没後40年 幻の画家 不染鉄展

1 山海図絵(伊豆の追憶) 大正14(1925)年 木下美術館蔵s

《山海図絵(伊豆の追憶)》
大正14 (1925)年 木下美術館蔵

JR東京駅丸の内北口の改札を出てすぐ右側に東京ステーションギャラリーがある。日本の中でもアクセス抜群の美術館ではないだろうか。今回「没後40年 幻の画家 不染鉄展」を7月1日(土)から8月27日(日)まで開いている。

不染鉄(ふせん てつ)をご存知だろうか。東京ステーションギャラリーの説明では、「不染鉄 〈明治24(1891)年~昭和51(1976)年〉は稀有な経歴の日本画家で、20代初め、日本芸術院研究会員になるも、写生旅行に行った伊豆大島・式根島で、なぜか漁師同然の生活を3年送り、今度は京都市立絵画専門学校(現・京都市立芸術大学)に入学、特待生となって帝展に入選、主席で卒業した。その後も度々帝展に入選するも戦後は画壇を離れ、奈良で晩年まで飄々と作画を続けた」とある。これまで美術館で開かれた回顧展は、21年前の唯一回のみで、その画業の多くは謎であるらしい。

とにかく不思議な絵であるが、じっと見ていると懐かしく温かい気持ちになる。少し暗めの色彩にもかかわらずほっとするのは何故だろう。展覧会構成に従って紹介していく。

第1章     郷愁の家

《林間》
大正8(1919)年頃 奈良県立美術館蔵

何ともふわっと温かく感じる絵である。絵の中に入って戸を開け、囲炉裏(きっとあるだろう!)にあたりたくなる。

明治24年(1891)年、東京小石川の光円寺に生を受けた不染鉄は、伊豆大島・式根島で3年もの間漁師として暮らしたが、その後、京都市立絵画専門学校に入学し、四季折々の山や海、人里にひっそりと佇む家を主題として作画している。横山大観らによって試みられた朦朧体を思わせる作品は、不染が若くして優れた日本画の技法を習得し、瑞々しい感性も兼ね備えていたことをうかがわせる。この時代に《寒林白鷺(上村松篁共作)》があり、彼の幅広い交友と画才が認められていることがわかる。

第2章     憧憬の山水

大正期には、大正10(1921)年「日本南画院」が結成され、南画に対する再評価の機運が高まった。この時代に描かれた《山村秋声》も温かく懐かしい絵である。また《西ノ京》も是非じっくり見て欲しい。昭和15(1940)年、大東南宗院が設立されると、不染も《秋》を招待出品している。理想と現実の風景を織り交ぜた山水画に、自由闊達に筆を揮いている。

第3章     聖なる塔・山

《薬師寺東塔の図》
昭和45(1970)年頃 個人蔵

《薬師寺東塔の図》は不思議な風景と時間である。この青の色は実際にはないだろうが、でもこういう風に見える「一瞬」があるのかもしれないと思える。

昭和21(1946)年、正強高等学校(現・奈良大学付属高等学校)校長に就任、昭和51(1976)年に他界するまで奈良に住み続ける。その間、薬師寺東塔をしばしば作品にしている。それに加えて好んだ富士山を、大正末期から長きに渡り繰り返し描いている。冒頭にある《山海図絵(伊豆の追憶)》は大胆な構図だが、細部の緻密さは見事である。

第4章     孤高の海

《南海之図》
昭和30(1955)年頃 愛知県美術館蔵

《南海之図》は一見した時、波立つ海の暗さやもくもくとした島に怖さを感じたが、その印象と反比例するような小舟の白い帆が妙に明るくて可愛く惹きつけられる。

昭和27(1952)年、不染は正強学園理事長を退任し、画業に専念する。そして若い頃過ごした伊豆大島・式根島を思い出し、堰を切ったように海を描く。

《廃船》
昭和44(1969)年頃 京都国立近代美術館蔵

少し不気味だろうか。よく見ると手前の人家の一部が燃えている。それなのにこの静寂さは何だろう。しかし船の向こうの明るさが未来に見えてくる。

第5章     回想の風景

《古い自転車》
昭和43(1968)年 個人蔵

《古い自転車》は、東京ステーションギャラリーの駅の構造物にピタッとはまるような、まるで壁の一部のような感じさえする。

絵の上部に細かく書かれた自筆の文が自転車とよいコンビネーションで、これで丸ごと彼の絵なのだと思う。老境に入り、一人悠々自適に暮らす不染のもとに、人柄にひかれた奈良女子大学の学生らが集い、年の差を超えた交流が始まる。不染からは日常生活やユーモアにあふれた絵ハガキを送ったりした。こうした創作意欲を掻き立てる存在ができたことで、晩年には情感豊かな作品が生まれ「いい人になりたい」と願った不染の無垢な思いが伝わる。特に《落葉浄土》には、まさしくその思いが現れている。

《落葉浄土》
昭和49(1974)年頃 奈良県立美術館蔵

初めて不染鉄を知り、初めて作品に触れて、とても新鮮な気持ちになった。今までみたことがない日本画である。不染の海、不染の富士、不染の木・家とすべてに「不染の」と付けたくなるくらい今まで見た絵と別物である。しかしとても懐かしい。是非、実物を見て欲しい。東京ステーションギャラリーの壁や雰囲気とマッチして、とても気持ちのよい展覧会である。

東京ステーションギャラリーホームページ

開始日2017/07/01
終了日2017/08/27
エリア東京都
時間10時~18時(金曜日は20時まで)入館は閉館の30分前まで)
休日月曜日(7月17日は開館)、7月18日 
その他備考入館料:一般900円、大高校生:700円、中学生以下:無料
開催場所東京ステーションギャラリー
アクセス〒100‐0005 東京都千代田区丸の内1-9-1
☎03‐3212‐2485
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/access.html