特別展 金剛宗家の能面と能装束 Special Exhibition Noh Masks and Costumes from the Kongo School Family

16s 重要文化財 小面(花の小面) 伝龍右衛門作 室町時代

重要文化財 「小面(花の小面)」 伝龍右衛門作 室町時代
三井記念美術館蔵

東京日本橋にある三井記念美術館で、京都の金剛流宗家が所蔵する能面と能装束の展覧会が開催されています。東京における美術館では初めての展示で、多くの出品作が初公開です。なかでも小面(こおもて)という女面では豊臣秀吉が愛蔵したという龍右衛門作の三面が「雪・月・花」の愛称で知られていますが、そのうちの「雪の小面」が出品され、これに合わせ、三井記念美術館所蔵の旧金剛宗家伝来の「花の小面」(重要文化財)を特別に出品し、「雪の小面」と一緒に展示しています。「雪」と「花」の小面が時を超えて久方ぶりに再会いたします。秀吉はどう思うでしょうか。これほど長く大事にされると思ったか、はたまた江戸城の火災で焼失したとされる「月」もあればと心残りでしょうか。

能好きには垂涎の展覧会であり、また能面作りを趣味にしていらっしゃる方もワクワクされる展覧会です。能面は何百年にもわたって大事に扱われ、次の世代に申し送られて行きます。ただ大事にしまわれているだけでなく、使用されていまに至り、さらに将来へと引き継がれる“継続”に、現代において関わる・見ることができる幸せを感じます。能の時空を超えた力と言えます。

本展は、京都の金剛流宗家が所蔵する能面と能装束の展覧会です。金剛流は、中世に遡る大和猿楽四座(やまとさるがくよざ)の一つ「坂戸(さかど)金剛」に源を発する長い歴史がありますが、坂戸金剛家23世の金剛右京氏慧(うじやす)には跡継ぎがなかったため、伝家の能面54面を北三井家の三井八郎右衞門(高公)に譲り、昭和11年に金剛宗家の絶家を遺言して没しました。しかし、翌昭和12年に、能楽界の要請と推薦により、京都で活躍していた「野村金剛家」から金剛巌(いわお)(初世)を家元にたてることで金剛流が継承されました。現在は、金剛永謹(ひさのり)氏が金剛流26世を名乗られています。

三井家に譲られた旧金剛宗家伝来の能面は昭和59年に三井文庫に寄贈され、現在三井記念美術館の所管となっています。このような金剛流とのかかわりから、京都の金剛宗家に伝来する能面と能装束の展覧会を開催することとなったそうです。 出品作品は能面58面、能装束27領、ほかに腰帯や扇など小道具が出品されています。出品作品の選定から、図録の編集・解説まで、すべて金剛永謹氏によるものです。

金剛宗家の能面は、古くから野村家に伝わるもののほか、喜多家伝来のもの、金春家伝来のもの、大阪平瀬家伝来のものに大きく分かれるようです。今回出品の能面の3分の1ほどが、永謹氏の蒐集によるものということで、同氏の能面への思い入れの深さと、演能当事者の目から見た能面観がうかがえるまたとない展覧会といえます。なお、三井記念美術館からは、特別出品として、前述の旧金剛宗家伝来の小面(こおもて)「花の小面」と「孫次郎(ヲモカゲ)」(いずれも重要文化財)が出品されています。

1  翁面

「能にして能にあらず」といわれる「翁」は、天下泰平、五穀豊穣、子孫繁栄を祈祷(きとう)し言祝(ことほぐ)宗教儀式的芸能です。古くは、翁(白式尉)、三番叟(さんばそう)(黒式尉)、父尉(ちちのじょう)、延命冠者(えんめいかじゃ)が登場しましたが、世阿弥の頃に父尉と延命冠者が省かれ、今日見るような形になりました。

翁は天下泰平を祝祷します。顔が白いので、白式尉(はくしきじょう)ともいいます。写真は日光作とされる翁で、野村家に古くから伝わったものと思われます。大らかな笑みが福々しい室町時代の優品です。他に父ノ尉という面も福々しく、翁と同様に切顎(きりあご)でぼうぼう眉ですが、吊り上った目が特徴です。延命冠者とともに子孫繁栄を祝祷します。野村家伝来の父 ノ尉で、春日作の伝承がありますが、 室町時代の優品です。室町時代からの面が大事に残され、かつ使用されている(稀でしょうが)というのも驚きです。

「翁」 日光作 室町時代 金剛家蔵

2  尉面

翁面が宗教儀礼的な神面の性格を有するのに対し、尉面(じょうめん)をはじめ、女面(おんなめん)、男面(おことめん)、鬼神面(きしんめん)は、能で演じる役柄を表現する面(おもて)です。尉面は神の化身役、あるいは老人役の面です。その中でも小尉(こじょう)は、ひときわ品格を備える役柄に相応しく、神の化身や高品位の人物、「高砂」などに用いられます。

展示に小牛の作とされる面があり、小牛尉(こうしじょう)とも呼ばれます。頭頂と顎に植毛があり、眉間にしわを寄せ、への字の眼と半開きの口など、やや怒りを含んだ表情に、神意が感じられます。

3  悪尉面

悪尉面(あくじょうめん)は、尉面というよりは、眼や歯が金色なので鬼神面の一種といえます。悪は善悪の悪ではなく、すこぶる強いというような意味で、強い老体の鬼神といえます。

ひときわ鋭い表情の鼓悪尉(つづみあくじょう)は、叶わぬ老いらくの恋で悶死する「綾鼓(あやのつづみ)」 専用の面です。眼に金銅板、歯が金彩で、髭が植毛されています。世阿弥時代の鬼の面の上手とされる赤鶴(しゃくづる)作の伝承があります。

4  女面

女面は女性を表した面ですが、貴族の女性が基本となっています。小面(こおもて)・孫次郎(まごじろう)・増女(ぞうおんな)・十寸神(ますかみ)・曲見(しゃく)・姥(うば)というように年齢と役柄に応じた種類があります。この女面で、眼に金泥(きんでい)が入った泥眼や、金銅板がはまった山姥・橋姫・般若など、金色が入ることで、この世のものではなくなって行きます。これらは女性の面ですが、霊の面や鬼神面でもあります。 「雪の小面」は、本展の目玉的な作品です。豊臣秀吉が愛蔵したという龍右衛門作の小面三面「雪・月・花」のうちの「雪の小面」にあたります。秀吉は、晩年に雪を金春大夫に、月を徳川家康に、花を金剛大夫に下賜したと言われています。月は江戸城内で火災でなくなったとされます。「雪」は明治維新後外に出て、平瀬家を通して野村家に伝わりました。「花」は金剛右京より三井家に伝わりました。今回、「花の小面」を特別に展示し、「雪」と「花」が久方ぶりに再会します。なんといっても並んで展示されているのはとても珍しく、若い女性の面でもこうも違うのかというほど愛らしさの出具合が違います。焼失したといわれる「月」はどんな感じだったのでしょう。

「雪の小面」 龍右衛門作 室町時代 金剛家蔵

両面の近くに展示されている「金春小面」は、同じく龍右衛門作とされ、古くより金春家にあったと思われます。小面はもともと金春の若い女面でした。面裏(めんうら)の署名から、「雪の小面」拝領より前から、金春の小面本面(ほんめん)として伝えられたことが考えられます。若い女面のなかでも増女(ぞうおんな)は天女や貴人に使われ、気品がある分強さを感じさせます。室町時代の田楽役者増阿弥の創作とされる所からの名称とされます。その「増女」は、大野出目家(でめけ)初代是閑(ぜかん)の作とされ、桃山時代の派手やかな時代性が現れています。土佐藩主山内容堂が愛玩した面で、金剛巌(いわお)(初代)の頃に、野村家伝来の赤鶴(しゃくづる)の小面と交換し、入手したと伝えられます。

般若(はんにゃ)の面は、般若坊という室町時代の面打ちがその造形を完成させ、以降定型化されたといわれます。定型以前の古作は、鬼の激しさが前面に押し出されますが、能面としての般若は、上半分が嘆き、下半分が怒りを表すように仕上げられ、演出の効果が意識されています。

写真の般若は、鬼の面の上手といわれる赤鶴の作とされ、赤土を用いて彩色した赤般若です。主に「道成寺」、それも「古式」 の小書のつく演出に用いられます。一見怖い鬼の面に見えますが般若の面を下から見上げると泣いているような表情に見えます。裏切られた悲しさが憎しみに転じることを巧みに表しています。

「般若」 赤鶴作 室町時代 金剛家蔵

5  男面

男面も年齢に沿った様々な面がありますが、やはり女面と同様に貴族が基本にあり、武将の猛々しさが加わります。喝食(かつしき)という面は、禅寺で主に給仕配膳などの世話をする半僧半俗の剃髪以前の少年の面で、前髪が特徴です。前髪の大きさで大・中・小があり、展示されている喝食は中(ちゅう)喝食にあたります。

蝉丸(せみまる)は、延喜帝の第四皇子で、生まれつき盲目のため、逢坂山に捨てられた蝉丸宮の面です。琵琶の音を頼りに不遇の姉と再会しますが、また静かに別れ行くという物悲しくも静美な世界です。作者の満照(みつてる)は、室町時代後期の面打ちで越前出目家の初代です。野村家伝来の面のなかでも白眉と言える傑作です。ちなみに不遇の姉宮は生まれたときから髪が逆さまに生えてくるということで逆髪(さかがみ)と呼ばれています。

「蝉丸」 満照作 室町時代 金剛家蔵

6  鬼神面

鬼神面(きしんめん)は、鬼や荒ぶる神などの面です。目や歯が金属や金泥で金色に作られます。顰(しかみ)・天神(てんじん)・黒髭(くろひげ)・大飛出(おおとびで)・小飛出(ことびで)などの口を大きく開けた、いわゆる阿形(あぎょう)の面と、大癋見(おおべしみ)・小癋見・長霊癋見(ちょうれいべしみ)のような口を閉じたいわゆる吽形(うんぎょう)の面があります。なかでも小飛出ですが、大飛出が天翔ける神なら、小飛出は地上を駆け回る神の使いです。大飛出ほどの威厳や神性はありませんが、軽快で躍動的で、霊力・神通力を備えた動物の化身役として「小鍛冶(こかじ)」「殺生石(せっしょうせき)」に使われます。展示されている面は、小飛出としては表現が大きく、明朗に作られ、福来作伝の時代性も申し分ない優品です。

天神は、菅原道真の「天神さん」と思われがちですが、天の神、高天原におわす天津神(あまつかみ)やそこに繋がる神々の面として使われます。古作らしい鷹揚さと躍動感に満ち、目もとの勢いなど素晴らしい作行きです。今回、大天神、小天神も出品していますが、この面のように、ただ天神と呼ぶ場合は、天上の神から、仏法守護の天部まで、広範囲の役柄に用いられます。

「天神」 赤鶴作 室町時代 金剛家蔵

7  能装束と小道具

全部で27領の能装束は、うち3領を通期で展示し、残りは前・中・後の3期に分けて展示されます(前期6月30日〜7月22日、中期7月24日〜8月11日、後期8月12日〜9月2日)。小道具は腰帯や扇などが数点出品されます。能装束の種類としては、①唐織(からおり)・②厚板(あついた)・③縫箔(ぬいはく ・④狩衣(かりぎぬ)・⑤側次(そばつぎ)・⑥長絹(ちょうけん)があります。

唐織は唐風の織物という意味。色々の模様を浮き織りにした錦織の小袖です。紅色をまぜた色入とまぜない色無の二種があり、前者は若い女性、後者は中年以上の女性に用います。

厚板は堅い厚地織物。主として色無(いろなし)は 男性に用いますが、少年や若い公達は色入(いろいり)も使います。大柄の強い模様のものは、 荒神・鬼畜・天狗などに用います

「牡丹唐獅子文厚板」金剛能楽堂財団蔵

縫箔は小袖の一種で、箔を置いた生地の上に、模様を刺繍したもので、主として女性に用います。時には貴公子・童子・子方など男性にも用います。

狩衣は王朝時代に狩猟の衣服であった狩衣が、公家の略服となり、それが能装束になっています。丸襟で袖の脇が縫い合わされていません。袷(あわせ)と単(ひとえ)があり、前者が大臣・神体・天狗など、後者は神職・老神などに用います。

側次は、法被(はっぴ)の袖を取り除いたもので、 武装の簡単な甲冑姿を表します。時には唐人の扮装としても用います。

長絹は、直垂(ひたたれ)のように羽織って着ます。 主として女性の舞のための上着です。

「浅黄地花筏秋草文長絹」金剛能楽堂財団蔵

8  特別展示

前述したように、今回の展覧会に合わせ特別に出品された旧金剛宗家伝来の「花の小面」のほか、三井記念美術館より「孫次郎(ヲモカゲ)」(重要文化財)が出品されてます。なんといっても端正で匂やかで美しい「ヲモカゲ」です。美の凝縮とはこういうことなのかと思います。

重要文化財「孫次郎(ヲモカゲ)」伝龍右衛門作 室町時代 
三井記念美術館蔵

三井記念美術館ホームページ

開始日2018/06/30
終了日2018/09/02
エリア東京都
時間開館時間 10:00-17:00(入館は16:30まで)
ナイトミュージアム:会期中毎週金曜日は19:00まで開館(入館は18:30まで)
休日休館日 月曜日(但し、7月16日、8月13日は開館)
その他備考入館料 一般1300円、大学高校生800円、中学生以下無料
開催場所三井記念美術館
アクセス〒103-0022
東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
☎03-5777-8600(ハローダイヤル)
三井記念美術館の入口は日本橋三井タワー1階
 アトリウムです。
・東京メトロ銀座線 三越前駅【A7出口】より徒歩1分、半蔵門線 三越前駅徒歩3分【A7出口】へ、銀座線・東西線 日本橋駅【B9出口】より徒歩4分
・都営浅草線 日本橋駅徒歩6分【B9出口】へ
・JR東京駅【日本橋口】より徒歩7分
・JR神田駅より徒歩6分、JR総武快速線 新日本橋駅より徒歩4分
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