ミラクル エッシャー展 奇想版画家の謎を解く8つの鍵

【13】《メタモルフォーゼⅡ》(部分)

《メタモルフォーゼII》(部分)1939-40年
All M.C.Escher works copyright ©The M.C.Escher Company B.V.-Baarn-Holland.
All rights reserved. www.mcescher.com

目を移していくと、あれあれ?どんどんとデザインが流れるように変わっていきます。でも最後は最初のデザインにもどるという摩訶不思議な版画が冒頭の《メタモルフォーゼII》です。20世紀を代表する奇想の版画家、マウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898-1972)の作品です。実際にありそうで現実には存在し得ない風景や、ひとつの絵の中に重力が異なる世界が存在するなど「ありえない世界」を描く、不思議で“ミラクル”かつ独創的、今も多くの人を魅了するエッシャーの作品約150点の展覧会が上野の森美術館で開催されています。

生誕120年を記念した「ミラクル エッシャー展」はイスラエル博物館が所蔵する選りすぐりの作品が出品されています。イスラエル博物館は世界最大級のエッシャーコレクションを誇り、代表的な「トロンプ・ルイユ(だまし絵)」の作品に加え、常設展示されていないものが初来日し、一点一点が、不思議で、奇妙で、斬新で、あれれという驚きに満ちています。

冒頭の《メタモルフォーゼII》は、幅約4mにおよび、エッシャー自身による貴重な初版プリントで、まさに展覧会の目玉作品です。

展示は、独創的なエッシャーの作品を8つのキーワードに沿ってその謎に迫ります。

1.  科学

《対照(秩序と混沌)》 1950年

《メビウスの輪 I 》 1961年

エッシャーの版画では特定のモティーフが反復しながら循環したり、ときにはタイル状に埋め尽くされるなど、幾何学的な表現がありますが、エッシャーはこれらの表現を生み出すために同時代の科学から着想を受け、独自の数学的な理論を発展させています。《対照》についてエッシャーは「一分の隙もなく秩序だった美しい星型十二面体がシャボン玉のような透明な球体と合体し、その周りを廃物やくしゃくしゃのオブジェのような無用なものの集合で囲った絵画」と言ってます。おもしろい対比ですが正十二面体が見事です。他にも《螺旋》や《四面体の小惑星》に目をやると、視点をどこに着地してよいかわからなくなり、不思議な感覚に襲われます。

2.  聖書

この章には若いエッシャーが描いたキリスト教主題の版画が何点もあります。アールデコ様式からの影響があるようです。天地創造の6日間を描いた《天地創造の一日目》からの6作や、《バベルの塔》、《地獄》などは細部をよくご覧ください。あれっと思われる発見があります。とても細かいですね。

3.  風景

《カストロヴァルヴァ、アブルッツィ地方》 1930年

《アマルフィ海岸》 1934年

エッシャー独特の、写実的かつ不可思議な印象を与えるイメージには1920年代のイタリア、スペイン旅行での風景体験が影響を及ぼしています。特にアルハンブラ宮殿での幾何学模様的な出会いは、のちのパターン化されたモティーフの原点になっています。《カストロヴァルヴァ、アブルッツィ地方》と見ているとその崖の道を歩きたくなります、そしてたぶん絵にある、もこもこした雲に出会える気がします。《ロッサーノ、カラブリア州》の線は広重の夕立を彷彿とさせます。

4.  人物

《椅子に座っている自画像》 1920年

《婚姻の絆》 1956年

初期のエッシャーは単身の人物表現にも取り組んでいます。人物像の多くは、家族や近しい人々を扱っていますが、同時に自分自身の姿もさまざまな方法でモティーフとして登場します。《婚姻の絆》という作品はエッシャー夫婦であろうと思われますが、永遠に続く絆を描いているのでしょうか。

5.  広告

《オランダ蔵書票協会(ハーグ)のための年賀状
(グリーティングカード)》 1946年

エッシャーの造形は商業デザインにも登場します。この章では、商用として利用されたイメージとともに、エッシャーらしさが凝縮された小さなグリーティングカードも紹介されています。

6.  技法

《トンボ》 1936年

《眼》 1946年

エッシャーは自らを「芸術家」でなく「版画家」と考えていて、木版、木口木版、リトグラフ、そしてメゾティントなどさまざまな版画技法に取り組み、それらの技法を高度に発展させました。時には複数の技法を統合させながら不可思議な世界を繊細な彫りと印刷で実現しています。この章にある多種多様な作例は、エッシャーの技法をあますことなく表しています。才能が溢れている作品群です。

7.  反射

《球面鏡のある静物》 1934年

エッシャーの作り出す不可思議な世界の特徴の一つが、「鏡面」のイメージです。鏡像を用いた絵画はヨーロッパでは近代以前から多く描かれていますが、エッシャーもまた現実世界にあるモティーフ/人物像と、仮想世界としての鏡像の共存するイメージを描くことに夢中になったようです。

8.  錯視

《発展II》 1939年

《滝》 1961年

エッシャー芸術を代表する要素である、実現不可能な建築表現や、永遠に変化し続けるパターンを描いたイメージなど「ありえない世界」が広がっています。エッシャーの真骨頂ですね。《滝》はたぶん知っている方もおられると思いますが、何度みてもどうしてその水はここにもどるのかと驚嘆します。

この独創的な表現は、当時の数学者が発表した不可能な図形に着想を得たものもあり、正則分割を用いた循環する表現とともに、エッシャーが長年にわたり独自発展させた理論が形になったものです。《トカゲモティーフの平面正則分割》のとかげは可愛いです。エッシャーが描く動物たちはある種の愛嬌があるように思われます。

Eplilogue. 循環する世界

《メタモルフォーゼII》 1939-40年
(クリックすると拡大します)

もう一度、エッシャーが1939-40年に生み出した大作《メタモルフォーゼII》をご覧下さい。文字から始まり、様々な形態が変容しながら循環し続け、やがて最初の文字へもどるこの作品はエッシャー芸術の極点を示しています。

一点一点を細部までじっくりみて頂きたい展覧会です。

《でんぐりでんぐり》 1951年

展示室の壁にある《でんぐりでんぐり》を見つけてください。おもしろいですよ。

画像は全て、

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公式ホームページ

開始日2018/06/06
終了日2018/07/29
エリア東京都
時間開館時間 10:00-17:00(金曜日、土曜日は20:00まで)
入館は閉館の30分前まで
休日会期中無休
その他備考入館料 一般1600円、大・高校生1200円中・小学生600円
開催場所上野の森美術館
アクセス〒110-0007東京都台東区上野公園1-2
☎03-5777-8600 全日8~22時(ハローダイヤル)
JR 上野駅 公園口より徒歩3分
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