、鋭利な刀に反射する光のなかに清冽な空気がよぎります。刀剣を観るなんて、その道の方か、刀剣女子でしょうか。しかし、武門の社会が始まって以来、武士がかけた自身の命や家、領地や一統も左右する重要な武器であり身を守る道具。近代まで日本の歴史に沿って長くその位置にいるのですから、もう少し知っておきたいと思っていました。静嘉堂文庫美術館で6月2日(日)まで開かれている「日本刀の華 備前刀」は、豊富な収蔵品により鎌倉時代以来の武将と実際の刀剣の関係を観ることができ、歴史に深みをもたらしてくれます。

朱塗鞘打刀拵(古備前高綱太刀付属) 桃山時代(16世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵

(画像をクリックすると拡大します。以下も同様。)

日本刀の主要製作地(山城・大和・備前・相模・美濃)のうち、備前(岡山県南東部)は、上質な原料や水運の利に恵まれ、平安時代より優れた刀工を輩出し、圧倒的な生産量を誇ったことから、今日「刀剣王国」と称されています。備前刀の特徴は、「腰反り」の力強い姿と、杢目を主体とした精緻な地鉄に、「丁子乱れ」と呼ばれる変化に富んだ刃文とされています。その豪壮にして華やかな作風は、鎌倉武士や戦国武将たちをはじめ、多くの人々を魅了してきました。この展覧会では、「備前刀の宝庫」として知られる静嘉堂の蔵刀を中心に、重要文化財4振、重要美術品11振を含む在銘作約 30振を精選し、「古備前」と呼ばれる備前刀初期の刀工群から、一文字・長船・畠田・吉井・鵜飼など各流派による作風の展開をたどっていきます。あわせて、江戸時代に幕府の御用をつとめた後藤家歴代とその門流(脇後藤)による刀装具を展示します。さらに国宝「曜変天目(「稲葉天目」)」が特別出品されています。

<静嘉堂の刀剣コレクションについて>
静嘉堂所蔵の刀剣は、創設者の岩﨑彌之助氏が、廃刀令直後の明治10年頃から蒐集したものを基礎に、息子の小彌太氏が拡充しました。彌之助氏による刀剣蒐集は生涯で数百振に及んだといいますが、なかでも蒐集にあたって助言や斡旋を行った刀剣鑑定家・今村長賀氏の影響もあって、備前の古名刀が多く蒐まりました。現在静嘉堂が所蔵する刀剣約120振のうち約 4割を備前刀が占めています。鎌倉時代を中心に南北朝、室町時代までをカバーし、重文4件、重美12件と質量ともに充実しており、静嘉堂は「備前刀の宝庫」として知られています。

冒頭に掲げた画像の「古備前高綱太刀」および附「朱塗鞘打刀拵」は織田信長の家臣・滝川一益が東国下向の折、信長より拝領したものといい、滝川家に伝来したそうです。鮮やかな朱鞘の打刀拵は戦国末期の様式を伝える作例です。

一文字や長船といった刀工集団が形成される以前、平安時代から備前に続いた刀工の一群を「古備前(派)」と呼びます。高綱は古備前成高の子で、元久年間(1204~06)頃の刀工と伝えられ、現存作は希少です。刃文は直ぐ調(刃文の抑揚が少なく直線的に見えること)の丁子乱れで、一見シンプルな 中に硬い鋼組織の作り出す細かな「はたらき」が変化に富んだ様子を見せる「沸え」(にえ)と呼ばれる微細な鋼の粒がきらきらと輝く肌とともに、古備前刀工の特色がいかんなく発揮された名作です。

重要文化財 嘉禎友成太刀 鎌倉時代・嘉禎3年(1237) 静嘉堂文庫美術館蔵

友成は日本刀初期(平安時代後期)の刀工の一人で、同時代の正恒と古備前鍛冶の双璧をなす名工として著名だそうです。しかし本作にはもと鎌倉時代前期の「嘉禎三秊」の年紀があったことが知られ、同銘の刀工が鎌倉前~中期に存在したことを物語ります。徳川将軍家とも縁の深い小石川伝通院に伝来しましたが、刀剣商により明治初期に流出しました。その際、より古い作に格上げするため、偽銘切りの名人・細田直光によって年紀銘が潰されました。

一文字守利太刀 鎌倉時代(13世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵

守利は弘長年間(1261~64)頃の福岡一文字派の刀工と伝えられます。本作の豪壮な姿や杢目鍛えで乱れ映り入りの地鉄、丁子乱れの華麗な刃文には、最盛期一文字派の特色が発揮されています。この太刀に金象嵌の所持銘をのこす本多平八郎忠為(忠刻、1596~1626)は、播磨姫路新田藩の初代藩主。徳川四天王の中でも武勇で名高い本多平八郎忠勝(1548~1610)の孫にあたり、眉目秀麗で知られたそうです。いわゆるイケメンですね。大坂夏の陣(1615年)では道明寺の戦いで武功をあげ、戦後、家康の孫娘・千姫(1597~1666)と結婚しました。このあたりは小説にもなっています。本作と同様に金象嵌で忠為の所持銘を入れた豪壮な太刀が他に3振程確認され、忠為が人並秀れた偉丈夫で、刀の鑑識にも優れた武将であったことが想像されます。前述の織田信長から滝川一益への拝領の高綱とか、本田平八郎所持の守利とか、歴史の中の人物が実際にこれらの太刀を持っていたかと思うとわくわくします。

十二支図三所物 伝 後藤乗真 室町時代(16世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵

刀剣を飾る金具―目貫・笄・小柄などの装剣金具を製作した金工の後藤家は、室町時代中期の足利義政以来、足利将軍家、戦国時代の織田信長、豊臣秀吉、そして江戸幕府260年の間、16代にわたって時の権力者に重用され、その作品は武家の装う金工のなかでも最高の格式をもつものとされてきました。わずか数センチの金具のなかに込められた武家の思想と美意識、そして伝統によって洗練されたデザインです。

乗真(1512~62)は、後藤宗家の3代目です。足利義晴、義輝と2人の将軍に、彫金製作と財政業務を兼ねた側近として仕えました。黒い銅合金に微細な丸を規則正しく打ち込んだ赤銅魚子地(しゃくどうななこじ)に、高彫り色絵を施す工法で、這龍、剣巻龍、蓬莱文、草木文などを彫った作例などが知られています。武将としても活躍し、剛勇の性格を有した乗真の作品は、大振りで力強く、額面いっぱいに彫られているのが特徴とされます。本作は十二支の動物を彫り込んだ三所物、無銘です。三所物は刀剣の外装(拵)に取り付ける金具で、柄の表裏を飾る一対の目貫、耳かきのあるへら状の笄、細工用の小刀の柄である小柄の三種を指します。目貫は子から巳までと午から亥までに分け、小柄は小口に向かって子から亥の順、笄は竿の方向に向かって子から亥の順に巧みに配置されています。室町時代の超絶技巧と言え、この小さい物に細かく繊細に作られていることに目を見張ります。そしてよくこの状態が維持され現代に残されたと感心します。

二疋狗図二所物 後藤栄乗 桃山~江戸時代(16~17世紀)
静嘉堂文庫美術館蔵

黄石公張良図鐔 上:表、下:裏 後藤 江戸時代(17世紀)
静嘉堂文庫美術館蔵

宗家5代徳乗の弟・長乗、徳乗の子・琢乗と休乗らが別家を創始したのが後藤の分家、すなわち「脇後藤」のはじまりです。元来京都に定住していた後藤家は、寛文10年(1662)、宗家10代廉乗の時に江戸に移りますが、分家の多くは京都にとどまり製作を続けました。その作風には、宗家に見られない華やかさ、自由さがあり、仕事にも優れた実力が認められました。

脇後藤の工人による「黄石公張良図鐔」は、中国の伝説に取材した謡曲『張良』の場面を表裏にあらわしています。秦の始皇帝の暗殺に失敗した張良(?~前168)は、橋の上で一人の老人(黄石公)に出会います。黄石公が張良の真心を試そうと、二度、河に沓を落とし、それを取りに下りた張良の前に大蛇があらわれます。張良は剣を抜いて大蛇に立ち向かい、沓を取りもどします。その礼として、張良は太公望の兵書を授けられるという物語です。本作では、表に橋上の黄石公、裏には張良と大蛇を描いています。

さらに、国宝・曜変天目(「稲葉天目」)が特別出品!!!

本展での公開が2019年の初お目見えとなります。今回は自然光のもとでの鑑賞を目して、美術館の庭園を望むラウンジスペースでの展示となります。朝・昼・夕方と日の光によって刻々と変化していく曜変の景色が楽しめます。

国宝 曜変天目 中国・南宋時代(12~13世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵

曜変天目は「建盞」、すなわち中国・福建省の建窯で焼かれた黒釉の碗の一種です。「曜変」 は日本での呼称で「容変」「窯変」と記されていたものに、輝きや光を意味する「曜」の字が当てられるようになったものです。その希少性と美しさによって、室町将軍家の東山御物の価値体系の中で喫茶用の茶碗として最高の評価が与えられました。伝存作は世界に三碗のみ。本品のほか大徳寺龍光院(京都)と藤田美術館(大阪)に所蔵され、全て国宝に指定されています。この自然光での曜変天目も美しいですが、個人的には室内で効果的にライトを当てた状態にも宇宙を感じます。どのようにライティングすれば美しく深く艶やかに見えるか研究しつくされ展示されるので、毎回の楽しみです。

美術館に入りましたら「図説・刀剣鑑賞の手引き」をまずお手にとって読むことをお薦めします。刀剣の説明が解りやすく書いてあり、より魅力を感じることになります。

また、関連イベントも鑑賞の手助けになると思います。

●講演会
各日午後1時30分~ 地階講堂にて 定員120名
4月21日(日)佐藤寛介氏(東京国立博物館 研究員)「備前刀―その歴史と魅力―」
5月26日(日)吉川永一氏(日本刀剣保存会 幹事)「静嘉堂の備前刀について」
※聴講は無料(入館料別)。当日の開館時より整理券配布(1名様につき1枚限定)。

●河野元昭館長のおしゃべりトーク
午後1時30分~ 地階講堂にて 定員120名
5月5日(日)「浦上玉堂―酒仙画家」饒舌館長 口演す
※聴講は無料(入館料別)。当日の開館時より整理券配布(1名様につき1枚限定)。

●職方実演会「日本刀にたずさわる職方の技」
5月18日(土) 午前10時~12時、午後1時~午後4時30分 地階講堂にて
実演:水野美行氏(日本刀鞘師)、小澤茂範氏(刀匠)、川上陽一郎氏(研師)
※観覧券(300円)は、当日受付にて販売(入館料別)。
日本刀制作にたずさわる職人(職方)たちのうち、刀匠・研師・鞘師をお招きし、刃文を焼く際の「土置き」や刀剣の研磨、鞘のかき入れ(削り出し)など、刀剣制作の工程の一部をご覧いただきます。

●展示内容・作品について担当学芸員が解説します。(展示室または講堂にて)
午前11時~:4月27日(土)・6月1日(土)
午後2時~  :5月9日(木)・5月23日(木)

静嘉堂文庫美術館ホームページ

開始日2019/04/13
終了日2019/06/02
エリア東京都
時間開館時間:午前10時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
休日休館日:毎週月曜日(ただし、4月29日・5月6日は開館)、5月7日(水)
その他備考入館料:一般1000円、大高生700円
開催場所静嘉堂文庫美術館
アクセス〒157-0076
東京都世田谷区岡本2-23-1
☎03-5777-8600(ハローダイヤル)
東急田園都市線二子玉川駅よりバスまたはタクシー、小田急成城学園前駅よりバスまたはタクシー。 http://www.seikado.or.jp/guide/access.html