特別展 驚異の超絶技巧! ー明治工芸から現代アートへー

05

【牙彫】 安藤緑山《胡瓜》

「驚異の超絶技巧!」と銘打って、驚きの技巧を駆使した工芸品が12月3日まで三井記念美術館で展覧されている。 サブタイトルに「明治工芸から現代アートへ」とあり、見事な明治工芸品に対峙するように現代作家15名の工芸品も展示されている。その技巧を目にすると、明治の工人達のDNAが受け継がれていることが確認できるとともに、新しいムーブメントも感じられる。現代の作家達はその超絶といえる技巧を、伝統という枠組みの中で修練したものでなく、彼ら独自で磨いてきたものである。その上で明治のDNAを感じるということは、日本人の根源にある共通する何かだろうと思う。これらの現代作家を見出し、表に押し出した山下裕二氏(明治学院大学教授)の眼力も素晴らしい。

出展されている明治工芸品の多くは、京都の清水三年坂美術館館長、村田理如氏が海外流出していたものを、この30年ほどで精力的に買戻し収集したものである。そして2014年、三井記念美術館での「超絶機構!明治工芸の粋」展に出され、一躍注目された。日本に於いて工芸作品は絵画・彫刻より下に見られ、ないがしろにされてきたと山下氏が言及しているが、この10年は明治工芸が再評価されつつあるところに、村田コレクションは拍車をかけたことになる。実際、村田氏所蔵の優品は京都国立近代美術館に移り国有化されている。

<七宝> ふたりの「ナミカワ」

【七宝】 並河靖之《蝶に花の丸唐草文花瓶》清水三年坂美術館蔵

【七宝】 並河靖之《紫陽花図花瓶》清水三年坂美術館蔵

京都を本拠とした並河靖之は、器胎に金属線を貼って文様の輪郭線を作り、釉薬をさして窯で焼きつける有線七宝という作品で、精緻な文様と洗練された色彩表現を極めている。そして東京では濤川惣助が「無線七宝」を完成させ、「にじみ」や「ぼかし」のようなのが現れ七宝に新機軸を打ち立てている。是非会場でこの二つを見比べてみて欲しい。(無線七宝は色の境目を区切る金属線を、釉薬をさした後で取り除く手法)

<牙彫> 安藤緑山とは

【牙彫】 安藤緑山《トマト》清水三年坂美術館蔵

冒頭画像の《胡瓜》といい、この《トマト》といい、象牙を精緻に彫ったものであるとは一見ではわからない。みずみずしいキュウリにつやつやしたトマト。本物だろうと誤解するほどよく出来ている。そして個人蔵の《松茸、占地》が初公開されていて、思わず「おー」と声をあげそうになる。ぜひ足を運んで松茸を堪能あれ。

安藤緑山は明治の半ばに生まれ、第二次大戦まで存命だったと推測されるが、その生年没年ははっきりせず、妻子も弟子もいたかどうかわからず、出身地も墓もわからない尽くしである。作品は天皇家や宮家に所蔵されているのもあるので、国内のごく限られた富裕層に愛玩されたのではと推測されている。三井記念美術館の主任学芸員、小林祐子氏が安藤研究の第一人者であり、詳しいことは図録にあるのでお読み頂きたい。個人蔵が多く、中には海外流出もある。象牙なのでたとえ展覧会でもワシントン条約により輸出入許可されない場合もあるから、今、目の前にある作品とは一期一会の心持ちで向き合う必要がある、と書かれている。また山下裕二教授は、こうまで詳細がわからない工人は、よほど世間と没交渉で、毎日一人黙々と象牙を彫り、ひたすら一職人としての仕事をまっとうしていたのだろう、その姿が日本美術の根幹を支えている、と言及している。西洋美術概念が日本を席巻し、工芸が評価されない時代を憂いている。

<木彫> 明治と現代

【木彫】 旭玉山《銀杏鳩図文庫》清水三年坂美術館蔵

明治期の木彫を支えたのは、仏像を制作する仏師や、寺社の柱や欄間に彫刻をほどこす宮彫師、根付を制作する根付師達であったが、その中で、根付や象牙彫刻を得意とした旭玉山の文庫が出品されている。この《銀杏鳩図文庫》は、白桐材に染角(緑色に染めた鹿角)・黒柿・黄楊・鉛・錫などを象嵌して銀杏の枝にとまる鳩を表している。木地にいろいろな素材を象嵌する技術が素晴らしい。

【木彫】 前原冬樹《一刻:皿に秋刀魚》2014年

【木彫】 大竹亮峯《飛翔》2017年

そしてこれに対峙するのは、現代作家のさんま!と飛翔!。《一刻:皿に秋刀魚》はお皿まで一刀彫である。どうやったらそこまで細密に彫れるのだろうか。現実にさんまの骨は途中2,3本折れてしまったらしい。《飛翔》も一本彫で作者は若干28才。どちらも肉眼で味わうほかない作品である。

<自在>があらわす今昔

【自在】 高瀬好山《 飛鶴吊香炉》

自在とは各部分が自由に動くことができる作品のことで、主に金属で作成される。現代作家の大竹亮峯による木製の伊勢海老は圧巻である。3匹並んだ伊勢海老の、両側2匹が明治工芸、中央が大竹の木製伊勢海老なので、比べてじっくり見てみると面白い。

<金工>でみる明治と現代の精緻

【金工】 宗金堂《象嵌銅香炉》清水三年坂美術館蔵

【金工】 正阿弥勝義《群鶏図香炉(蟷螂)》清水三年坂美術館蔵

清水三年坂美術館蔵のこの香炉2つには圧倒される。それぞれ動物モチーフを大胆に配して金銀銅などの金属を象嵌している。

【金工】 高橋賢悟《origin as a human》2015年

目を現代作家の金工に転じるとこれが金工なのだろうかと驚愕する。高橋賢悟の作品は生花を型とりしてアルミニウムで鋳造する独自の技法で、膨大な数の細かいパーツを組み合わせていて見ていて気が遠くなる。

<陶磁>なのか?

【陶磁】 稲崎栄利子《Arcadia》2016年

一見してこれは何でできていて、どうやって作るのか見当がつかない。稲崎栄利子の《Arcadia》は数ミリの輪や針状の小さな磁土のパーツを土台に繰り返し貼り付けることで成形し、その後数回の焼成を得て出来上がる陶芸作品とある。山下裕二明治学院大学教授が作品の説明にこうつぶやいている。「え、海から拾ってきたんじゃないの!?」「どうやら全部手作りらしい。。。」「体にわるいよ、やめようよ。。。」賛成!と言いたくなる。この膨大な作業量をみたら誰もが同感するだろう。

このほかにもタンポポの綿毛とか七宝のハンドバッグとか、壁面にある水墨画の《右心房左心室》とか非常に面白い作品が並んでいる。現代作家達の目指すところはどこなのかわからないが、新しい動きというか道が見えてくるような作品である。是非足を運んで欲しい。

展覧会ホームページ

開始日2017/09/16
終了日2017/12/03
エリア東京都
時間10:00~17:00(入館は16:30まで)
ナイトミュージアム:会期中毎週金曜日および9月30日(土)は19:00まで開館(入館は18:30まで)
休日月曜日、10月10日(火)。但し、9月18日(月・祝)、10月9日(月・祝)は開館
その他備考一般1,300円、大学・高校生800円、中学生以下無料
ナイトミュージアム(毎週金曜日17:00から):一般1,000円、大学・高校生500円、中学生以下無料
開催場所三井記念美術館
アクセス〒103‐0022東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
ハローダイヤル: 03-5777-8600
※美術館の入口は日本橋三井タワー1階アトリウムです。
■東京メトロ銀座線 三越前駅A7出口より徒歩1分
■東京メトロ半蔵門線 三越前駅徒歩3分、A7出口へ
■東京メトロ銀座線、東西線 日本橋駅B9出口より徒歩4分
■都営浅草線 日本橋駅徒歩6分、B9出口へ
■JR東京駅 日本橋口より徒歩7分
■JR神田駅より徒歩6分
■JR総武快速線 新日本橋駅より徒歩4分
http://www.mitsui-museum.jp/guide/map.html