岩﨑家のお雛さまと御所人形 ~桐村喜世美氏所蔵品受贈記念~

1s.「岩﨑家雛人形」のうち(内裏雛)五世大木平藏 昭和初期

「岩﨑家雛人形」のうち内裏雛(稚児雛)五世大木平藏製
桐村喜世美氏寄贈品 昭和初期
男雛:高30.5×横幅36.0cm 女雛:高25.0×横幅65.0cm

静嘉堂文庫の裏庭に水仙がすっきりと咲き誇り、紅白の梅がふくよかな香りを漂わせています。その庭がよく似合う「岩﨑家のお雛さまと御所人形」が展覧されています。美術館の方がお雛さまのファミリーヒストリーと呼ぶくらいに離散の憂き目にあったものが、奇特な収集家によって一つ一つ時間をかけて集められ元の完成形になり、岩﨑家ゆかりの静嘉堂文庫美術館に戻りました。

丸く愛らしい顔立ちに品格のただよう、幼児の姿をした内裏雛をはじめ、子供仕立てに作られたお雛さまは、昭和初期、三菱第4代社長の岩﨑小彌太(1879-1945)が夫人孝子のために、京人形司の老舗・丸平大木人形店の五世大木平藏に、特別に誂えさせたものです。豪華な装束の織りや染め、刺繡、金工など、精緻を尽くした工芸美が随所に見られるこの雛人形は、戦後散逸していましたが、京都福知山市の桐村喜世美氏により、段飾りの雛人形15体すべてと道具類の多くが奇跡的に集められました。本展は、雛人形の歴史を辿れるようにと、ともに寄贈された享保雛や御所人形、犬筥(いぬばこ)などを一堂に展示しています。

戻った岩﨑家のお雛さまは、特別仕様で、工芸として一級品です。

冒頭の内裏雛は、”皇太子”の御成婚仕立てです。男雛は「黄丹袍(おうにのほう)」という皇太子だけが着用を許される黄色の装束を着ています。地にある鳳凰文様もこの装束だからこそです。冠は立纓(りゅうえい:冠の纓[えい]が上を向いて立っているもので、江戸時代以降、天皇が用いたもの)のものを着用し、実際とは異なりますが、一番ご立派にということで最上位の冠になったのでしょう。ほかは皇室の有職故実に則った意匠で、本物さながらの高級素材で製作されています。女雛の紅梅地に牡丹の丸文の表着は、丸平大木人形店の御成婚雛の伝統衣装で、人形の頭はともに名人十二世・面庄による木彫り一品物。口に覗く歯の一本一本まで、象牙で作られています。この内裏雛の胴体は「三つ折れ」という、木彫り胡粉塗りの裸体に、関節を施した、立ち居自在の仕立てに作られています。

「岩﨑家雛人形」のうち三人官女 五世大木平藏製 桐村喜世美氏寄贈品 昭和初期
(クリックすると拡大します。以下同じ)

少女に近づけた姿が美しく、着物は白振袖の地文「向鶴菱文(むかいづるひしもん)」に刺繍を施してあり、色糸の組み合わせが上品です。

「岩﨑家雛人形」のうち五人囃子 五世大木平藏製 桐村喜世美氏寄贈品 昭和初期

「素袍(すおう)」と呼ばれる着物は、染めで二本線を白抜きとして残す「二引き(にびき)」という高度な技術によっています。5人のうち「大革(おおかわ)」と「太鼓」の顔色が力んでいるのでうっすらと赤くなっているところなど、とても芸が細かいです。「大革」とは大鼓(おおつづみ)の別称です。

「岩﨑家雛人形」のうち随身 五世大木平藏製 桐村喜世美氏寄贈品 昭和初期

また、岩﨑小彌太(卯年生)の還暦を祝ううさぎの冠をかぶった「木彫彩色御所人形」58体の一大群像 もみどころです。木彫りに丁寧な彩色を施した御所人形達で、色鮮やかなうえに可愛らしく、また美しくて、見ているこちらをとても幸せな気分にしてくれます。

「木彫彩色御所人形」のうち恵比寿と童 五世大木平藏製 昭和14年(1939)

「木彫彩色御所人形 制作時下絵」 紙本彩色3枚のうち 五世大木平藏製
昭和14年(1939)以前

「木彫彩色御所人形」は、昭和14年(1939)に岩﨑小彌太の還暦祝いとして孝子夫人が丸平大木人形店に特注したものです。頭が大きく可愛らしい御所人形スタイルにつくり、七福神が、鯛車曳き・楽隊、宝船曳き・輿行列・餅つきの子供たちに混ざって、卯年生まれの小彌太の還暦を寿ぐ構成に作られた、総勢58体からなる組物です。人形たち全てがうさぎの冠を被り、和服の人形は岩﨑家の家紋入りの衣装をまとっています。そのうち、宝船に乗る布袋様は恰幅の良かった岩﨑小彌太に、輿に乗る弁天様は孝子夫人に似せて作られたものといわれています。

「木彫彩色御所人形」 のうち「餅つき」 五世大木平藏製 昭和14年(1939)

「木彫彩色御所人形」 のうち「宝船の行列」 五世大木平藏製 昭和14年(1939)

どの人形一つをとっても愛らしく、”目出度い”感がよく現れています。実際に小禰太の還暦祝いは豪勢に行われたようで、その写真も展示されています。そのときの引き出物というかお土産も芸術品です。

今回の展覧会では桐村家からの寄贈品と岩﨑家旧蔵の人形コレクションの中から個性豊かな名品が展示されていますが、お雛さま以外の人形も優品が勢揃いしています。

「享保雛」  桐村喜世美氏寄贈品 江戸時代後期 男雛:高33.5㎝ 女雛:高28.8㎝

「享保雛」とは、江戸時代中期の享保年間(1716~1736)の頃から長く流行したとされる雛人形の様式です。静謐な笑みをたたえた能面のような表情、金襴や錦をふんだんに用いた豪華な衣装に特徴があります。実際の公家の装束を写すのではなく、あくまでも装飾的に仕立てていることから、主に富裕な町人たちの間で用いられた雛人形と考えられています。

「犬筥」  桐村喜世美氏寄贈品 江戸時代後期 左右ともに 高30.2×厚み26.8×長さ43.5㎝

犬筥は、雌雄一対の伏せた犬をかたどった張子製の容器で、江戸時代には上流の婚礼道具となり、魔除け・夫婦和合の象徴として新婚夫婦の枕元に置かれました。本品は全長43cmと非常に大きく、現存する江戸時代の犬筥のなかでも最大級のものであり、また極彩色の緻密な装飾のなかに特徴ある「牡丹紋」が描かれていることから、五摂家筆頭の近衛家の姫君ゆかりの品と推察されています

「立雛」(次郎左衛門頭) 江戸時代後期 男雛:高65.0㎝ 女雛:高46.5㎝

若い夫婦が寄り添う姿を象徴的に表現した「立雛」は、雛人形のなかでも最古の様式とされています。本品は「次郎左衛門頭(がしら)」と呼ばれるまん丸の顔立ちに特徴があります。このような丸顔の雛人形は、江戸時代、主に皇族や公家、大名家で愛好され、その呼称は丸顔を創作した人形師「御雛屋次郎左衛門」の名に由来しています。男雛の高さが65cmと現存する江戸時代の立雛のなかでも最大級のものであり、また保存状態も素晴らしい逸品です。

「御所人形 提灯持ち」桐村喜世美氏寄贈品 江戸時代後期 高33.0㎝(人形)、竿高63.0㎝

健康な幼児の愛らしさを、良く肥えた三頭身に近い姿にあらわした人形が「御所人形」です。その名はこのような人形が江戸時代の御所(宮中)において愛玩され、またしばしば祝い事の際に下賜されたことに由来しています。本品は身長33cmと御所人形のなかでは比較的大振りで、華やかな造花で飾られた祭礼の提灯を持ち、力強く立つ姿は、いかにもめでたさにあふれています。

「神武帝」二代永德齋 作 桐村喜世美氏寄贈品 明治末~大正時代 高38.2㎝(人形)

現在、端午の節句に飾る「五月人形」といえば、金太郎や桃太郎といった健康な男児を象徴する人形が主流ですが、江戸から昭和にかけては、歴史上・伝説上の英雄豪傑の姿をかたどった勇壮な人形が多数飾られていました。初代天皇である神武天皇をあらわした本品は、明治から昭和にかけて東京日本橋に四代を重ね、東京随一の人形店と称された「永德齋」の二代目、山川慶次郎 (1858~1928)の作品です。二代永德齋は特に武者人形を得意としただけに、本品も個性あふれる気迫に満ちた表情が魅力的です。

静嘉堂文庫美術館ホームページ

開始日2019/01/29
終了日2019/03/24
エリア東京都
時間開館時間 午前10時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
休日休館日 毎週月曜日(ただし、2月11日は開館)、2月12日(火)
その他備考入館料 一般1000円、大高生700円、中学生以下無料
開催場所静嘉堂文庫美術館
アクセス〒157-0076 東京都世田谷区岡本2-23-1
☎03-5777-8600(ハローダイヤル)