フェルメール展 Making the Difference: Vermeer and Dutch Art

1牛乳を注ぐ女

ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》1658年-1660年頃
アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum.
Purchased with the support of the Vereniging Rembrandt, 1908

泣く子もだまる、じゃないですが、数ある展覧会の中でも文句のつけようのない筆頭の一つがフェルメール展ではないでしょうか。現存する作品はわずか35点とも言われているフェルメールの作品は、手紙を書く女性や、室内で歓談する男女など、人々の日常を題材とする風俗画を、吟味された構図で、優しく穏やかな光の表現を緻密な筆遣いでなし、絵画のなかの絵画と言えます。オランダ絵画の黄金時代にあってなお圧倒的な絵画です。

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く婦人と召使い》1670-1671年頃
アイルランド・ナショナル・ギャラリー
Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection)
Photo © National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4535

ミステリアスな緊張感をたたえた静謐な空間、光の粒子までをも捉えた独特な質感のヨハネス・フェルメール(1632-1675)の作品は、世界屈指の人気を誇りますが、熱狂ぶりが始まったのは、実は近年になってのことで、1995-96年に米国ワシントンとオランダのデン・ハーグで開かれた「フェルメール展」に端を発します。

ヨハネス・フェルメール《手紙を書く女》1665年頃
ワシントン・ナショナル・ギャラリー
National Gallery of Art, Washington, Gift of
Harry Waldron Havemeyer and Horace Havemeyer, Jr.,
in memory of their father, Horace Havemeyer, 1962.10.1

日本では2000年に初のフェルメール展が大阪市立美術館で開かれました。この「フェルメールとその時代」展でわたしも初めて作品を実際に観ることができ、フェルメールの名も一気に広がりました。その後、フェルメール作品を目玉とするコレクション展が相次いで開催され、2008年に東京都美術館で開かれた、当時最多となる7点もの作品を集めた「フェルメール展」が記憶にある方もいらっしゃるでしょう。

ヨハネス・フェルメール 《赤い帽子の娘》1665-1666年頃
ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington,
Andrew W. Mellon Collection, 1937.1.53  ※12月20日(木)まで展示

今回は9点までが東京にやってくる、日本美術展史上最大の「フェルメール展」です(期間限定展示含む)。チラシには「VERMEER 8/35」の「8」を赤でバッテンして「9」とナゾの数字。もうおわかりですね。でも9点同時に展示されることはありません。

ハブリエル・メツー《手紙を読む女》1664-1666年頃
アイルランド・ナショナル・ギャラリー
Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection)
Photo © National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4537

その熱狂を思うと混雑が心配になりますが、日時指定入場制を採用し、ほぼ毎日20時30分まで開館しています。平日の夕方から夜にかけての入場がオススメです。

ピーテル・デ・ホーホ《人の居る裏庭》1663-1665年頃 アムステルダム国立美術館
Rijksmuseum. On loan from the City of Amsterdam (A. van der Hoop Bequest)

会場は、いつもとは逆に、まず2階に上って17世紀オランダ絵画を見てから、1階でフェルメール作品とご対面という構成です。

ヤン・ステーン《家族の情景》1665-1675年頃 アムステルダム国立美術館
Rijksmuseum. On loan from the City of Amsterdam (A. van der Hoop Bequest)

さすがに黄金時代と言われる17世紀オランダ絵画には独特の味があります。フェルメールと構図が共通のハブリエル・メツー、レンガ造りの建物に複数の人物を屋外に配置するピーテル・デ・ホーホ、ヤン・ウェーニクスの《野ウサギと狩りの獲物》のウサギの白いお腹のふわふわな毛並みや、鳥の羽根の質感ときたら!見ることで触っているように思えます。これらフェルメールの時代の社会や、風俗、状況や背景をここでたっぷり吸い込むと、いよいよ1階の「フェルメール・ルーム」が待っています。

ヨハネス・フェルメール《マルタとマリアの家のキリスト》1654-1655年頃
スコットランド・ナショナル・ギャラリーNational Galleries of Scotland,
Edinburgh. Presented by the sons of W A Coats in memory of their father 1927

最初期の《マルタとマリアの家のキリスト》から、《ワイングラス》《リュートを調弦する女》《真珠の首飾りの女》《手紙を書く女》《手紙を書く婦人と召使い》《取り持ち女》(1/9からの展示)の順で並び、《牛乳を注ぐ女》で終わります。作品数が少ないこともあってフェルメールというと一つのパターンを想起しますが、こうして制作時期の違う作品を並べてみると、作風も一様ではなく、フェルメールの進化を目の当たりにできます。

ヨハネス・フェルメール《ワイングラス》1661-1662年頃 ベルリン国立美術館
© Staatliche Museen zu Berlin, Gemäldegalerie / Jörg P. Anders

冒頭画像の《牛乳を注ぐ女》が、今回いちばんの目玉ということでトリを務めています。好みは別ですが、それには異論はないでしょう。入っている麦の種類も特定できそうなパンの表面、用心しすぎじゃないかと思うほど注意深くピッチャーからお鍋に注がれ、流れる小さな音が聞こえるような牛乳、そのピッチャーを持つ女性の先が日焼けしたたくましい腕、窓から差すやわらかな陽を受けて注意を牛乳に注ぐ女性の汚れや縫い目まで描き込まれた衣服、持ち上げればかさかさという音と金属音をたてそうな壁にかけられたバスケットと金メッキの容器、釘が打たれた痕の残る壁、などなど室内の空気がわかるほどどこからどこまでも克明に描きこまれた完璧な絵画です。これまで図版では、農婦かお手伝いさんと思われる女性はつまらなさそうにいつもの仕事をしているように見えていたのですが、実際の作品に近づいて見ると、ささやかな笑みが現れ、いとおしむように牛乳を注いでいるように見えたのは、観る者の動揺のせいでしょうか。

ヨハネス・フェルメール《リュートを調弦する女》1662-1663年頃
メトロポリタン美術館 Lent by the Metropolitan Museum of Art,
Bequest of Collis P. Huntington, 1900 (25.110.24).  Image copyright
© The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY

絵画が貴人のものであった時代に、家の中の取るに足らない情景を、これほどの圧倒的な存在感で表したフェルメールはやはりナミの画家じゃないと思います。フェルメールとその時代の名品をじっくり味わってください。

ヘラルト・ダウ《本を読む老女》1631-1632年頃 アムステルダム国立美術館
Rijksmuseum. A.H. Hoekwater Bequest, The Hague, 1912

公式サイト

開始日2018/10/05
終了日2019/02/03
エリア東京都
時間9:30~20:30 1月1日(火・祝)〜2月3日(日)は9:00〜20:30(入場は閉館の30分前まで)。
※開館・閉館時間が異なる日があります。詳しくは公式サイトでご確認ください。
休日休館日 12月13日(木)
※会期中、一部作品の展示替えがあります。「赤い帽子の娘」10/5(金)〜12/20(木)、「取り持ち女」1/9(水)〜2/3(日)
その他備考入場料:当日日時指定券一般=2,700円、大高生=2,000円、中小生=1,200円
*日時指定入場制
*未就学児は無料
開催場所上野の森美術館
アクセス〒110-0007 東京都台東区上野公園1-2
・JR上野駅 公園口より徒歩3分
・東京メトロ・京成電鉄 上野駅より徒歩5分
お問合せ:0570-008-035(オペレーター対応:9:00~20:00)
http://www.ueno-mori.org/about/