うるしの彩り―漆黒と金銀が織りなす美の世界

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象彦 扇面謡曲画蒔絵会席具より「丸盆」 大正時代・20世紀
泉屋博古館

泉屋博古館分館で「うるしの彩り」展が開催中です。どれもとても保存状態が良く、見事に漆が放つ光沢と色彩で、美しいです。昔の豪商が贅を尽くして作らせ、その品々を日常に使い、愛でていたのだと思うと現代の私達の生活からは別世界の感があります。

象彦 扇面謡曲画蒔絵会席具より「本膳」 大正時代・20世紀
泉屋博古館

展示は四章に分けてうるしの美を見せています。

第一章   能とうるしの美術

冒頭の写真二つにはそれぞれ能の謡曲を扇面に表しています。丸盆や膳具は〈三番叟〉だったり〈砧〉だったりと、能好きにはワクワクするような絵柄です。これは〈賀茂〉、これは〈松風〉と能楽作品を思い浮かべて楽しむのは、現代で言えば、アニメとそのコレクター特製グッズと言ったら飛躍が過ぎるでしょうか。

泉屋博古館の住友コレクションは住友家により代々受け継がれた美術品から形成されていますが、特に住友家15代の友純(ともいと、号 春翠・しゅんすい:1864-1926)は能楽をこよなく愛し、また茶の湯や古典芸能、伝統文化に深い理解のある文化人でした。春翠は平安時代から続く清華家の一つ徳大寺公純の第6子として京都に生まれ、長兄には明治天皇の侍従長を務めた徳大寺実則(とくだいじさねつね)、次兄に内閣総理大臣を歴任した西園寺公望(さいおんじきんもち)がいて、幼少から古典芸能を嗜み、文化に触れるという生活でした。明治25年(1892)に住友家に養嗣子となり、住友家の精神的支柱となり近代的財閥へと住友家を導きました。同時に文化事業にも熱心で、現在の大阪府立中之島図書館、大阪市立美術館などを寄贈したことも有名です。

写真はないのですが、大小鼓の胴がいくつもあり「打出木槌蒔絵大鼓胴」や「桐鳳凰蒔絵大鼓胴」などはため息が出るほど美しい蒔絵です。他にも能管や太鼓の胴もあります。

第二章   伝統文化とうるしの美術

狩野常信 「紫式部・黄蜀葵・菊図」 江戸時代・18世紀 泉屋博古館

「黒漆青貝芦葉達磨香合」 明時代・16世紀 泉屋博古館分館

漆工芸は日本の伝統文化の中で様々な場面で重用され、独自の美意識が生み出されてきました。紫式部を題材に描かれた狩野常信の「紫式部・黄蜀葵・菊図」は、石山寺に参籠した紫式部が琵琶湖に映る十五夜の月を見て〈源氏物語〉の着想を得、書き始めたという伝説を絵画化したものです。黒塗りの文机、傍らの硯箱から筆を取って思案する紫式部が描かれています。

茶道具では、中国より渡来し、座敷飾りを彩る唐物香合として千家に伝来した「黒漆青貝芦葉達磨香合」。この銘品は織田有楽斎から建仁寺、そして千家に伝来し、住友コレクションに加わりました。

酒井抱一の下絵から原羊遊斉が制作した棗(なつめ)「椿蒔絵棗」は木地溜塗の地に、椿一枝が薄肉高蒔絵で上品にすっきりと描かれています。原羊遊斉は江戸随一の人気を誇る蒔絵師で、文化年間頃から酒井抱一との関係が始まったとされ、デザイナー抱一との阿吽の呼吸をうかがうことのできる作品です。この棗に関しては酒井抱一から依頼を受けた相手に対し、このような趣でよければ羊遊斉に申し付けます、と書かれた確認の手紙に棗の下絵が描かれています。是非この書状も一緒にご覧下さい。

原羊遊斉 「椿蒔絵棗」 江戸時代・19世紀 泉屋博古館分館

香の世界は古く、推古天皇3(595)年淡路島に沈香(沈水香木)が漂着したのが我国の香道文化の始まりと『日本書紀』にあるように、仏教の伝来とともに香を炊く習慣が日本に入ったと言われています。平安・鎌倉時代の薫物(練香)の利用を経て、室町時代には単独の香木を炊いて香りを楽しむ習慣が発達し、さらに数種類の香木を焚き比べて、かすかな違いを区別して遊ぶ組香の遊びもできました。それも数種類を10回試して当否を競う十種香が流行しました。源氏香もその一種です。近世には専用の諸道具である香炉、香札、火道具などの一式を一箱に納めた十種香箱が定形化したとのことです。写真の「藤棚蒔絵十種香箱」のほか、「青貝蜻蛉枝垂桜蒔絵香箱」も豪華精密の上、華やかです。

「藤棚蒔絵十種香箱」 江戸時代 泉屋博古館分館

第三章   中国から琉球、そして日本へ

「龍図堆黄盆」 明時代・万暦17年(1589) 泉屋博古館

中国の漆工芸は、彫漆、螺鈿をはじめとする多彩な技法で独自の発展を遂げ、細緻な技法と贅を凝らした中国の漆工芸は、皇帝貴族たちのステータスシンボルになるとともに中国国外でも大事にされてきました。実際日本には現在でも本家中国にもないような彫漆や螺鈿の優品が数多く残されています。

第四章   伝統と革新 —明治時代の漆芸家―

明治6年のウィーン万国博覧会では、日本からの美術工芸品は欧米各地の美術館、博物館、コレクターによって熱狂的に受け入れられ、その潮流は「ジャポニスム」と称されました。欧米で「ZENSHIN」として知られる漆芸家、柴田是真(1807-91)も高い人気を得ました。その弟子、池田泰真(1825-1903)も国内外で評価の高い蒔絵師です。しかし、その後のパリ万国博覧会でのアール・ヌーボーの隆盛と共に、日本の美術工芸品は評価が暴落してしまい、日本の伝統的な意匠は時代遅れとされ、図案研究が急務となりました。京都では、洋画家・浅井忠や京都高等工芸学校校長の中澤岩太を中心に図案と近代産業技法の研究が盛んになり、明治39年には図案研究団体、京漆園が結成されました。最新の欧米の図案から、琳派や大津絵などの伝統的意匠を研究して、新しい図案や漆工芸作品を発表しました。明治から大正にかけて、現代へと続く新たな美意識が創世されていきます。

池田泰真  「野菜盛籠図額」(部分) 1902年頃 泉屋博古館分館

柴田是真 「軍鶏蒔絵文箱」 江戸時代・19世紀 泉屋博古館分館

泉屋博古館HP

開始日2018/06/02
終了日2018/07/16
エリア東京都
時間開館時間:10:00-17:00(入館は16:30まで)
休日休館日:月曜日、7月16日は開館
その他備考入館料 一般800円/大高生600円/中学生以下無料
開催場所泉屋博古館分館
アクセス〒106-0032 東京都港区六本木1-5-1
☎03-5777-8600(ハローダイヤル)
東京メトロ南北線「六本木一丁目」駅下車すぐ
https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/access.html