ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで Fantastic At in Belgium

【1】トゥヌグダルスの幻視[ベルギー奇想の系譜]s

ヒエロニムス・ボス工房 《トゥヌグダルスの幻視》 1490-1500年頃 油彩・板
ラサロ・ガルディアーノ財団 © Fundación Lázaro Galdiano

つい先日閉会した東京都美術館での「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展」(以下「バベルの塔展」)で、初期ネーデルラントの画家、ヒエロニムス・ボス(1450頃−1516)と、続くピーテル・ブリューゲル1世(1526頃−1569)によるユニークな作品が記憶に鮮やかですが、本展はそのボスから始まり現代まで続くネーデルラント美術(15-16世紀のフランドル絵画から現在のベルギー美術)の約500年をたどる展覧会です。

その奇想の原点はやっぱりこの人、ヒエロニムス・ボス!前述の「バベルの塔展」では、巨人クリストフォロスが幼いキリストを背負って川を渡る場面の〈聖クリストフォロス〉と、聖人も聖書も関わりのない〈放浪者(行商人)〉が話題でしたが、本展ではボス工房作の〈トゥヌグダルスの幻視〉と同じくボス工房作〈聖クリストフォロス〉の油彩画2点が出展しています。まだわからないことも多いボスですが、現存するボス派の油彩画は40数点と言われています。

冒頭の写真の《トゥヌグダルスの幻視》というのは12世紀半ばに記された異界巡りの説話で、放蕩の騎士トゥヌグダルスが3日間仮死状態に陥り、その間霊が天国と地獄に導かれて恐ろしい懲罰を目の当たりにし、目覚めて改悛するというものだそうです。左下でまどろんでいるのがトゥヌグダルスでしょう。中央の巨大な頭部は確かに罪や懲罰に囲まれています。右上の「怠惰」な者には様々な怪物が襲いかかり、遠景では都市が地獄の炎に包まれ、その下で「大食」の罪を犯した人物は窒息するほどワインを飲まされ、・・・。

ボスの絵には細部に独創的な悪魔やモンスターたちが登場し、生き生きとしています。キリスト教社会にありながら、空想力とユーモアをもって可視化した罪の背景には、欲望に支配された人間への同情があったのかもしれません。当時、これほど想像力豊かな画家にいたでしょうか。ボスはイタリアではレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)やミケランジェロ・ブオナローティ(1475-1564)が活躍した時代の画家です。三菱一号館美術館で開催中の「レオナルド×ミケランジェロ展」と比べるとその違いが際立ちます。

ボスが生み出したものの大きさはその追随者や模倣者の多さが語ります。ヤン・マンデイン、ヒエロニムス・コックやピーテル・ブリューゲル1世がボスを受け継いでゆきます。特に版画は細く描かれたモノトーンなので、ピーテル・ブリューゲル1世の「7つの大罪」シリーズ(「傲慢」「嫉妬」「激怒」「怠惰」「貪欲」大食)「邪淫」)など、細部で起こっていることを見ていると、まるで漫画を読んでいるように時を忘れてしまいます。

ピーテル・ブリューゲル(父)[原画]、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫版] 《大食》
1558年 エングレーヴィング・紙 神奈川県立近代美術館

ぺーテル・パウル・ルーベンス[原画]、リュカス・フォルステルマン(父)[彫版]
《反逆天使と戦う大天使聖ミカエル》 1621年 エングレーヴィング・紙
ベルギー王立図書館

次の章では産業革命後の19世紀末から20世紀へと旅します。19世紀の象徴主義の画家たちは目に見えない世界、あるいは心の中の世界を描き出し、あるいは描いたものに深い精神性を秘めた別の意味を与えます。その先駆けとなったフェリシアン・ロップスは社会を辛辣に風刺するとともに、自由な想像力によって反社会的なエロティシズムを謳歌し、悪魔的な作品を残しました。

フェリシアン・ロップス[原画]、アルベール・ベルトラン[彫版] 《娼婦政治家》
1896年 多色刷銅版画・紙 フェリシアン・ロップス美術館

世の中が科学の時代へと大きく前進する中で、人々は自分の殻に閉じこもりたいという逃避願望が強くなり、心の闇と避けがたい死の存在は逆に鮮明さを増していきます。印象派とは真逆のこの象徴主義は、19世紀後半、前衛芸術を受け入れる土壌があったベルギーが一大中心地となります。フェルナン・クノップフは、時が止まり、音が消滅したような雰囲気を好み、両性具有的な女性像によって特徴づけられる精神性の高い繊細な世界を追究します。

ジャン・デルヴィル 《レテ河の水を飲むダンテ》 1919年 油彩・キャンヴァス
姫路市立美術館

最後の章は20世紀のシュルレアリスムから現代までです。ここで、ポール・デルヴォーもルネ・マグリットもベルギーの人だったことを思い出します。独特の詩的な、でも作品を想像するには二重、三重の回路を通さないと(通しても)腑に落ちないタイトルで、ゆさぶりをかけるマグリットは一昨年国立新美術館で大規模展があったばかりなのに、生きた場所が気にならない世界レベルの存在です。グローバリズムの現代ともなると、地域性は失われ、奇想という言葉の意味も薄れますが、静かな中に尋常でない不安をかきたてるミヒャエル・ボレマンスなど、同時代に生きる作家においても作品の個性をふりかえれば、内省的な姿勢や死への傾倒など、500年間に通底するものがあることに気づきます。

ミヒャエル・ボレマンス 《Automat(3)》 2008年 油彩、木 国立国際美術館

作品保護のため、会期中に一部展示替えを行います。前期:7/15(土)-8/21(月)
後期:8/23(水)-9/24(日)

トマス・ルルイ 《生き残るには脳が足らない》 2009年 ブロンズ
ロドルフ・ヤンセン画廊 © Studio Thomas Lerooy, Brussels,
courtesy rodolphe janssen, Brussels /Photo: Philippe D. Hoeilaart

公式ウェブサイト

Bunkamura ザ・ミュージアム展覧会ホームページ

開始日2017/07/15
終了日2017/09/24
エリア東京都
時間午前10時~午後6時(金・土曜日は午後9時まで) 入場は閉館30分前まで
休日7/18(火)、 8/22(火)
その他備考観覧料 一般 1,500円/高大生 1,000円/小中生 700円
障害者手帳のご提示で割引料金あり。詳細は窓口でお尋ね下さい
開催場所Bunkamuraザ・ミュージアム
アクセス〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
お問合せ:ハローダイヤル 03-5777-8600
■JR線「渋谷駅」ハチ公口より徒歩7分
■東京メトロ銀座線、京王井の頭線「渋谷駅」より徒歩7分
■東急東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線「渋谷駅」3a出口より徒歩5分
http://www.bunkamura.co.jp/access/