ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜 Brueghel: 150 Years of an Artistic Dynasty

22s 《農民の婚礼(6点連作)》

マールテン・ファン・クレーフェ《農民の婚礼(6点連作)》
1558-1560年頃 Private Collection

16、17世紀のヨーロッパにおいて最も影響力を持った画家一族のひとつであったブリューゲル一族の150年にわたる画業に光をあてる展覧会が、上野の東京都美術館で開催されています。宗教画、寓意画、静物画などおよそ100点が展示されていますが、その多くが通常観ることのできない貴重なプライベート・コレクションに収められており、出品作のほとんどが日本初公開となるそうです。

展示は7章に分かれています。時代ごとの区切りではなくテーマ(絵画のジャンル)ごとに構成されているので、それぞれの章で父と子、祖父と孫が、またその後に続く作家たちが、父ピーテル・ブリューゲル1世の画風をどのように継承し、また新たな個性を発揮していこうとしたのかがよくわかる展示になっています。

第1章 宗教と道徳

ピーテル・ブリューゲル1世[下絵]、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫版]
《最後の審判》1558年 Private Collection

ピーテル・ブリューゲル1世が作品を生み出していた時代は、カトリックとプロテスタントの宗教対立をはらんだ困難な時代でもありました。ピーテル1世はヒエロニムス・ボスの様式を取り入れた絵画や版画で人気を博し「第二のボス」と呼ばれました。しかし、ボスの作品がキリスト教的な善悪の価値観を明確に示すのに対し、彼はそういった善悪の判断から一歩引いて、より冷静な目で現実の人々を見つめています。人々を見るこの「観察眼」が以後150年に及ぶ一族の伝統となりました。とはいえ、ピーテル・ブリューゲル1世の《最後の審判》[下絵]の中で地獄へ送られる人々のどこまでも続く群れの描き方は恐ろしく迫力があります。当時の人々の死生観について考えさせられます。

また、マールテン・ファン・ファルケンボルフとヘンドリク・ファン・クレーフェによる《バベルの塔》には、ピーテル1世の存命中からその作品を目にしていたと考えられるそうです。昨年、大きな話題となった「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展 16世紀ネーデルラントの至宝—ボスを超えてー」(2017/4/18-7/2) でピーテル・ブリューゲル1世の《バベルの塔》をご覧になった方々にとっても興味深い作品でしょう。

マールテン・ファン・ファルケンボルフ ヘンドリク・ファン・クレーフェ
《バベルの塔》1580年頃 Private Collection, France

第2章 自然へのまなざし

ヤン・ブリューゲル1世《水浴をする人たちのいる川の風景》
1595-1600年頃 Private Collection, Switzerland

風景画を専門とする最初の画家たちが出現したのは16世紀のアントウェルペンでした。初期の風景画家たちは、視点を極度に高い位置に置き、大自然の雄大さと恐ろしさ、対する人間の小ささや無力さを表現しました。それまでは背景でしかなかった風景の描き方の転換期といえるでしょう。ピーテル・ブリューゲル1世も2年間のイタリア旅行の折に見たアルプスの雄大な山々や渓谷、川の景色に心を奪われたといわれています。彼の自然への関心は一族へと受け継がれていきました。《水浴をする人たちのいる川の風景》では人間は小さく、とりまく木々は異様に大きく描かれています。遠方に広がる川や村、そのまた奥に続く町の塔へと、川のうねりと共に視線が絵の奥へ導かれていきます。その他の絵にも、雄大な風景の中で農作業をする人、牛を水辺へ追う人、狩りをする人など、人々の日々の暮らしがいきいきと描かれています。

第3章 冬の風景と城砦

ピーテル・ブリューゲル2世《鳥罠》1601年 
Private Collection, Luxembuerg

ヤン・ブリューゲル2世《冬の市場への道》1625年頃 Private Collection

ピーテル2世は父の忠実な模倣品(コピー)を制作し、父の様式を広く世に広めました。ピーテル1世の名声は息子たちの模倣作によるものが大きいといわれています。この時代に風景画の1ジャンルとして冬の風景画を世に広めたのもピーテル2世でした。鳥罠という題材はピーテル1世が考案し、一族が類型化したといわれていますが、会場ではピーテル2世の描いた鳥罠が展示されています。

人気のある絵を量産する必要がでてきたのは、絵の市場に裕福な商人たちというあたらしい顧客が登場したことと無関係ではありませんでした。ピーテル・ブリューゲル2世の《鳥罠》は数世代にわたってプライベート・コレクションに収められており、展覧会で公開されるのはこの巡回展が初めてとのことです。貴重な作品なのでじっくりとご覧ください。一見のどかな風景なのですが、鳥には罠が、スケートを楽しむ人々の氷の下には冷たい水がある、という示唆に富む絵です。本展覧会監修者のセルジオ・ガッディ氏(美術評論家)はこの絵について「命とはいつ終わってもおかしくないという考え方がある。人間でも動物でもそれは同じ。瞬時に終わる可能性があることをあらわしている」と解説されています。

第4章 旅の風景と物語

ヤン・ブリューゲル1世《馬と馬車(準備素描)》1610年頃 
Private Collection

16世紀前半までにヨーロッパ経済の新たな中心地となり、貿易や旅行の要となったアントウェルペンには、芸術家を含め多くの人々が流入してきます。集まった才能ある芸術家の素描の多くが版画の下絵として利用され、ヨーロッパに流通していくことになりました。またピーテル1世をはじめ、一族のほとんどがイタリアへの旅を目指していた旅人でもあり、多くの素描やそれをもとに制作された版画が残されました。

第5章 寓意と神話

ヤン・ブリューゲル2世《嗅覚の寓意》1645-1650年頃 Private Collection


ヤン・ブリューゲル2世《聴覚の寓意》1645-1650年頃 Private Collection

ヤン・ブリューゲル2世は寓意画や神話画を得意とする画家でした。寓意画は抽象的な概念を視覚的に理解するための効果的な方法とみなされています。こうした作品には古代ギリシャ哲学や、イタリア・ルネサンスの思想が反映されています。自然の中に概念化された意味を現そうとする絵画ですが、ヤン2世をはじめとするブリューゲル一族による作品では、それ以上に自然観察と精密な描写というこの地方の伝統を見出すことができます。現そうとする寓意を理解するためには、細かく描かれた小さなパーツを注意深く観る必要があります。オペラグラスなどを携帯してご覧になることをお勧めします。面白さが倍増することでしょう。

第6章 静物画の隆盛

ヤン・ファン・ケッセル《蝶、コウモリ、カマキリの習作》
1659年 Private Collection, USA

フランドルの静物画は、貴族のコレクションと結びついて発展していきました。希少さ、貴重さ、異国性が重要なモチーフとなりました。ヤン・フォン・ケッセル1世による《蝶、コウモリ、カマキリの習作》は大理石に描かれた油彩です。こうした静物画で大理石に描かれた油彩は他に例をみないとのことです。まるで、大理石の上に生物標本のように描かれた本作品は画家の優れた技量によるものであることがわかります。ヤン・フォン・ケッセル1世はピーテル1世にとり、ひ孫の世代にあたりますが、脈々と続いた一族の画業の偉大さに驚かされます。

第7章 農民たちの踊り

ピーテル・ブリューゲル2世《野外での婚礼の踊り》1610年頃 Private Collection


ピーテル・ブリューゲル2世《聖霊降臨祭の花嫁》1616年以降 
Anhaltische Gemäldegalerie Dessau

ブリューゲル一族の画家たちは、農村の日常風景をしばしば描いています。農作業のみではなく、物乞い、酔っ払い、婚礼でのはめをはずした大騒ぎなど、日々の暮らしの中で現実に目にするものを描いたのです。それまでの神や神話が絵画の重要なモチーフであったことを考えると、これは一族の特異性として注目される点だと思われます。人々の表情が豊かで見とれてしまいます。16世紀のフランドルに行くことはできませんが、これらの絵を見ていると、往時の雰囲気がわかるような気持ちになります。

東京都美術館ホームページ

Tokyou Metropolitan Art Museum Homepage

特設WEBサイト

 

 

開始日2018/01/23
終了日2018/04/01
エリア東京都
時間9:30-17:30 金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
休日月曜日、2月13日(火) ただし2月12日(月)は開室
その他備考一般¥1,600、大学生・専門学校生¥1,300、 高校生¥800、 65歳以上¥1,000
開催場所東京都美術館
アクセス〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
JR上野駅「公園口」より徒歩7分
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅「7番出口」より徒歩10分
京成線京成上野駅より徒歩10分
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