芳年 激動の時代を生きた鬼才浮世絵師

4s《義経記五條橋之図》明治14年(1881)

《義経記五條橋之図》明治14年(1881)

月岡芳年(天保10年~明治25年・1839~92)の展覧会が練馬区立美術館で開かれています。浮世絵と言えば、春信、歌麿、広重、国芳、国貞、暁齊あたりは出展が頻繁で、大規模な展覧会もあるのですが、どうも芳年については目に触れる機会がなかったので、かねて見たいと思っていました。

月岡芳年は江戸末期の生まれ、12歳で歌川国芳に入門。幕末は武者絵を中心に、美人画、戯画など師に倣った作品でスタートします。最も初期の作品として展示されている《文治元年平家の一門亡海中落入る図》は三連続きの大判絵で、片側に二位尼、安徳天皇や女官たちが心配そうに肩寄せ、まるで轟音が聞こえてきそうなうねる風と波の画面の中には、斬られ、事絶え、飛ばされる武者たち、そして中央上部に若武者平知盛が凛々しく描かれています。矢がささり、返り血を浴びたヒーローが一人でたちむかうスペクタクルな場面です。これが14歳の時の作品ですから、まるできりりと口をむすんだ知盛が絵師と重なって見えます。あふれる才能は、早いうちから美人画、役者 絵、戯画、に多彩な表現にその実力を見せたようです。

《一魁随筆 西塔ノ鬼若丸》 明治 5-6 年(1872-73)

芳年は、「血みどろ絵」や「無惨絵」という言葉でその作品の特徴を表されているのですが、それらがどういう絵なのかということも不足なく展示されています。兄弟子の歌川芳幾とそれぞれ14 枚を手掛けた《英名二十八衆句》(えいめいにじゅうはっしゅうく)は、全28枚が展示されていますが、歌舞伎や講談でよく知られた刃傷沙汰で、刀でぐっさりとやられているシーンです。南北朝時代から江戸時代初期までの軍紀物や幕末の戦いを題材とした《魁題百撰相》(かいだいひゃくせんそう)は説明つきの人物画ですが、13点が出品され、その半分くらいは血のしたたる生首とともに描かれ、残りは刀や銃で自刃するショッキングな場面です。どちらも確かに血みどろな絵です。

《英名二十八衆句 稲田九蔵新助》 慶応三年(1867)

その後は少数の作品で血が描かれてはあるものの、歴史上の人物や物語を主題にした作品が多く、「血みどろ絵」はありません。《英名二十八衆句》は1966年、《魁題百撰相》は1968年の作品ですから、40年近い画業で多くの作品を残したのに2年における作品で特徴付けてしまうのは違和感がありますが、それまで浮世絵になかった血の場面が、見る人には衝撃的だったせいかもしれません。

では芳年作品の特徴は、と言えば、「動き」ではないでしょうか。江戸の浮世絵は人物画でも風景画でもおだやかですよね。芳年作品は前述のデビュー作に限らず躍動感あふれています。戦いの場面なら風が吹き、高波が打ち寄せ、馬が跳ね、身体ごとエイっと一気に刀を振り下し、真剣勝負です。美人画は伝統的な浮世絵美人の顔立ちですが、ポートレイトとして画面に収まっているというより、腕を上げ、身体をよじり、八百屋お七であれば、行き先の見えない若竹のハシゴをのぼり、夜空に燃え上がる火に大きくめくり上がった着物の裾から見える白い足と、恋いこがれた相手を想うのか憂い表情が印象的です。動きの瞬間を切り取った画面(場面)はとてもドラマチックです。

動きとともに芳年を江戸の浮世絵と区別するのは、浮世絵に写実性がもたらされたことでしょう。真に迫った動きのある場面は、正確な身体の描写が出来なければ描けません。

《皇国二十四功 佐藤四郎兵衛忠信》 明治 14 年(1881)

芳年が生きたのは、江戸から明治へ大きく世の中が変わる時代でした。1968年は明治元年、「血みどろ絵」は260年続いた天下太平の世に、多くの戦いがもたらさせた時期に描かれています。明治に入ると新聞が発行されますから、絵師にもその時・その場面を伝える(歴史上の想像の場面であっても)リアリティーが求められ、また洋画がもたらされたことによる影響もあったでしょう。17世紀に始まる浮世絵の歴史では終わりの頃に位置する芳年の作品を見ると、浮世絵らしく世相を反映しつつ、また時代の求めるものをカタチにしているように思われます。

師匠ゆずりの江戸の浮世絵の伝統を保ちつつ、新しい時代に沿った表現を提示した芳年は「最後の浮世絵師」の名にふさわしい絵師だと思います。

展示総数は約260点。これだけの作品が集まるのは西井コレクションによるものです。見応えのある展示をご堪能ください。

《風俗三十二相 うるささう 寛政年間 処女之風俗》明治 21 年(1888)

練馬区立美術館ホームページ

 

開始日2018/08/25
終了日2018/09/24
エリア東京都
時間午前10時~午後6時 入館は午後5時30分まで
休日月曜日 ただし、9月17日(月・祝)は開館、18日(火)は休館。
その他備考一部展示替えあり(入れ替えは約30作品)
前期 8月5日(日)~8月26日(日)、 後期 8月28日(火)~9月24日(月・休)
観覧料:一般1,000円、高・大学生および65~74歳800円、中学生以下および75歳以上無料、障害者(一般)500円、障害者(高校、大学生)400円
ぐるっとパスご利用の方500円(年齢などによる割引の適用外になります)
*一般以外のチケットをお買い求めの際は、証明できるものをご提示ください。
*障害をお持ちの方の付き添いでお越しの場合、1名様までは障害者料金でご観覧いただけます。
開催場所練馬区立美術館
アクセス〒176−0021 東京都練馬区貫井1−36−16
TEL 03−3577−1821
西武池袋線中村橋(池袋駅より6駅目約16分、東京メトロ有楽町線・副都心線直通 / 都営大江戸線 練馬駅乗り換え 石神井公園方面へ1駅)下車 徒歩3分
https://www.neribun.or.jp/access/museum.html