サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで Contemporary Art from Southeast Asia 1980 to Now

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ナウィン・ラワンチャイクン 《ふたつの家の物語》 2015年
シングル・チャンネル・ビデオ、アクリル、キャンバス、OKストアにあった物
展示風景:「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」
国立新美術館、2017年 撮影:上野則宏 画像提供:国立新美術館

今年はドイツで5年に一度のドクメンタ、10年に一度のミュンスター彫刻プロジェクト、それにヴェネチア・ビエンナーレが重なるという巡り合わせで、ヨーロッパから国際展・国際芸術祭の報告が続いています。

世界中の国と地域から作品を集めたのがこれら老舗の国際展・国際芸術祭ですが、本展はその中で東南アジア*に地域を限定したものと言えます。会場は国立新美術館、森美術館という大美術館2館で、参加アーティスト数86組、14名からなるキュレイトリアル・チームが2年半の現地調査をかけた、東南アジア版国際芸術祭と呼ぶにふさわしい規模です。

実際この5年、10年で世界でもっとも成長著しいのはアジアでしょう。それも東南アジアについては、植民地主義後の20世紀後半から冷戦下の戦争や内戦、独裁政権を経て近代化や民主化を迎え、眠っていた種が一気に芽を吹き出した感があります。さまざまな政治的、社会的、経済的変化を遂げてきた東南アジアは、多民族、多言語、多宗教で、多様な文化に育まれてきました。急速に経済発展する人口6億人を超える地域内は、5.1億人をかかえるEU、5.8億人の北米大陸に匹敵し、発展するそのダイナミックなエネルギーが注目されます。

*ASEAN(東南アジア諸国連合)には、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスの10カ国が加盟

会場エントランスとなる森美術館の入口吹き抜けには体長8メートルの巨大な白象が宙に浮いています。作者はアピチャッポン・ウィーラセタクン+チャイ・シリ。日本でもおなじみのアピチャッポン・ウィーラセタクンとドクメンタ13などの国際展で評価を得ているこのユニットが、タイ出身/在住であることから象をイメージできるものの、白象のリアルな造形が醸す重量感、存在感と頭上高くに横になって生気のない違和感が、ここから始まる不思議な空間へいざないます。

アピチャッポン・ウィーラセタクン+チャイ・シリ 《サンシャワー》 2017年
展示風景:「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」
森美術館、2017年 撮影:木奥恵三 画像提供:森美術館、東京

入ってすぐの展示室にある極彩色の大型平面作品3点が、1960年生まれでマレーシア出身のリュウ・クンユウの「私の国への提案シリーズ」です。実際にマレーシアの各地で撮影された人物、動物、建造物などの部分を集めて密度のある巨大なフォトコラージュに仕上げています。プリントされた写真紙の光沢と作品の大きさによってひときわ目を引きますが、それぞれの部分はキッチュな極彩色で、「国への提案」のなかにふくまれる疑問や、皮肉を提言しているようでユーモアも感じます。

リュウ・クンユウ 《そびえ立つ街》(「私の国への提案」シリーズより)
2009年 フォトモンタージュ 213 x 575 cm

映像インスタレーションのコラクリット・アルナーノンチャイは1986年タイのバンコク生まれでニューヨーク在住。映像にはタイの現代社会を、TV番組のスキャンダル、タイで爆発的な人気を誇る英国のサッカークラブ、マンチェスター・ユナイテッドなど、あらゆる現象が自然や都市の風景とともに断片的に描写され、めまぐるしく展開する映像は、作家本人と仲間たちが歌って踊るヒップホップで編集され、「今どきの若者」のMVを見るようです。しかしその映像をくつろいで見るために床に置かれたクッションはタイの主要産業であったジーンズの染色で、束ねられて壁を這うコードは蛇の神ナーガです。

コラクリット・アルナーノンチャイ 《おかしな名前の人たちが集まった部屋の中で
歴史で絵を描く 3》 2015年 ミクストメディア サイズ可変
Courtesy: Carlos/Ishikawa, London; C L E A R I N G, New York/Brussels;
BANGKOK CITYCITY GALLERY
展示風景:「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」
森美術館、2017年 撮影:木奥恵三 画像提供:森美術館、東京

マレーシア出身のロスリシャム・イスマイル(イセ)は《もうひとつの物語》で、1941年から1945年に作家の生まれ故郷のクランタン州で起きた事件を振り返っています。当時は英国の植民地支配や日本の占領政策に反対するナショナリズムが台頭した時代です。作家は、地元の人々にインタビューを行い、当時を知るお年寄りの話や地元に伝わる噂話を集めました。集められた秘密のスパイ活動や地下工作、生き残り戦術等さまざまな物語をもとにして制作したジオラマ模型とポスターが、インタビュー映像とともに展示されています。想像力や噂話を含んだ私的なストーリーが掘り起こされることで、記憶と歴史のギャップは、捉え方、信じ方を見直す余地を生み出します。

ロスリシャム・イスマイル (イセ) 《もうひとつの物語》 2017年
ミクストメディア サイズ可変
展示風景:「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」
森美術館、2017年 撮影:木奥恵三 画像提供:森美術館、東京

森美術館の展示の最後に、カラフルな透明プラスチックの風鈴が天井から無数に隙間なく下がり、軽やかな音をたてている巨大なインスタレーションがあります。作者は1967年フィリピン出身のフェリックス・バコロール。明るい色彩は楽しく、流れる空気によって奏でられる音も心地よいのですが、ふとタイトルの《荒れそうな空模様》に気づくと、フィリピン周辺で発生して天気雨(展覧会タイトルのサンシャワー)どころではない暴風雨をもたらす台風と、この地域を襲った津波で失われた多くの命が思い起こされます。忘れたころにやってくる大災害と、地球温暖化への警鐘の音にも聞こえます。

フェリックス・バコロール 《荒れそうな空模様》 2009/17年 風鈴 サイズ可変
展示風景:「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」
森美術館、2017年 撮影:木奥恵三 画像提供:森美術館、東京

これより以降は国立新美術館が会場です。

イー・イランの作品《うつろう世界》(「偉人」シリーズより)は9つある本展のセクションのタイトル「うつろう世界」にもなっています。作家は1971年マレーシアのコタキナバル生まれ。昨年末の横浜美術館での「BODY/PLAY/POLITICS カラダが語りだす、世界の隠された物語」に出展した映像作品《ポンティアナックを思いながら:曇り空でも私の心は晴れ模様》では、長い黒髪を顔の前にたらしてマレーシアの20~30代の女子がガールズトークをしているのが印象的でした。

本展ではがらりと変わり、工芸品であるろうけつ染めのバティックです。中央の藍に染まっている部分が東南アジアの交易圏で、海洋による貿易ルート、回廊地帯を強調しています。

イー・イラン 《うつろう世界》(「偉人」シリーズより) 2010年
ミマキデジタル・インクジェット・プリント、酸性染料、ろうけつ・藍染め、絹
140.5 x 298 cm Courtesy: Silverlens Galleries, Makati, the Philippine

1966年ミャンマー生まれのティン・リンの作品は、日本では想像できないほど壮絶な状況で制作されています。民主化運動に参加した後、難民キャンプに逃れて生活する中で美術を学んだ作家は、反政府活動の容疑で7年間も拘置されました。その間刑務所内で制作を続け、独房に収監された囚人の姿を石鹸に彫ったもののレプリカと、看守から秘密裏に入手した着色料を使って描いた古い囚人服が展示されています。

ティン・リン《アートの生物学》(「00235」シリーズより) 1999年
ミクストメディア、綿のシャツ 53×53cm Courtesy:Martin LeSanto-Smith

インドネシア出身のムラティ・スルヨダルモの作品《アムネシア》はパフォーマンス作品で、ミシンで黒い服を縫い、その数を数えて背後の壁に印をつけ、その間「ごめんなさい」と繰り返し続けます。感情のこもったその言葉は、彼女自身の懺悔なのか、彼女の知る周りの人の過去の罪のためなのか、あるいはまったく知らない誰かに代わっての謝罪なのか、はたまた人類が未来に果たし得ない責任や期待に対してなのか、胸がしめつけられる思いでいたたまれなくなります。

ムラティ・スルヨダルモ 《アムネシア》 2016年 ミシン、綿、チョーク、木、
パフォーマンス、ビデオ サイズ可変
パフォーマンス風景:「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」
国立新美術館、2017年 撮影:中川周 画像提供:国立新美術館

本展のポスターやチラシになっているリー・ウェンの《奇妙な果実》は、東南アジアを象徴する青い海を背景に、黄色く肌を塗った人物が上半身には中国の赤い提灯をいくつもつなげたものを纏ってこちらへ向かってくるところです。中国系シンガポール人である作家が、黄色人種であることを誇張して行ったパフォーマンスの記録写真と、パフォーマンスで使用した提灯が展示されています。

リー・ウェン 《奇妙な果実》 2003年 Cプリント 42×59.4cm

タイ出身のスラシー・クソンウォンの《黄金の亡霊(どうして私はあなたがいるところにいないのか)》には、大勢の人が集まっていました。広い床一面に5トンの糸が敷き詰められていますが、そのどこかに9本の金のネックレスが隠されていて、運よく発見した人はそれを持ち帰ることができるのです。糸の山はデコボコで雪の中を歩くようですが、悪い足下を楽しげに宝を掘り当てようとする人たちは夢に向かって格闘しているようでもあります。

スラシー・クソンウォン 《黄金の亡霊(どうして私はあなたがいるところにいないのか)》
2017年 亡霊のシンボルが施された9本の金のネックレス、5トンの糸、鏡、壁掛け作品、
アーカイバル・インクジェット・プリント、 写真、ドローイング
展示風景:「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」
国立新美術館、2017年 撮影:上野則宏 画像提供:国立新美術館

まだまだ多くの作品が大きな展示室に所狭しと展示され見所はつきません。世界に躍り出て行く地域として多方面において注目されているものの、その興味を実際の形にすることを躊躇いがちにしてしまうことのある東南アジアですが、史上最大の大規模展示を日本で見ることができるのは幸運です。日本とも関係が長く、多様で複雑な地域の「今」を現代アートを通じて知り、感じて、考える、時節を得たとてもよい機会です。

リクリット・ティラヴァーニャ《無題1996(ランチボックス)》1996年
Courtesy:  1301PE, Los Angeles and Gallery SIDE 2, Tokyo
Photo: Fredrik Nilsen

With its total population counting around 600 million, multi-ethnic, multi-lingual, multi-faith Southeast Asia has nurtured a truly dynamic and diverse culture. Contemporary art from the emerging economic powerhouse of Southeast Asia is currently earning widespread international attention. The “sunshower” – rain falling from clear skies – is an intriguing yet frequently-seen meteorological phenomenon in Southeast Asia, and serves as a metaphor for the vicissitudes of the region. This exhibition, the largest-ever in scale, seeks to explore the many practices of contemporary art in Southeast Asia since 1980s from 9 different perspectives. It aims to showcase its inconceivable dynamism of Southeast Asia that is somewhat nostalgic yet extraordinarily new. Read more

A row of nine panels, each featuring a gesturing hand, spell out the Indonesian word D-E-M-O-K-R-A-S-I in sign language. In front of each canvas is a rubber stamp of the corresponding letter and piece of paper on which visitors are invited to stamp the word.

FX Harsono (b.1949) Indonesia 《Voice Without a Voice / Sign》 1993-1994
Silkscreen on canvas, wood stool, and stamp Canvas: 143.5 x 95.5cm (each, set of 9)
Wood stool: 23 x 38 x 32cm (each, set of 9) Collection: Fukuoka Asian Art Museum
FX ハルソノ 《声なき声》 1993-94年 シルクスクリーン、キャンバス、
木の椅子、スタンプ キャンバス:各143.5 x 95.5 cm
木の椅子: 各23 x 38 x 32 cm (9点組) 所蔵:福岡アジア美術館

関連プログラムはこち

For Programs in English

展覧会ホームページ

Exhibition Website

アイ・コー/ニュー・ゼロ 《村の美術学校》 2015年~

開始日2017/07/5
終了日2017/10/23
エリア東京都
時間国立新美術館:10:00~18:00(毎週金曜日・土曜日は21:00まで)
※ 「六本木アートナイト2017」開催に伴い、9/30(土)、10/1(日)両日ともに22:00まで
入場は閉館の30分前まで
森美術館:10:00~22:00(毎週火曜日は17:00まで)
※ 「六本木アートナイト2017」開催に伴い、9/30(土)は翌朝6:00まで
入場は閉館の30分前まで
休日国立新美術館:毎週火曜日
森美術館:会期中無休
その他備考2館共通/単館
一般 1,800円/1,000円
大学生 800円/500円
・高校生及び18歳未満の方(学生証または年齢のわかるものが必要)は無料。
・障がい者手帳をご持参の方(付添の方1名を含む)は無料。
開催場所国立新美術館 企画展示室2E The National Art Center, Tokyo
森美術館  Mori Art Museum
アクセスお問合せ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

<国立新美術館>
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
・東京メトロ千代田線乃木坂駅 
青山霊園方面改札6出口(美術館直結)
・東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分
・都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分
http://www.nact.jp/information/access/
<The National Art Center, Tokyo>
・Tokyo Metro Chiyoda Line Nogizaka Station, Direct access from Exit 6
・Tokyo Metro Hibiya Line Roppongi Station, Approximately 5-minute walk from Exit 4a
Toei Oedo Subway Line Roppongi Station, Approximately 4-minute walk from Exit 7
http://www.nact.jp/english/information/access/
<森美術館>
〒106-6150 東京都港区六本木6-10-1
六本木ヒルズ森タワー53階
http://www.mori.art.museum/jp/info/index.html
<Mori Art Museum>
http://www.mori.art.museum/en/info/index.html#access