ダイアン・クライスコレクション アンティーク・レース展 DIANE CLAEYS COLLECTION ANTIQUE LACE

01s《ショール》19世紀、フランス

《ショール》シャンティリ・レース、
19世紀、フランス ©Keita (FLAME)

アンティーク・レースとはなんと繊細で優美なレースなのでしょう。渋谷区立松濤美術館で開催中のダイアン・クライスコレクション アンティーク・レース展で初めて知りましたが、わたしたちがいま目にするレースとは一線を画す20世紀以前のレースのことで、熟練したレース職人が、現在ではほとんど失われてしまった技術で途方もない時間を費やして作り上げた超絶技巧の逸品です。

かつてレースは、ヨーロッパの王侯貴族たちの間で富と権力の象徴として流行し、歴史上、常に重要な価値を持ってきました。熟練した職人たちがひと針ひと針、長い時間をかけて手作業で生み出したレースは、単なる豪奢な装飾品の域を超え、時には城や宝石をしのぐほどの価値を持った、きわめて優美で繊細な美の世界だったのです。

現在日本在住で世界的なアンティーク・レースのコレクターで鑑定家でもあるダイアン・クライス氏の数万点にもおよぶ膨大なコレクションから、カトリーヌ・ド・メディシス、マリー゠アントワネット、ナポレオン・ボナパルトといった、王侯貴族に由来するロイヤル・レースや、ファッションやインテリアに取り入れられたレースなど、16世紀から19世紀のレース全盛期の作品を中心に、175件が紹介されています。

それら中近世ヨーロッパの美と技の粋を集めた品々は5章にわけて展示されています。

第1章    誕生と変遷

《タイ》グロ・ポアン・ド・ ヴニーズ、17世紀、
イタリア ©Keita (FLAME)

レースは、刺繍の技術を元にした「ニードルポイント・レース」と、房飾りの技術を元にした「ボビン・レース」に大きく分類されます。ニードルポイント・レースは16世紀ヴェネツィアで、ボビン・レースは17世紀のフランドル地方で誕生したと言われています。第1章では、ニードルポイント・レースの誕生につながるカット・ワークの技法でつくられたレースなど、レースの技法の誕生から発展の変遷が時代を追って展示されています。

500年も600年も前に作られたレースが美しさを保っています。驚くべき保存状態です。

第2章    レースに表現されるもの

《タイ》デュシェスのついたブラバント・ ヴァランシエンヌ、
19世紀後半、
ベルギー ©Keita (FLAME)

高い地位の貴族女性のために作られたと考えられている長いタイ。花のあふれるバスケットと天使(左)は、持ち主の幸福な青春期を、母鳥が雛鳥に食べ物を与えるモチーフ(右)は母親への敬意を象徴しています。

技法の発展とともに様々なモチーフを描き出すようになりました。花や蔓や葉などの植物、動物や昆虫や鳥、王侯貴族から農夫といった人々や、天使や神仏までもがレースの中にあらわれます。これらはレースを美しく飾るとともに、それぞれに願いや意味が込められたものでした。絵柄のデザインにはウィリアム・モリスなど当時の優れた作家が関わり、多くのパターン・ブックも出されていました。

「ボアン・ド・ローズ」と呼ばれる薔薇が特徴のボーダーのレースがありますが、その精巧さや優雅さに見とれてしまいます。薔薇の花びらを幾重にも重ねることで立体的な効果を出しています。

第3章    王侯貴族のレース

《ロイヤル・ウェディングのためのフラウンス
(マリー=アントワネットに由来)》
ドロッシェルグラウンドのブリュッセル・レース、18世紀後半
フランドル地方 ©Junai Nakagawa

16世紀初期に誕生したレースは、瞬く間にヨーロッパ中の宮廷に広まりました。名だたる王侯貴族たちはこぞって高価なレースを求め、それに応えるように、職人たちの技術は向上していったのです。本章では、カトリーヌ・ド・メディシスやマリー゠アントワネット、ナポレオン・ボナパルト、ヴィクトリア女王らに由来する繊細で華麗なレースが展示されています。かの有名な女王、貴婦人、そして王達もこぞってこのような優雅なレースを身にまとっていたのですね。

第4章    キリスト教文化に根付くレースの役割

レースはキリスト教文化に根付いたもので、洗礼や初聖体拝領、結婚、喪といった人生の節目の宗教儀式にも用いられてきました。 所蔵者ダイアン・クライス氏の家庭では、1860年の曾祖母の時代の洗礼式のドレスとヴェール、ボンネットが現在も受け継がれています。

第5章    ウォー・レース

産業革命や戦争により、手工業のレース文化は大きな打撃をうけました。1914年、第一次世界大戦がはじまり、ベルギーの5万人にも及ぶレース職人たちが困窮しました。それを救うために、のちのアメリカ第31代大統領ハーバート・クラーク・フーヴァーによってベルギー救済委員会が設立されました。彼らによって糸と食料が供給され、レースの維持が図られたのです。この時期のベルギーのレースは「ウォー・レース」と呼ばれています。たくさんの人々の熱意と懸命な尽力によって、ベルギー・レースの技術と伝統は守られたのです。

ダイアン・クライス氏が述べているなかにこういう言葉があります。「レースは精神と心、そして身体が紡ぎ出す芸術作品です。レースのように繊細でデリケートな織物を人間の手でつくり出せるというのはまさに驚きです。手のひらにある小さな筋肉『母指対立筋』は、親指を他の4本全ての指に付けることができる、人間だけが持つ筋肉です。私たちが物をしっかりとつかみ、『文字を書く』『楽器を演奏する』『絵を描く』『レースを編む』など、手を使って精緻な動作ができるのも、この独自の能力のおかげです。それを思うと、レースはまさに神様からのプレゼントではないでしょうか。」

正にその通りと思います。精緻で美しく、素晴らしい作品をご堪能ください。

松濤美術館HP

開始日2018/06/12
終了日2018/07/29
エリア東京都
時間開館時間 午前10時~午後6時(入館は午後5時半まで)
・金曜は午後8時閉館(入館は午後7時半まで)
休日7月2日(月)、9日(月)、17日(火)、23日(月)
その他備考入館料 一般500円、大学生400円、高校生・60歳以上250円、小中学生100円
・土・日曜日、祝休日及び夏休み期間は小中学生無料
・渋谷区民は2割引
・毎週金曜日は渋谷区民無料
・障がい者及び付添の方1名は無料
開催場所渋谷区立松濤美術館
アクセス〒150-0046
東京都渋谷区松濤2-14-14 ☎03-3465-9421
http://www.shoto-museum.jp/access/