あこがれの明清絵画 ~日本が愛した中国絵画の名品たち~ 

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重要文化財 李士達「秋景山水図」明時代・万暦46年(1618)

日本画を見ていると、といっても描かれた当時は今のように日本画というくくりや意識はないですが、その源流はどこなのだろうと思っていました。展覧会で中国の山水画や牧谿など宋時代の作品が出ていることがありますが、中国絵画として明清(みんしん)時代の絵画をまとめて見る機会がちょうどやって来ました。

中国は日本にとって政治、文化、すべてについての先進国ですから、日本の画家は中国絵画をお手本にし、収集家もあこがれをもって求めたことでしょう。あの狩野派も始祖である正信の絵は中国様式です(「天下を治めた絵師 狩野元信」サントリー美術館で11/5まで)。

一口に明清といっても1368年~1912年と550年近くあり、展示では、明から清へと政権が交替して美術史上も動きの大きな17世紀の絵画を中心に展観します。

冒頭の李士達(りしたつ)(1540年頃~1621年以降)は呉県(江蘇省)の人で、明代末期の「蘇州派」を代表する画家です。「秋景山水図」は、深遠な山水が濃淡、かすれ、ぼかしなど多様な表現で描かれ、李士達の代表作となっています。

同じ明時代の藍瑛(らんえい)(1585~1664?)は杭州を中心に活躍した画家で、過去の偉大な画家たちの筆法を模した作品を多く残しました。李士達の上記作品と同じ題名の「秋景山水図」も元時代の著名な画家、元末四大家の一人である王蒙(おうもう)の筆法に倣って描かれたものと、画中に記されています。

重要文化財 藍瑛(らんえい)「秋景山水図」
明時代・崇禎(すうてい)11年(1638)

そして藍瑛の「秋景山水図」は、江戸時代後期を代表する画家・谷文晁(1763~1840)が模しています。違いがわかりますか?ぜひ実物を見比べてみてください。谷文晁のほうがまろやかな感じがします。藍瑛の画風が清時代に受け継がれてゆく一方で、日本においても多くの画家に受容され、様々に引用されていったことを物語ります。

重要文化財 谷文晁「藍瑛筆 秋景山水図模本」
江戸時代・18~19世紀

チラシになっている沈南蘋(しんなんぴん)の「老圃秋容図」(ろうほしゅうようず)の猫ちゃんは、黄蜀葵(とろろあおい)や朝顔の咲く中、カミキリムシに狙いをさだめて今にも飛びかかろうとするところ。湿ったピンクの鼻、ふさふさとしたやわらかそうな白黒の毛、グラビアアイドルのようですね。猫(mao)は七十歳を意味する「耄(mao)」と音が通じることから、長寿の意味を持つ吉祥画題として好まれたそうです。

沈南蘋「老圃秋容図」 清時代・雍正9年(1731)

沈南蘋(沈銓(しんせん)・1682~1760~?)は雍正9年(享保16年・1731)に江戸幕府八代将軍・徳川吉宗が招聘し、1年10カ月を長崎で過ごしました。

この「老圃秋容図」の谷文晁一門による粉本も展示されています。沈南蘋は中国では著名ではなかったそうですが、写実性・吉祥性を兼ね備えたその画風は日本で受け入れられて、数々の絵師のお手本となり、日本の花鳥画に新風を巻き起こしたそうです。

余崧(よすう)「百花図巻」は鮮やかな色彩で百種類近くの草花・花木を四季を巡るように描いた巻物で、清朝の宮廷趣味がうかがえる華やかな作品です。

余崧(よすう)「百花図巻」(部分)
清時代・乾隆(けんりゅう)60年(1795)

余崧(生没年不詳)は、元和(江蘇省蘇州)の人。来日の確証はないものの、日本に作品が伝存し、江戸後期の史料にもたびたび登場する画家です。清朝の宮廷画家であった可能性も指摘されています。

重要文化財 張瑞図(ちょうずいと)「松山図」
明時代・崇禎(すうてい)4年(1631)

張瑞図(1570~1641)は明末の書画家で晋江(福建省)の人です。画家としては「奇想派(エキセントリック)」「変形主義」と評される一派を代表する一人です。本作は、デフォルメされた山々が、うねるように画面上部へと伸び上る構図で描かれています。

張瑞図(ちょうずいと)「草書五言律詩」明時代(17世紀)

円山応挙による『写生雑録帖』(個人蔵)にみえる模写では、縮写した画よりも文字が大きく写されており、応挙が張瑞図を画家としてよりも書家として評価していたことがうかがわれます。

王鐸(おうたく)や米万鍾(べいばんしょう)といった明末清初の書跡も特別公開されています。光沢のある上質な絹織物に書かれ、黒い墨の連綿草が美しいです。

明清時代の中国絵画が各時代の日本の画家たちに大きな影響を与えたことが、並べて展示された模写の作品でわかります。また感想などを述べた跋文、愛蔵の文房具等からもあこがれであったことが感じられます。

静嘉堂文庫美術館の明清絵画は、明治20-30年代に三菱第二代社長の岩﨑彌之助氏によって集められた、質量ともに国内有数のコレクションの一つです。特徴的なのは、池大雅、谷文晁など江戸時代を代表する画家たちの模本や跋文、幕末・明治の文人による箱書きが付属して現存することで、近代になってから購入したものではなく、江戸時代すでに日本にあった作品をそのまま受け継いでいることです。

全体を通して、品のいい作品という印象です。コレクションが優品ぞろいであることを示していると思います。音声ガイドもやさしく丁寧な解説です。

日本でもう一つの明清絵画の有数なコレクション、住友コレクションは、泉屋博古館分館で特別展「典雅と奇想―明末清初の中国名画展」(11月3日~12月10日)が開催され、連携企画となっています。

関連イベントにつきましては、展覧会ホームページ をご覧ください。

開始日2017/10/28
終了日2017/12/17
エリア東京都
時間午前10時~午後4時30分(入場は午後4時まで)
休日休館日:月曜日
その他備考※ 入館料:一般1,000円、大高生700円、中学生以下無料
※ リピーター割引:会期中に本展示の入館券をご提示で、2回目以降は200円引き。
開催場所静嘉堂文庫美術館
アクセス〒157-0076 東京都世田谷区岡本2-23-1
  TEL.03-5777-8600(ハローダイヤル)
・二子玉川駅から
二子玉川駅バスターミナル4番のりばから東急コーチバス「玉31・32系統」 「静嘉堂文庫」下車(所要時間は通常8~10分。運行本数1時間に約3本)。 案内標識に沿って徒歩約5分。
・成城学園前駅から
小田急線成城学園前駅下車、南口バスのりばから二子玉川駅行きバスにて「吉沢」下車。大蔵通りを北東方向に徒歩約10分。
・タクシー
二子玉川駅から美術館入口前まで約10分、料金は約800円(道路状況により前後します)。 正門をくぐって丘の上にある美術館入口まで、タクシーでそのままお進みいただけます。入館時タクシー領収書を受付でご提示いただければ一台につき入館料を200円引きいたします(領収書はお返しいたしません)。招待券とぐるっとパスは対象外です。
http://www.seikado.or.jp/guide/access.html