イサム・ノグチと長谷川三郎ー変わるものと変わらざるもの/Changing and Unchanging Things: Noguchi and Hasegawa in Postwar Japan

1csイサム・ノグチ書

イサム・ノグチ《書》1957年 鋳鉄、木、縄、金属、178.8x43.5x40.6cm
イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵
©The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum,
New York/ARS-JASPAR Photo: Kevin Noble

横浜美術館でイサム・ノグチと長谷川三郎の展覧会が3月24日まで開催されています。懐かしい思いと同時に新しさを感じる作品群で、これらの作品は半世紀も前に二人の芸術家が互いに触発、影響しあって生まれました。浅学な私はイサム・ノグチの名前は知っていても、長谷川三郎についてはほとんど知らず、この展覧会で初めて見て少なからず衝撃を受け、今まで知らなかったのを恥じるほどです。今回の二人の作品は見事な物ばかりでした。せっかく半世紀も前に日本美再発見と題して見事な作品を残しているのに、あまり知られていないのは残念で仕方ありません。是非横浜美術館に足を運んでみてください。

長谷川三郎《自然》1953年 紙本墨、拓刷、二曲屏風一隻、
各135.0x66.5cm 京都国立近代美術館蔵

日本の血を受け継ぎ、洋の東西を超えた世界的視野から芸術を再び人々の生活の中に根付かせようとした彫刻家イサム・ノグチ(1904-1988)と、画家として戦前日本の抽象美術をリードする一方、理論家として西洋近代美術の潮流と古い日本の芸術文化に通じ、両者の共通項を抽象芸術に見出した長谷川三郎(1906-1957)。この二人は戦後間もない占領下の東京で出会い、強い友情で結ばれました。同じ芸術を求めて共に旅し、研究し、助け合い、それぞれに新たな創造世界を切り拓いていった過程がわかる展示となっています。

イサム・ノグチ《捜す者、捜し出したり》1969年 玄武岩、94.0x100.3 x 49.8cm、
イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 ©The Isamu Noguchi
Foundation and Garden Museum, New York/ARS-JASPAR Photo: Kevin Noble

戦後、日本の美術界は新たな国際交流への復帰に日系アメリカ人のイサム・ノグチを歓迎し、来日したノグチは、画家猪熊弦一郎や建築家丹下健三、デザイナーの剣持勇らと出会います。その中で特に長谷川三郎の存在は特別大きな意義を持つことになります。ノグチと長谷川が共有した目標は「古い東洋と新しい西洋の統合」であり、二人の作品は伝統とモダン、固有のものと外からの影響、それらのバランスをどう美術の中に実現していくかという課題意識に特徴づけられています。

長谷川三郎《無題》1954年 紙本墨、138.8 x 70.0cm、
学校法人甲南学園 長谷川三郎記念ギャラリー蔵

詩人野口米次郎とアメリカ人作家・教師レオニー・ギルモアの子としてロサンゼルスに生まれたイサム・ノグチは、幼少期を日本で過ごした後、13歳で単身渡米、同地で彫刻家になることを決意して、1929年よりニューヨークを拠点に活動を開始します。肖像彫刻で生計をたてつつ、抽象彫刻、公園計画、舞台美術などを手がけました。1931年13年ぶりに来日し、京都奈良などを訪問、大戦中は日系人収容所に入所しながら公園などのデザインを手がけました。1949年より芸術と社会が結びついていた時代の遺構を求めて欧州、アジアを旅し、最終目的地として1950年に再来日。ここで長谷川三郎と出会います。桂離宮や龍安寺などを巡り、広島では平和大橋の欄干(1952年竣工)、原爆犠牲者のための慰霊施設(実現せず)をデザイン、同年に岐阜の提灯工場を訪ね、「あかり」のデザインを始めました。この「あかり」によってイサム・ノグチの名前が一般に広く知られるようになりました。

イサム・ノグチ《顔皿》1952年 陶、30.8x27.3x2.9cm、
イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵
©The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum,
New York/ARS-JASPAR Photo: Kevin Noble

《顔皿》は1951年に山口淑子と結婚し、北鎌倉で北大路魯山人の提供した古い農家を改修して住居兼アトリエとしていた頃の作品です。ノグチは「土と火の魔術」によって生まれる陶芸の実験に没頭しました。

また冒頭の《書》は岐阜で日本式の鋳鉄技術を用いて制作したことを機に手がけた鋳鉄を用いた彫刻です。平面に表されることがもっぱらの書というものものを、鋳鉄、木、縄、金属という異質な物を組み合わせて立体で表すとは面白いですね。《死すべき運命》は、彫刻における「重さのなさ」をテーマに、アルミニウム板やバルサ材を遣って制作された一連の作品の一つです。「重さのなさに意味を与えるのは重力である」と考えたノグチは軽量なバルサ材を支柱からだらりと垂れ下がるように吊り下げ、5本の棒が風にゆれるような姿は生命の儚さを感じさせる作品です。これは実物を見ないとその儚さを感じるのは難しいと思います。

イサム・ノグチ、1950年 撮影:三木淳
写真提供:イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)

画家長谷川三郎は、甲南高等学校在学中に小出楢重より油彩画を学び、東京帝国大学で美術史を専攻するなど、早くから実技と理論の研鑽を積みました。1929年より約3年間欧州に遊学して画家として生きることを決意、帰国後1936年から抽象的な油彩画を描き始め、「自由美術家協会」の創立にも参与しました。日中戦争から大戦終結期にかけて写真作品を手がけたほか、表現・言論統制が厳しくなると、俳句、禅、茶道を研究、戦後1947年には「日本アヴァンギャルド美術家クラブ」を結成し、制作活動を再開しました。1950年にイサム・ノグチと出会い、ともに出かけた関西旅行によって、抽象芸術と日本の伝統美の関係についての長年の考察に確信を得ます。まもなく油彩画から拓刷や水墨による表現へ移行、1954年には渡米し、日本ブームに湧くニューヨークで歓迎を受けました。一時帰国を経て1955年、サンフランシスコで教鞭を執るため移住し、1957年に50歳の若さで夭折するまで現地の若い芸術家に大きな影響を与えました。

長谷川三郎《無題》1954年 紙、リトグラフ、33.5x51.2cm、
ティア&マーク・ワッツ・コレクション Photo: Kevin Noble

《桂》という作品は、長谷川によれば、本作は前年にイサム・ノグチと桂離宮を訪問した際に受けた感銘が「発酵」を続け、はじめて形をとって現れたものだそうです。長谷川は蒲鉾板やポスターカラーを遣って「奇妙な白黒版画をつくり、並べあわせて屏風へと仕立てました。半世紀も前の作品にもかかわらずその斬新さには驚きます。

長谷川三郎、1956年頃
写真提供:学校法人甲南学園 長谷川三郎記念ギャラリー

本展のみどころとして、1950年代の日本美再発見があります。イサム・ノグチと長谷川三郎の出会いによって「古い東洋と新しい西洋」を結ぼうとした二人のその時代の作品を中心に、ノグチの陶や石の作品、長谷川の墨や拓本による絵画を通して、戦後の日本美術が進むべき道を切り拓こうとした彼らのヴィジョンに迫っています。また二人の代表作と日本初公開作品が多数です。ノグチの石の代表作で長らく門外不出であった《庭の要素》(1958年)や、渡米後に制作された長谷川の知られざる墨画やフォトグラムなど、日本初公開が多数展示されています。

今回の展覧会はイサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)と横浜美術館による共同企画で、出品作の大部分は横浜開催後、米国2館(ノグチ美術館[ニューヨーク]、アジア美術館[サンフランシスコ])に巡回します。また二人は神奈川ゆかりの作家でもあります。ノグチは幼少期に母親と茅ヶ崎に暮らし、1952年には北鎌倉にあった北大路魯山人の「田舎家」に新妻山口淑子と暮らしながら制作にはげみました。長谷川もまた、1949年より辻堂に暮らし、翌年にノグチと運命的な出会いを果たすことで新たな抽象表現へと進んでいきました。ノグチと長谷川は、ともに鎌倉の円覚寺で座禅を組んだり、辻堂海岸を歩いたそうです。1952年には神奈川県立美術館(現・神奈川県立近代美術館)で日本の美術館におけるノグチの最初の個展が開催されたことは神奈川の美術史においても特筆すべきトピックです。

展覧会特設サイト

Exhibition Homepage (e)

横浜美術館ホームページ

Yokohama Museum of Art Homepage (e)

 

開始日2019/01/12
終了日2019/03/24
エリア神奈川県
時間開館時間 10:00~18:00(入館は17:30まで)
2019年3月2日(土)は20:30まで(入館は20:00まで)
休日休館日 木曜日(2019年3月21日[祝]は開館)、3月22日(金)
その他備考チケット 一般1500円、大学・高校生900円、中学生600円、小学生以下無料、 65歳以上1400円
開催場所横浜美術館
アクセス〒220-0012
神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
☎045-221-0300
・みなとみらい線(東急東横線直通)「みなとみらい」駅〈3番出口〉から、マークイズみなとみらい〈グランドガレリア〉経由徒歩3分、または〈マークイズ連絡口〉(10時~)から徒歩5分。
・JR(京浜東北・根岸線)・横浜市営地下鉄「桜木町」駅から〈動く歩道〉を利用、徒歩10分。
https://yokohama.art.museum/visit/access.html
https://yokohama.art.museum/eng/visit/access.html