興福寺中金堂再建記念特別展 運慶

05-10 聖観音菩薩立像

重要文化財 聖観音菩薩立像 運慶・湛慶作 鎌倉時代・正治3年(1201)頃
愛知・瀧山寺蔵 写真:六田知弘

注目の興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」展が東京国立博物館の平成館で始まった。天才仏師・運慶作、あるいはその可能性が高いと考えられているのは三十体前後しかなく、それらが全国各地に分散しているため今まで大規模な展覧がなかったが、今回、興福寺の中金堂再建記念事業として企画され、同寺の運慶作品が出品されると同時に各地で大切に守り継がれてきた仏像が集結する。史上最大の運慶展と銘打っているこの展覧会は確かに必見である。

冒頭の観音菩薩様は初めて寺外にお出ましとなった。この「聖観音菩薩立像」の、おごそかで艶やかな美しいお姿を初めて拝見したが、表面の彩色は後補で色鮮やかな当時を彷彿させる。

史上最大の展覧会というみどころに加えて、父・康慶から息子・湛慶、康弁へ運慶の作風の誕生と継承という視点からも運慶作品を捉えている。京を中心に貴族がおさめた平安時代から、東国・鎌倉に幕府を置き、武士が支配を広げた鎌倉時代へ。時代の変革期に、運慶はそれまではやっていた定朝様(じょうちょうよう)とは全く異なる新しい表現を生み出す。生命力がみなぎる国宝「八大童子立像」(和歌山・金剛峯寺)や肖像彫刻の最高傑作である国宝「無箸菩薩立像・世親菩薩立像」(奈良・興福寺蔵)に代表される写実性に富み、迫真性に満ちた圧倒的な存在感、感情まで表現しようという造形である。

大きさや偉大さに、存在感のある写実性に、その躍動感に、筋肉の力強さに、静謐な表情に、会場で圧倒され立ち尽くしてしまった。「四天王立像」のダイナミックな動きのある2メートルを超える国宝4体が目の前にドーンと立ち並ぶ光景を想像してほしい!!お寺と違って360度全方位観覧可である!

国宝 四天王立像のうち多聞天 鎌倉時代・13世紀
奈良・興福寺蔵(南円堂安置) 写真:飛鳥園

館の大きさがいっそう運慶の彫像を引き立たせていて、空間の持ち方が素晴らしい。いつものことながら、作品を引き立てる平成館の展示に感心する。

運慶については調査研究が日々進んでおり、近年行われたX線CT調査で像内納入品の映像も出てきて運慶研究を進展させている。 会場にはその新知見も紹介されている。

第1章     運慶を生んだ系譜 - 康慶から運慶へ

国宝 大日如来坐像 運慶作 平安時代・安元2年(1176)
奈良・円成寺蔵 写真:飛鳥園

運慶の生年は不明だが、息子・湛慶(たんけい)が承安3年(1173)生まれということと、処女作と見られるこの円成寺の大日如来坐像(国宝)を安元元年(1175)に着手しているのでおおよそ1150年頃と考えられている。

運慶の父・康慶(こうけい)は興福寺周辺を拠点にした奈良仏師に属し、院派、円派の系統の保守的な作風に対して、奈良仏師は新たな造形を開発しようとする気概があったようである。康慶作の重要無形文化財「地蔵菩薩坐像」は若々しい端正な表情、頬、顎や背面の柔らかな肉付き、着衣の表現に写実表現が進んでいて、円成寺の国宝「大日如来像」と作風が近く、運慶は父の影響を如実に受けていることがわかる。

第2章     運慶の彫刻 ‐その独創性

国宝 毘沙門天立像 運慶作 鎌倉時代・文治2年(1186)
静岡・願成就院蔵 写真:六田知弘

像内に納められていた五輪塔形の銘札の墨書から、文治2年(1186)に北条時政の発願により運慶が造ったものとわかる。引き締まった体に力がみなぎって今にも動きそうである。ハタッと見ているその目が魅惑的で、他の毘沙門天よりイケメンではないだろうか。

国宝 八大童子立像のうち制多伽童子 運慶作 鎌倉時代・建久8年(1197)頃
和歌山・金剛峯寺蔵 写真:高野山霊宝館

国宝「毘沙門天立像」に続いてのイケメンその2が国宝「八大童子立像」である。平安時代後期、12世紀作の不動明王に随う八大童子として造られたもので、八条女院という高貴な女性の発願だからか、経典では性悪とされる制多伽童子が理知的な顔に造られているのをはじめ、いずれも上品な姿である。

国宝 無著菩薩立像 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃
奈良・興福寺蔵 写真:六田知弘

やっと会えましたね、と語りかけたくなる懐かしいような感覚はなんだろう。ずっと見ていたい。作品説明に、無著、世親は5世紀、北インドに実在した学僧で、法相教学を体系化したことで知られ、無著が兄、世親は弟、2軀の像は老体と壮年に作り分けられている、とある。2メートルに迫る巨体に厚手の衣を着け、大ぶりな衣文を作って重厚な存在感を表している。しかしどう見ても日本人に見えるし、その寛容な表情、静謐な目に見守られたいと思わざるを得ない。

国宝 世親菩薩立像 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃
奈良・興福寺蔵 写真:六田知弘

第3章     運慶風の展開 -運慶の息子と周辺の仏師

運慶には六人の息子がおり、いずれも仏師になっている。そのうち単独で造った作品が残るのは、湛慶(たんけい)・康弁(こうべん)・康勝(こうしょう)である。運慶の後継者として13世紀半ばまで慶派仏師を率いた湛慶には多くの作品がある。快慶とともに造像したこともあるためか、運慶の重厚な作風より快慶の洗練に近づいている。しかし、京都・高山寺の牡牝一対の「鹿」や「子犬」、高知・雪蹊寺の「善賦師童子立像」(いずれも重要文化財)などの写実性と繊細な情感表現は、運慶風を継承しているようだ。子犬はじっと見ていたくなるほど愛らしく、温かい気持ちになる。

重要文化財 十二神将立像のうち戌神 鎌倉時代・13世紀
東京国立博物館蔵

この十二神将の様々な顔や表情、姿勢の変化に富んでいる彫像は見ていてワクワクする。割合と人間っぽい顔立ちや仕草に親しみも覚える。

国宝 天燈鬼立像 鎌倉時代・建保3年(1215)
奈良・興福寺蔵 写真:六田知弘

国宝 龍燈鬼立像 康弁作 鎌倉時代・建保3年(1215)
奈良・興福寺蔵 写真:六田知弘

並んだ天燈鬼、龍燈鬼をみたら、誰しも思いだすのではないか。確か教科書に載っていたように思う。ユーモラスで鬼とは思えない。

圧倒的な運慶ワールドが展開していく今回の展覧会は、人々を惹きつけ、足を運ぶ人が増大するだろう。ゆっくりと対峙することを許してくれそうな時間帯を狙ってほしい。

*混雑状況は、Twitter @unkei2017komi にてご確認いただけます。

展覧会公式サイト

東京国立博物館ウェブサイト

 

開始日2017/09/26
終了日2017/11/26
エリア東京都
時間開館自館 午前9時30分~午後5時
*金曜・土曜および11月2日(木)は午後9時まで開館
*入館は閉館の30分前まで
休日休館日 月曜日
*ただし10月9日(月・祝)は開館
その他備考一般1600円、大学生1200円、高校生900円
*中学生以下無料
*障害者とその介護者は無料(入館の際に障害者手帳などをご提示ください)
開催場所東京国立博物館 平成館
アクセス〒110‐8712 東京都台東区上野公園13-9
JR上野公園口、鶯谷駅南口より徒歩10分
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、東京メトロ千代田線根津駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分
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