石内 都 肌理と写真 Ishiuchi Miyako: Grain and Image

8s_hiroshima#106

《ひろしま #106 Donor: Hashimoto, H.》2016年 ©Ishiuchi Miyako

わたしが初めて石内作品に出会ったのは現代美術を見始めて間もない2000年代前半、皮膚を写したモノクロのScars シリーズでした。人の肌にある傷や手術の跡、シワシワになった皮膚など、その傷跡ができてからの長い時間の経過とともに、その皮膚や身体の持ち主が傷とともに過ごした生きようが大判の写真によってつきつけられたように感じました。その揺るぎない作品の作者についてほとんど知らないうちにすぐMother’s に出会いました。今度は同じく大判でしたがカラーでした。体型を補正する下着、やわらかくなっていそうな濃い色の口紅、履いていた人の足形を示すパンプス。お母様の遺品を次々と撮影しているということでしたが、使われなくなって長い時間が経っているのに生々しく匂うような作品は、写された遺品の持ち主とその歴史を想像させるものでした。お世辞にもきれいとは言いがたい品々は、母親に対する慕情より表現者としての妥協のなさに貫かれて、石内都という人の強さが印象的でした。

《Mother’s #35》2002年 ©Ishiuchi Miyako

その後2005年のヴェネチア・ビエンナーレの日本館代表となり、日本館初の女性写真家として、そのインタビューは自信に満ちた落ち着いたものでした。初個展が1977年のモノクロの「絶唱、横須賀ストーリー」なので、2005年当時でデビュー28年。すでに数々の賞も受賞、積み上げられたキャリアを感じました。

《yokohama 互楽荘 #2》1986-87年 ©Ishiuchi Miyako

とはいえ、石内都の快進撃がこの後始まります。昔の女性が愛用した絹織物の「絹の夢」、フリーダ・カーロの遺品を撮影した「Frida」、そしていまも続く被爆者の遺品を写した「ひろしま」など、Mother’s 以降カラー作品のシリーズが展開します。これらの大判のカラー作品は、モノクロ写真の制約から自由になり、まるで大きな翼を得たように、次々と石内都の代表作となってゆきます。

《絹の夢 #50 併用絣銘仙 桐生》2011年、アーツ前橋蔵 ©Ishiuchi Miyako

石内作品の特徴はやはり大判にあると思います。被写体は人でも物でも実寸近くかそれ以上のサイズでプリントされます。そこには、見逃しがちな、あるいは目視では無意識的に見ないようにしてしまう、細かな表面の凹凸や陰影、シワ、といった事実があからさまに示されます。傷のある人の身体、朽ち果てた建物の剥けた壁、古ぼけた日用品の使われていた痕跡、人でもモノでも明るく語られるものではない被写体の皮膚や表面が、その状態に達した時間、それとともに生きた人、その被写体や持ち主の生きていた時の空気、などをもって迫ってきます。さらに視覚を超えて被写体が持っていたかもしれない記憶や作家の感情までを語るようです。指にもツルツルなのか、固くザワザワなのか、どのくらいでこぼこなのか、剥げ落ちるのか、思わず触ってみたくなります。まさに「肌理と写真」という展覧会タイトルが当てはまります。

《Bayside Courts #67》1988-89年 ©Ishiuchi Miyako

多摩美術大学でテキスタイルを専攻していたことからも、常に表面の手触り感をとらえようとしていたのではないでしょうか。撮影はスタジオでなく自然光でハンディのようです。「撮影は嫌いで暗室作業が好き、暗室作業のために撮影しているようなもの」と言います。その暗室作業の様子が映像で展示されています。液体の一粒一粒にも、印画紙のひと角ひと角にも、一つ一つを手で触った感触で、いとおしむように仕上げていきます。そうして丁寧に制作し、思うテーマを積み上げてきた姿勢が、一本、一本と糸が重なって出来上がる織物とつながります。その一貫性が消費されない作品であり、この作家の特徴であり強さだと感じます。

《Frida by Ishiuchi #107》2012年 ©Ishiuchi Miyako

2017年で個展デビュー40周年、多くの撮影地であり、活動の拠点である横浜の美術館で大個展となるのは、見ている側にも嬉しい。Mother’s の発表が2001年で54歳、2005年のヴェネチア出展が58歳のこと。1952年に始まる日本館もそれ以前には草間彌生と内藤礼のみで、その後やなぎみわ、束芋、塩田千春と男女比が1:1になるので、石内さんにはそういう役割もあるのだろうと思います。これからのさらなる飛躍を期待する展覧会です。

展覧会ホームページ

Exhibition Homepage

《不知火の指 #1》2014年 ©Ishiuchi Miyako

開始日2018712/09
終了日2018/03/04
エリア神奈川県
時間10時~18時(入館は17時30分まで)
*2018年3月1日(木)は16時まで
*2018年3月3日(土)は20時30分まで
(入館は閉館の30分前まで)
休日木曜日 ただし、2018年3月1日を除く。
その他備考一般 1,500円、大学・高校生 900円、 中学生 600円、小学生以下 無料、65歳以上 1,400円(要証明書、美術館券売所でのみ対応)
開催場所横浜美術館
アクセス〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4番1号
TEL:045-221-0300(代表 10時~18時/木曜日は休館)
FAX:045-221-0317
みなとみらい線(東急東横線直通)「みなとみらい」駅〈3番出口〉から、マークイズみなとみらい〈グランドガレリア〉経由徒歩3分、または〈マークイズ連絡口〉(10時~)から徒歩5分。
JR(京浜東北・根岸線)・横浜市営地下鉄「桜木町」駅から〈動く歩道〉を利用、徒歩10分。
http://yokohama.art.museum/visit/access.html
http://yokohama.art.museum/eng/visit/access.html