アルチンボルド展 Arcimboldo: Nature into Art

1.《春》s

ジュゼッペ・アルチンボルド《春》 1563年 油彩/板 マドリード、
王立サン・フェルナンド美術アカデミー美術館蔵
© Museo de la Real Academia de Bellas Artes de San Fernando. Madrid

画家の名前を覚えていなくても、作品には強烈な印象が残っているのではないでしょうか。上の絵の花と葉のように、ある種類やテーマで野菜や果物、魚、動物、日用品などが寄せ集まってできている人物画です。

襟に清らかな白い花が集められているだけでなく、眼球も花びら、イヤリングをして頭の百合は帽子の白い羽根でしょうか。紅色の頬や唇から、健康や富に恵まれ、我が世の春を謳歌している人物の肖像画にぴったりのディテールです。顔をなす花、体を覆う草木あわせて80種類もの植物で描かれています。

ジュゼッペ・アルチンボルド《紙の自画像(紙の男)》 1587年 鉛筆、ペン、インク、水彩、
灰色の淡彩/紙 ジェノヴァ、ストラーダ・ヌオーヴァ美術館ロッソ宮蔵
Genoa, Gabinetto Disegni e Stampe di Palazzo Rosso

(紙がモチーフの自画像。襟の1587は制作年、額の61は年齢)

画家の名はイタリア・ミラノ生まれのジュゼッペ・アルチンボルド(1526-1593年)。時代は宗教画や歴史画がまだまだ全盛の16世紀。最近終了した「バベルの塔展」のヒエロニムス・ボスやピーター・ブリューゲル(一世)の北ヨーロッパではいち早く世俗が新しいテーマとして芽生えつつも、「大エルミタージュ展」に出展されていた同時期の作品を考えると、そのユニークさは際立っています。日本にも北斎や国芳などの絵師に体の形が集まって人の顔になっている寄せ絵がありますが、あふれるユーモアや創意が共通するものの、18-19世紀のことです。

このとびきり奇抜な人物画の作者、アルチンボルドの生涯と、その類い稀な作風の背景を本格的に紹介する日本初の展覧会です。

ジュゼッペ・アルチンボルド《夏》 1572年 油彩/カンヴァス デンヴァー美術館蔵
©Denver Art Museum Collection: Funds from Helen Dill bequest, 1961.56
Photo courtesy of the Denver Art Museum
(襟にアルチンボルドの名前と肩に制作年が編み込まれている)

画家の家に生まれたアルチンボルドは父のもとで修行を重ね、父とともにミラノ大聖堂の造営局で働き、36歳でウィーン宮廷の召喚を受けて以後25年間、ハプスブルク家の3代の神聖ローマ皇帝に仕えます。61歳でミラノに戻りますが、寄せ絵の人物画の多くは宮廷画家であった時代に描かれています。

ジュゼッペ・アルチンボルド《秋》 1572年 油彩/カンヴァス デンヴァー美術館蔵
©Denver Art Museum Collection: Gift of John Hardy Jones, 2009.729
Photo courtesy of the Denver Art Museum

さて、現在三菱一号館美術館において「レオナルドxミケランジェロ展」が開催中ですが、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の23歳年下がミケランジェロ・ブオナローティ(1475-1564)で、ジュゼッペ・アルチンボルドはそのまた51歳下となります。アルチンボルドがミラノで生まれた時レオナルド・ダ・ヴィンチはすでに亡いのですが、ミラノはレオナルド・ダ・ヴィンチにとって20年間もの拠点であり、うち17年はミラノの宮廷画家でもあったので、アルチンボルドはその自然主義的傾向に影響を受けたでしょう。展示は第1章にレオナルド・ダ・ヴィンチ他の作品で15世紀末から16世紀を概観します。

ジュゼッペ・アルチンボルド《冬》 1563年 油彩/板 ウィーン美術史美術館蔵
© KHM-Museumsverband

(連作の第一号。藁のマントに編み込まれたMの文字はマクシミリアン2世を表す)

第2章にアルチンボルドが仕えた神聖ローマ皇帝3代、皇帝フェルディナント1世、皇帝マクシミリアン2世、皇帝ルドルフ2世と、皇女たちの肖像が並び、ハプスブルク家へと舞台が移ります。アルチンボルドは祝祭の服飾デザインも手がけ、単なる画家というより、祝祭の総合演出家、宮廷の総合アートディレクターのようなポジションだったようです。

ジュゼッペ・アルチンボルド(?)《大気》 油彩/カンヴァス
スイス、個人蔵

次の展示室は代表作の「四季」と「四大元素」のための部屋で、「春」「夏」「秋」「冬」と「大気」「火」「大地」「水」の8点の人物画が四方の壁に展示され、壮観です。これらを見た当時の人々(きわめて限られているでしょうが)はどう感じたのでしょうか。最初の1枚である「冬」の枯れた幹や、無数の鳥が集まる「大気」、魚が集まる「水」と動物の「大地」。遊び心満載ですが、不気味な人物画に皮肉や批判を感じないでしょうか。「四季」と「四大元素」が皇帝への献上品であり、君主を表す幾多のシンボルが埋め込まれているとしても、豪華な衣装を纏い、写実的に(多少美化して)描かれる方が権力者の好みではないかと疑問です。

ジュゼッペ・アルチンボルド《大地》 1566年(?) 油彩/板
リヒテンシュタイン侯爵家コレクション蔵
©LIECHTENSTEIN,The Princely Collections,Vaduz-Vienna

次のセクションには水棲生物や鳥の博物図譜などが展示され、壁には標本や本がぎっしりの博物館のような一室の様子が貼られています。この部屋は「クンストカンマー(芸術と驚異の部屋)」で、「ミュージアム(博物館/美術館)」の原型です。大航海の始まった当時、世界中から珍しいものが集められ、自然の驚異にも関心が高まっていました。パブスブルク家は世界を手中に収めようという政治的野望のみでなく、巨大な富を背景に知的野心にもあふれていたのです。クンストカンマーはアルチンボルドが仕えたフェルディナント1世によって創設され、自然科学に関心の深いマクシミリアン2世によって充実し、稀代の芸術愛好家であるルドルフ2世によって傑出し、ハプスブルク家のコレクションの黄金時代を迎えます。珍しい動植物もアルチンボルドによって写実的に描かれ、人物画のモチーフになります。アルチンボルドの奇怪な人物画が3代によって寵用された背景ということでしょう。

ヤーコポ・リゴッツィ《ハチクマ》 黒鉛、水彩、テンペラ/紙
フィレンツェ、ウフィツィ美術館 素描版画室蔵
Gabinetto Fotografico delle Gallerie degli Uffizi

最後のセクションに「上下絵」というのがあります。ヘルメットを冠り野菜でできた顔を上下反転してみると、器に盛られた野菜となる仕掛けです。滑稽で愉快なのですが、こころなしか画中の人物の笑みにからかいが混ざっているように感じます。誇らしげなアルチンボルドが見えるようです。

ジュゼッペ・アルチンボルド《庭師/野菜》 油彩/板 クレモナ市立美術館蔵
Sistema Museale della Città di Cremona – Museo Civico “Ala Ponzone” /
Museo Civico “Ala Ponzone” – Cremona, Italy

アルチンボルドの人物画は400年後、20世紀のシュルレアリストたちに大きな刺激となりました。昨年神奈川県立近代美術館 葉山で開催され、現在渋谷区立松濤美術館で開催中の「クエイ兄弟展」のアニメーション作品にもアルチンボルドの「司書」にそっくりのパペットが登場します。アルチンボルドの知略による寓意は21世紀の現代にも生きています。

ジュゼッペ・アルチンボルド《司書》 油彩/カンヴァス スコークロステル城蔵
©Skokloster Slott/Samuel Uhrdin

展覧会特設サイト

関連イベント(講演会スライドトーク

Giuseppe Arcimboldo (1526-1593) was a painter born in Milan, Italy and active in the latter half of the 16th century at the Hapsburg court in Vienna and later in Prague.

Arcimboldo was a multifaceted “court entertainer”, whose unique and whimsical works gained favor with Rudolf II, Holy Roman Emperor and lover of rare artworks.

Arcimboldo’s name is primarily and widely remembered as the creator of numerous allegorical portraits, where the subject’s form is made up of a truly ingenious combination of unrelated motifs, such as fruit, vegetables, fish and books. These strange, cipher-like paintings, in which it is hard to separate the interactions between fantasy and reason, surprise, stimulate and amuse the senses and invite interpretation. They proved to be a major stimulus for the Surrealists and later artists of the 20th century.

The approximately 100 works in this exhibition — arranged around a core of drawings and about 10 oil paintings by Arcimboldo lent by major museums worldwide — will help viewers understand the secrets behind his creation of an imaginary world, along with his influence on his successors. We hope that visitors will enjoy this first introduction in Japan of Arcimboldo’s weirdly witty and wonderful artistry.

Lectures and Slide Talks will be also held at a museum. Please visit each page for detail.

Exhibition Homepage

ジュゼッペ・アルチンボルド《自画像》 ペン、青の淡彩 プラハ国立美術館蔵
©2017 National Gallery in Prague

開始日2017/06/20
終了日2017/09/24
エリア東京都
時間午前9時30分~午後5時30分 
毎週金・土曜日:午前9時30分~午後9時 (ただし6月23日、24日は午前9時30分~午後8時)
・入館は閉館の30分前まで
9:30 am – 5:30 pm
Fridays, Saturdays 9:30 am - 9:00 pm (23 June, 24 June 9:30 am – 8:00 pm)
・Admission ends 30 mins. before closing time
休日月曜日(ただし、7月17日、8月14日、9月18日は開館)、7月18日(火)
Mondays, except 17 July, 14 August and 18 September 2017 Closed on 18 July 2017
その他備考観覧料金:一般 1600円、大学生1200円、高校生 800円
Adults 1,600 yen, College students 1,200 yen, High school students 800 yen
開催場所国立西洋美術館
The National Museum of Western Art
アクセス〒110-0007 東京都台東区上野公園7番7号
7-7 Ueno-koen, Taito-ku, Tokyo 110-0007
・JR上野駅下車(公園口出口)徒歩1分
・京成電鉄京成上野駅下車 徒歩7分
・東京メトロ銀座線、日比谷線上野駅下車 徒歩8分
http://www.nmwa.go.jp/jp/visit/map.html
・JR Yamanote Line, 1 minute from Ueno Station, Park Exit
・Keisei Line, 7minutes from Keisei Ueno Station
・Ginza or Hibiya Subway Lines, 8 minutes from Ueno Station
http://www.nmwa.go.jp/en/visit/map.html