ルーベンス展ーバロックの誕生 RUBENS and the birth of the Baroque

10(3)cマルスとレア・シルウィア

ぺーテル・パウル・ルーべンス《マルスとレア・シルウィア》1616-17年
油彩/カンヴァス ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション
©LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

王の画家にして、画家の王といわしめたルーベンス展です。

どの展示室も迫力のある大作で充たされ、観る者を圧倒的する展覧会です。さすがにルーベンスと感嘆するばかり。ペーテル・パウル・ルーベンスの名は、日本では名作アニメ『フランダースの犬』によって知られていますね。主人公ネロ少年が一目見たいと望み続け、最終回にはその絵の前で愛犬パトラッシュとともに亡くなってしまう、聖母大聖堂の祭壇画の作者です。それほどルーベンスは、バロックと呼ばれる壮麗華美な美術様式が栄えた17 世紀ヨーロッパを代表する画家であり、後に「王の画家にして画家の王」と呼ばれた存在です。この展覧会ではルーベンスを、イタリアとのかかわりに焦点を当てて紹介しています。

ぺーテル・パウル・ルーべンス《聖アンデレの殉教》1638-39 年 油彩/カンヴァス
マドリード、カルロス・デ・アンベレス財団 Fundación Carlos de Amberes, Madrid

なぜイタリアなのか?イタリアは古代美術やルネサンス美術が栄えた地であり、バロック美術の中心地もローマでした。また、当時はローマがヨーロッパの政治の中心でもありました。フランドルのアントウェルペンで育ったルーベンスは、幼いころから古代文化に親しみ、イタリアに憧れを抱きます。そして1600年、ついに彼はイタリアの土を踏み、08年まで滞在してこの地の美術を吸収することで、自らの芸術を大きく発展させたのです。フランドルに帰郷後も彼はたえずイタリアの美術を参照し、また手紙を書くときはイタリア語を用いるなど、心のなかにイタリアを保ち続けました。一方で、若い頃からきわめて有能だったルーベンスは、イタリアの若い画家たちに多大な影響を与え、バロック美術の発展に拍車をかけたと考えられます。ジョヴァンニ・ランフランコやジャン・ロレンツォ・ベルニーニ、ピエトロ・ダ・コルトーナといった盛期バロックの立役者となった芸術家たちは、ルーベンス作品との出会いによって表現を羽ばたかせた可能性があります。また17世紀末のルカ・ジョルダーノらは、ルーベンスから多くの刺激 を受けました。

本展ではルーベンスの作品を、古代彫刻や彼に先行する16世紀のイタリアの芸術家の作品、そして同時代以降のイタリア・バロックの芸術家たちの作品とともに展示します。ルーベンスがイタリアから何を学んだかを見るとともに、彼とイタリア・バロック美術との関係を解き、ルーベンスとイタリア・バロック美術の双方向の影響関係に焦点を当てています。

ぺーテル・パウル・ルーべンス《ヴィーナス、マルスとキューピッド》
1630年代初めから半ば 油彩/カンヴァス
ロンドン、ダリッジ絵画館 Lent by Dulwich Picture Gallery, London.

ルーベンス(1577-1640)はスペイン領ネーデルラント(現在のベルギー、ルクセンブルクを中心とする地域)のアントウェルペンで育ちました。由緒ある家柄の息子だったため、宮廷人となるべく高度な教育をほどこされましたが、画家への思い捨てがたく、修業を始めます。修業を終えると1600年から08年までイタリアに滞在し、古代美術やルネサンスの美術を咀嚼しつつ、当時の最先端の美術を身につけた画家に成長しました。アントウェルペンに戻ったルーベンスはこの地を治める総督夫妻の宮廷画家となり、大規模な工房を組織して精力的に制作に励みましたが、一方で外交官としても活動します。彼はスペインやイギリスなどに赴き、当時戦乱のさなかにあったヨーロッパに平和をもたらすべく、奔走しました。その際も各地の宮廷のコレクションを熱心に研究し、自らの制作に役立てました。彼は光と動きにあふれる作品によって、当時ヨーロッパで流行したバロック美術を代表する画家となっています。外交官としても活動していたとは驚きです。

各会場毎に副題を掲げて迫力ある展開になっています。図録にある説明を参考に会場説明いたします。またその会場入口の前に4Kシアターがありアントワープ聖母大聖堂の祭壇画を“ほぼ原寸大”で再現されているのも見ものです。

Ⅰ ルーベンスの世界

ぺーテル・パウル・ルーべンス《眠るふたりの子供》1612-13 年頃 
油彩/板 東京、国立西洋美術館

ぺーテル・パウル・ルーべンス《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》
1615-16 年 油彩/板で裏打ちしたカンヴァス
ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション
©LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

ルーベンスが間近に迫って見る人を圧倒していく第一歩です。《眠るふたりの子供》の子供は早世した兄フィリプスの子供たちと考えられています。ルーベンスは兄ときわめて仲が良く、兄亡きあとは甥と姪の後見人となっています。二人とも天使のようで、幼いふたりに対する愛情が感じ取れます。《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》は、最初の妻との間に生まれた長女クララ・セレーナの肖像画で、彼女が見せる天真爛漫な笑顔は、父との親密さを物語っています。家族を描いたものから公的な肖像画まで様々な性格を幅広く表現しています。

Ⅱ 過去の伝統

ぺーテル・パウル・ルーべンスと工房《セネカの死》1615 / 16年
油彩/カンヴァス マドリード、プラド美術館
©Madrid, Museo Nacional del Prado

ルーベンスがイタリアで最初に滞在したのはヴェネツィアでヴェネツィア派の色彩感覚や構図法から大きな影響を受けましたが、もっとも重要だったのはローマ滞在でした。ここで古代彫刻の研究に力を注ぎました。《セネカの死》はローマで目にした彫刻をほぼそのままの形で画中に引用しています。セネカはルーベンスも属したアントウェルペンの知的サークルにおいて、模範とされる哲学者でありました。

この展示室では古代彫刻や16世紀の作品のルーベンスによる模写、そして、先行する時代の作品を研究した成果を如実に示すルーベンスの作品を展示しています。

Ⅲ 英雄としての聖人たち ― 宗教画とバロック

ぺーテル・パウル・ルーべンス《キリスト哀悼》1601-02年 
油彩/カンヴァス ローマ、ボルゲーゼ美術館
Ministero dei beni e delle attività culturali e del turismo – Galleria Borghese

ルーベンスが生きた時代のヨーロッパはカトリックとプロテスタントが激しく対立し、カトリック側は宗教画像に様々な決まりごとや方針を設け、わかりやすくリアルで信者の感情に訴えかけるよう求めました。ルーベンスは男性聖人は古代世界の英雄のように雄々しく、聖女は古代ローマの貴婦人のように描き、画面にはダイナミズムを溢れさせ、カトリックの要請に沿いつつ、宗教画に快楽的かつ古典的な性格を与え、革新を示しています。

Ⅳ 神話の力 1 ― ヘラクレスと男性ヌード

ルーベンスは宗教画において古代世界の英雄のような聖人を描きましたが、神話の世界を描くときは想像力を駆使して、肉体を立方体に置き換えてみたり、あるいは顔を牡牛や獅子と比較してみたりして造形の秘密を解き明かそうとしてようです。とにもかくにもヘラクレスに魅了されていたようです。

Ⅴ 神話の力 2 ―ヴィーナスと女性ヌード

理想の男性がヘラクレスなら女性の理想はヴィーナスです。ルーベンスはヴィーナスを描く際もローマの古代彫刻を参考にしています。《バラの棘に傷つくヴィーナス》は16世紀の彫刻家ジャンボローニャが制作した古代風のブロンズ彫刻に基づく作品です。《スザンナと長老たち》は2作出ているので比較してみたりするのも面白いかもしれません。

Ⅵ 絵筆の熱狂

ぺーテル・パウル・ルーべンス《パエトンの墜落》
1604-05年頃、おそらく1606-1608年頃に再制作
油彩/カンヴァス ワシントン、ナショナル・ギャラリー
National Gallery of Art, Washington, Patron’s Permanent Fund, 1990.1.1

ルーベンスの芸術はしばしば「普遍的」と説明されますが、この普遍的というのは、統一的かつ総合的な性格のことで、画面に描き込まれたさまざまなものが、全体として生き生きとして美しく見えるということであります。その秘訣は色彩とそれを画面に与える素早い熱狂的な筆使いにありました。いみじくも17世紀の美術評論家ベッローリは「絵筆の熱狂」という言葉でルーベンスの絵画を説明しています。

この展示室に並んでいる作品群はその熱狂で、力と力がぶつかり合い、動きに溢れ、人間と馬、武具が絡み合う場面がよく表されています。《パエトンの墜落》はその好例です。

Ⅶ 寓意と寓意的説話

ぺーテル・パウル・ルーべンス《ローマの慈愛(キモンとペロ)》
1610-12年 油彩/カンヴァス(板から移し替え)
サンクトペテルブルク、エルミタージュ美術館
Photograph © The State Hermitage Museum, 2018

ぺーテル・パウル・ルーべンス《エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち》
1615-16 年 油彩/カンヴァス 
ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション
©LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

ルーベンスに作品を注文した人々は彼と教養を共有していたので、画面に描きこまれる象徴の意味を理解することができました。ルーベンスはしばしば寓意画を描いていますが、一見すると物語画でありながら寓意的な仕掛けが施された作品も多いようです。《ローマの慈愛(キモンとペロ)》は獄中で食べ物を与えられない父親に娘が乳房を吸わせるという物語画でありながら、慈愛と親孝行の寓話です。冒頭から3つ目の《ヴィーナス、マルスとキューピッド》では家族愛や平和の、《エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち》では神話でありつつ、豊穣の寓意です。

ルーベンスの作品の中には、今も聖堂に飾られており、その大きさそして尊さ故、日本には輸送できない多くの傑作があります。その中には、あの『フランダースの犬』でネロとパトラッシュが最期に見た、アントウェルペンにある聖母大聖堂の《キリスト昇架》、《キリスト降臨》、《聖母被昇天》。さらに重要な作品として、彼がイタリア滞在の最後に描き、滞在中の研究の集大成であるとともに、その後のローマ美術に多大なる影響を及ぼした、ローマにあるサンタ・マリア・イン・ヴァリチェッラ聖堂の主祭壇にかかる3枚の超大作があります。今回西洋美術館ではそれらの魅力を日本に伝えるべく、それぞれの作品4Kカメラで撮影、さらに聖母大聖堂では展覧会向けとしては初の「極上音質」による音の収録を敢行。国立西洋美術館内ロビーにて、ほぼ原寸大に近い大きさで、聖堂内の空気感そのままを完全再現することに挑戦しています。

《聖母大聖堂》ベルギー・フランダース政府観光局提供

今秋、『フランダースの犬』完結版放送決定!

『フランダースの犬』は、ウィーダ(ルイズ・ド・ラ・ラメー)原作のテレビアニメーションシリーズで、1975年1月5日から12月28日まで放映されました。ルーベンスは、画家を目指す主人公ネロの憧れの存在として描かれています。ネロとパトラッシュが、ルーベンスの大作《キリスト昇架》の目前で亡くなった最終話の視聴率は、30.1%(ビデオリサーチ・関東地区調べ)を記録しました。「フランダースの犬〜完結版〜」はCS TBSチャンネル 11/17(土)14:30〜16:00放送です。いまなお多くの人の記憶に残る『フランダースの犬』のネロのように、本企画を通じてルーベンスに想いを馳せてみませんか?

《フランダースの犬》© NIPPON ANIMATION CO., LTD.

 

展覧会特設サイト

国立西洋美術館ホームページ

開始日2018/10/16
終了日2019/01/20
エリア東京都
時間開館時間:9:30~17:30 (金曜土曜は20:00まで、ただし 11/17は17:30まで)入館は閉館の30分前まで
休日休館日:月曜日(ただし12/24,1/14は開館) 12/28~1/1,1/5
その他備考観覧料 一般1600円、大学生1200円、高校生800円、中学生以下は無料
開催場所国立西洋美術館
アクセス〒110-0007
東京都台東区上野公園7番7号
JR上野駅下車(公園口出口)徒歩1分
京成電鉄京成上野駅下車 徒歩7分
東京メトロ銀座線、日比谷線上野駅下車 徒歩8分
https://www.nmwa.go.jp/jp/visit/map.html