生誕140年 吉田博展 山と水の風景 YOSHIDA HIROSHI A Retrospective

YOSHIDA-3-26

《穂高山》 大正期 油彩 個人蔵
《Mt. Hotaka》1912 – 26 Private collection

明治から昭和にかけて風景画の第一人者として活躍した吉田博(1876‐1950)の生誕140年を記念する回顧展です。

福岡県久留米市に生まれた吉田博は、10代半ばで画才を見込まれ、上京して小山正太郎の洋画塾不同舎に入門します。仲間から「絵の鬼」と呼ばれるほど鍛錬を積み、実力をつけた博は、1899年片道切符とわずかな生活費を持って塾仲間の中川八郎と渡米します。折しも黒田清輝らが主導する白馬会が洋画界を席巻し始めており、その門下たちが国費で続々と仏留学していることへの対抗心もありました。

《冬木立》 明治27‐32(1894‐99)年 水彩 横浜美術館蔵
《Cluster of Trees in Winter》1894‐99 Yokohama Museum of Art

デトロイト美術館の館長に自作の水彩画を見せたことで道が拓け、同館で中川との2 人展を開催します。博だけでも1000ドルを売上げる(小学校教諭13年分の生活費に相当)という快挙をなし、ボストン、ワシントン等で次々と展覧会を成功させヨーロッパに向います。帰国後には太平洋画会の結成に参画し、1903 年には、不同舎で学ぶ義妹ふじをとともに再び渡米、各地で2人展を開催し好評を博しました。

《チューリンガムの黄昏》 明治38(1905)年 油彩 福岡市美術館蔵
《Tyringham at Dusk》1905 Fukuoka Art Museum

1907 年、欧米から帰国した博は、義妹ふじをと結婚、第1回文展(文部省美術展覧会)で水彩画《新月》が三等賞を受賞、以後同展で連続受賞を重ねて第4回展では弱冠32歳で審査員に任命されるなど、日本の洋画壇の頂点へと登りつめていきます。1908 年の第6 回太平洋画会展に4 年にわたる2 人の滞欧米作品226 点が出品されますが、夏目漱石の小説『三四郎』では、「長い間外国を旅行して歩いた兄妹の画が沢山ある」展覧会に三四郎と美禰子が訪れ、美禰子が1枚の絵に目をとめ「ヴェニスでしょう」と語りかけたのは《ヴェニスの運河》とされています。その後に「三井」という画家が描いたヴェラスケスの模写が登場し、原画の趣を巧にとらえるが漱石は「あまり感服出来ない」と語られますが、それは《メニッポス》と推定されています。

《ヴェニスの運河》 明治39(1906)年 油彩 個人蔵
《A Canal in Venice》1906 Private collection

また毎夏、日本アルプス等の高山に登り、雄大な山の光景をテーマに多くの油彩画を描きました。何ヶ月か籠り、高山を愛し題材とする山岳画家としても知られています。

木版画との出会いは、浮世絵の復興を目指した版元渡邊庄三郎から《明治神宮の神苑》の下絵を依頼されたことに始まります。しかし1923年の関東大震災で渡邊版の版木と作品を全て焼失してしまい、被災した太平洋画会員を救うため、3回目の渡米の途についた博は、アメリカで低俗な幕末の浮世絵が人気であることに不満を抱き、独自の木版画制作に取り組むことを決意します。ヨーロッパを巡り1925年に帰国、自ら彫師と摺師を抱えて監修する私家版制作に乗り出したのは49歳の時でした。

《日本アルプス十二題 劔山の朝》 大正15(1926)年 木版 個人蔵
《Tsurugizan- Morning, Twelve Scenes in the Japan Alps》1926 Private collection

猛勉強により、洋画のタッチを基調とした新感覚の木版画が完成します。水絵具の扱いは瑞々しく、浮世絵とは異なる色分けと版構成の緻密な計算により、平均30数度という摺数の多さで高度な伝統技術を使いながら、色彩などの効果を得た木版画は、最後の作品まで約20年間に250 種にも及びます。

吉田博は日本よりも早くから欧米で評価され知名度を上げた画家です。洋画の描写と浮世絵版画の伝統技法を融合させた独自の木版画はとりわけ人気が高く、GHQのマッカーサーやイギリスのダイアナ妃といった海外の要人に愛され、またオーストリアの精神医学者フロイトの書斎には富士山を描いた木版画が飾られていたといいます。この写真では、ダイアナ妃の執務室の壁に吉田博の2点の木版画が掛けられています。

《ケンジントン宮殿の中にある執務室のダイアナ妃》
イギリスの王室雑誌『Majesty』1987年より 写真提供:吉田司

向かって右は《瀬戸内海集 光る海》(1926年)(本展出品作)、左は奈良の名 所を題材にした《猿澤池》(1933年)。

9月3日まで神奈川県立近代美術館葉山で「没後90年 萬鐵五郎展」が開かれています。萬鐵五郎は1885年生まれですので吉田博の9歳年下の同時代の画家です。岩手県生まれの萬と福岡県出身の吉田、海外へ出たことがない萬と若いころの欧米のみならず後半生ではインド、東南アジアにも渡航した吉田、人物画の萬と風景画の吉田、海外の表現を吸収し個性的な作品を残した萬と写実的な画風をかたくなに守った吉田、41歳で没した萬と49歳で再出発した吉田、と、とても対照的です。明治、大正の洋画壇の広がりを象徴する2人です。

会期中展示替えがありますが、掲載画像は全て全会期展示の作品です。
前期展示期間:2017年7月8日(土)~7月30日(日)
後期展示期間:2017年8月1日(火)~8月27日(日)

展覧会ホームページ

美術館ホームページ

《瀬戸内海集 帆船 朝》 大正15(1926)年 木版 個人蔵
《Sailing Boats – Morning, The Inland Sea Series》1926 Private collection

A painter dubbed the “demon of painting,” who continued to challenge the world with watercolors, oil paintings, and woodblock prints.

Princess Diana and psychiatrist Sigmund Freud were among those enamored by his work.

A retrospective exhibition commemorating 140 years since the birth of Hiroshi Yoshida (1876-1950), a leading landscape painter during the Meiji and Showa eras.

Hiroshi Yoshida was born in Kurume, Fukuoka Prefecture. His budding talent then led him toTokyo in his mid-teens, where he studied Western-style painting at a private school under Shotaro Koyama. Known by his colleagues as the “demon of painting” for his uncompromising attitude, he traveled to the United States in 1899 where he held several exhibitions, and won acclaim for his watercolor painting technique and the high quality of his work. He later traveled around Europe and the United States, where he presented oil paintings and woodblock prints of various landscapes around the world and Japan, and continued his endeavors through the Taiheiyo Art Association and government-sponsored exhibitions.

Yoshida painted a myriad of landscapes to capture natural beauty and is also known for being particularly fond of capturing mountain peaks in his works; he even made a point of climbing the Japanese Alps every year. There is a rich expressiveness present throughout his works, underpinned by his careful attention to nature and assured technique, that has captivated many people both in Japan and around the world, and has left an indelible impression on the history of contemporary Japanese painting.

This exhibition features over 200 carefully-selected watercolors, oil paintings, and woodblock prints ranging from early in his career until his later years that capture the totality of Hiroshi Yoshida and his appeal.

Some of the displays will be changed during the exhibition. First half: July 8–30; Second half: August 1–27

Exhibition Homepage

《初秋》 昭和22(1947)年 油彩 個人蔵
《Early Autumn》1947 Private Collection

開始日2017/07/8
終了日2017/08/27
エリア東京都
時間午前10時から午後6時まで(入館は午後5時30分まで)
休日月曜日休館(ただし7月17日は開館、翌18日も開館)
その他備考観覧料:一般1,200円、大学・高校生800円、65歳以上1,000円
※2回目以降は有料半券提示で、一般800円、大学・高校生500円、65歳以上800円
※中学生以下無料
※身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳をご提示のご本人とその付添いの方1名は無料。被爆者健康手帳をご提示の方はご本人のみ無料。
開催場所東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
アクセス〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1 
損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル:美術館利用案内)
http://www.sjnk-museum.org/access