吉村芳生 超絶技法を超えて

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《SCENE 85-8》1985年、東京ステーションギャラリー

『吉村芳生 超絶技巧を超えて』展が、東京駅・丸の内北口改札前の東京ステーションギャラリーで1月20日まで開催されています。鉛筆による細密描写で知られる画家・吉村芳生の東京初となる回顧展です。1952年に山口県で生まれ、2013年に63歳で惜しまれつつ亡くなった吉村芳生の画業を全62件700点以上の作品で辿ることができます。

展示は「ありふれた風景」「自画像の森」「百花繚乱」の3部で構成されています。
入口近くの《365日の自画像》は、1981年7月24日から1982年7月23日まで、毎日、自分の顔を写真に撮り、それを鉛筆で描いた作品全365点の展示です。展示の右上が最初の、左の最下段が最後の作品です。9年の歳月を費やして描かれているので、日を追うごとに緻密さが増し、技術の上達が解ります。

《ドローイング 金網》(部分)1977年、個人蔵

同じフロアの《ドローイング 金網》は17メートルの作品です。完成まで70日間をかけ、描いた金網のマス目は18,545個です。一見すると金網の写真かと思いますが、近づいてみると、確かに鉛筆で描かれています。何故、何のために描かれたのか、この作品の前で考えてしまいました。この問いは会場を後にするまで続きました。

《ジーンズ》1984年、個人蔵

一見するとジーンズを拡大した写真のように見える作品ですが、制作の工程は、シーンズの写真を拡大したプリントの上に2.5mm方眼を鉛筆でひき、その明度を10段階に数字で書き、透明フィルムをその上に載せ、数字にあわせた斜線で埋めるという作業を経て描かれたものです。

街の風景などなにげないものを描いた作品もこのような作業から生み出されています。写真に写された明暗を数値化して、それを鉛筆で描き直すという行為が、吉村にとり、どのような意味を持つものであったのか興味は尽きません。

《ジーンズ》1983年、個人蔵

前掲の作品と同じ構図ですが、こちらの《ジーンズ》は、マス目ひとつひとつを紙に鉛筆で模写していった作品です。是非、実際の作品で細かい鉛筆の筆致跡をお確かめ下さい。

吉村の新聞に描かれた自画像には、自画像と新聞をどちらも描くタイプと、既存の新聞紙の上に自画像を重ねたものの2種類があります。今回の展覧会には2009年の《新聞と自画像》全364点をはじめ、《「3.11から」新聞と自画像》全8種、パリ留学時の《Self-portraits 1000 in Paris(パリの新聞と自画像)》全1,000点より、など、膨大な量の作品が展示されています。記事の内容と吉村の表情が関連しているように見受けられるものもあり、新聞の内容と自画像の両方を見ることをお奨めします。《「3.11から」新聞と自画像》は、震災の直後は新聞に自画像を描くことはできないと考えていた吉村が、「今、作品を作らねば後悔する」いう動機から、急遽、新聞社から3月12日からのおよそ1か月分の新聞を取り寄せ、その紙面に8種類の自画像をシルクスクリーンで刷り込んだものです。この作品群は明らかに、記事の内容と吉村の表情に係りが見られます。

《バラ》2004年、みぞえ画廊

第3部「百花繚乱」では、それまでのモノトーンの作品から一変して、色鉛筆による作品が並びます。図録の解説によると、吉村は花について「永遠に繰り返す命のような世界、浄土のような感じ」として「あの世を描いている」と語ったそうです。緻密に描きこまれた作品からは、花の命と吉村が費やした時間の双方が今にも溢れ出てくるような迫力を感じました。《無数の輝く命の捧ぐ》に描かれた藤の花のひとつひとつは震災で亡くなった方の魂だと思って描いたそうです。作品の右側に向かうにつれ色彩を失い、靄に消えていくような藤の花に吉村の犠牲者を悼む声が重なるようです。

《無数の輝く生命に捧ぐ》2011-13年、個人蔵
(クリックすると拡大します)

中国・四国地方以外の美術館では初めて開催される吉村芳生の個展で、初期から晩年までの代表作を鑑賞できる機会です。吉村芳生の名前は広く知られていませんが、膨大な時間を費やして制作され、写実も超絶技巧も超越した驚きの作品の数々をぜひご覧ください。

東京ステーションギャラリーホームページ

開始日2018/11/23
終了日2019/01/20
エリア東京都
時間10:00-18:00(金曜日は20:00まで)
*入館は閉館の30分前まで
休日月曜日(12月24日、1月14日は開館)、 12月25日(火)、12月29日(土)-1月1日(火・祝)
その他備考一般900円、高校・大学700円、中学生以下無料
開催場所東京ステーションギャラリー
アクセス〒100-0005
東京都千代田区丸の内1-9-1
℡ 03-3212-2485
JR東京駅 丸の内北口 改札前
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/access.html