没後90年 萬鐵五郎展 YOROZU Tetsugoro 1885-1927

裸体美人s

《裸体美人》1912年 油彩、画布 東京国立近代美術館蔵(重要文化財)

初めて《裸体美人》に会ったのは小学校か中学校の教科書だったでしょうか。ということは、およそ日本人なら誰でも見たことがある絵ということです。実際、その野性的ともいえる大胆さは忘れられないでしょう。

そのうちに、赤と緑、ピンクとブルーの相対する色や、黒々とした目鼻、眉毛、髪とあられもない脇毛の裸婦が、日本がまだ西欧化の途中にあった時代に描かれたことに驚き、さらに、立っているのか寝そべっているのかわからない不思議なポーズや、ゴッホを想わせる色彩とタッチ、卒業制作の作品で教官の黒田清輝、当時の洋画界のドンに反発したという逸話も知るようになると、益々惹かれてゆきます。濃厚な空気感、強烈な存在感は100年経っても褪せることなく、逆に不安定で希薄化した社会に生きるわたしたちに喝を入れられているような気さえします。

東京国立近代美術館の所蔵によってコレクション展に出されていることが多く、実物を目にする機会のもっとも多い絵画のひとつでもあります。

しかし、他にどのような作品が描かれたのか、知っている人は多くはないと思われます。萬鐵五郎(1885-1927)の画業を出品点数約400点によって総合的に紹介する大回顧展です。

《ガス灯》 1913年頃 油彩、画布 横須賀美術館蔵

展示は生まれ故郷の岩手県土沢(現在花巻市)から41歳で没する茅ヶ崎時代までを時系列にたどります。幼い頃から日本画を習っていたとされ、12歳のころの画帳があります。10代で描かれた鉛筆画や水彩画は、すでにある到達点に達しているようです。油彩画は10代後半ころ登場しますが、1907年に東京美術学校西洋画科に入学します。1912年の卒業制作の《裸体美人》まで、作品の多くは学校での制作なのでしょう。ほとんどが裸婦像などの人物像で《裸体美人》につながっているように見えます。

同時期の作品に《雲のある自画像》と《仁丹とガス灯》があります。《裸体美人》に止まらず、自己の内面を見つめる作品や技法の試みなど、広がりを求める姿がうかがえます。

《仁丹とガス灯》 1912年頃 油彩、板 岩手県立美術館蔵

時代が大正に入ると風景画が多くなります。特に療養のため土沢に戻っていた時期には、同じ作家と思えないほど明暗や彩度が乏しく、展示室全体がつち色になったようです。写真の《かなきり声の風景》は例外的です。

《かなきり声の風景》 1918年 油彩、画布 山形美術館寄託

その延長線上には、集大成とも言える1917年制作の《もたれて立つ人》があります。土沢時代に構想されたキュビズムによる人物画ですが、「自分の趣味で選んだ色」というつち色を帯びた朱色の肌は、東北の家々で代々使い込まれた漆器を思わせます。東京国立近代美術館所蔵の本作と岩手県立美術館所蔵の習作が並んでいるのもみどころです。

キュビズムの始まりはピカソが1907年に制作し、1911年のアンデパンダン展で一般に発表した《アビニヨンの娘たち》と言われています。一度も渡欧経験がなく、療養中でもある萬鐵五郎が、すばやく最新の表現を消化していることは、常にヨーロッパの同時代の動向にどん欲で、キュビズムに強くインスパイアされ、取り入れてみる姿勢だったことを思わせます。萬鐵五郎はピカソの4歳年下です。

《松林》 1922年頃 紙本彩色 萬鉄五郎記念美術館蔵 (後期展示)

大正の中期以降、墨で描いた作品が登場します。幼いころから慣れているとは言え、油彩で評価され、ヨーロッパを強く意識していた萬にとっては、1921(大正10)年に「日本南画院」が結成され南画に対する再評価の機運が高まったことや、療養中の身体に負担が軽いことも無関係ではないでしょう。ほとんどが日常の風景で、そのところどころに見え隠れする人物があの萬鐵五郎かと思うほど、ヘタウマの可愛らしさです。その明るいユーモアは時に油彩にも表れます。茅ヶ崎で療養中に関東大震災にあいますが、震源地が相模湾であったため療養所は一部崩壊します。1924 (大正13)年制作の《地震の印象》は、測候所の塔も病院の屋根も山も畑も大揺れの最中で、人も空に舞い上げられ、漫画のようです。

《日の出》 1919年頃 紙本彩色 萬鉄五郎記念美術館蔵 (後期展示)

1926年制作の油彩画《水着姿》は写真ではわかりづらいですが、これまでと違って薄塗りです。色もこれまでにない組み合わせでフラットに仕上げられています。最晩年の1927年未完の《裸婦(宝珠を持つ人)》では顔のない裸婦が右手に宝珠をかざしています。庭に面した襖と障子と縁側のある日本間で左手は西洋の小テーブルにおかれています。病気の長女の回復を願ったものとか、故郷の毘沙門天像への信仰などの解釈が有りますが、未完にしても謎の多い絵です。

《水着姿》 1926年 油彩、画布 岩手県立美術館蔵

全体を見渡すと、たった20年ほどの間に、一人の画家の作品と思いえないほど多様で、それぞれに数があり、絵画に対する飽くなき探究心と試みが印象として残ります。学生時代のデッサン画から絶筆まで、肉厚な存在感を放つ裸婦像がホームと言えるでしょうが、本拠地以外へも積極的に遠征し、アウェイがどこであろうと自己のものとして昇華させ、トップレベルへ挑戦した、世界に誇れる画家といえます。

8月27日まで東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で「生誕140年 吉田博 山と水の風景」が開かれています。吉田博は1876年生まれですので萬鐵五郎の9歳年上の同時代の画家です。岩手県生まれの萬と福岡県出身の吉田、海外へ出たことがない萬と若いころの欧米のみならず後半生ではインド、東南アジアにも渡航した吉田、人物画の萬と風景画の吉田、海外の表現を吸収し個性的な作品を残した萬と写実的な画風をかたくなに守った吉田、41歳で没した萬と49歳で再出発した吉田、と、とても対照的です。明治、大正の洋画壇の広がりを象徴する2人です。

前期展示:7月1日 – 7月30日
後期展示:8月1日 – 9月3日

展覧会ホームページ

神奈川県立近代美術館 葉山館ホームページ

《雲のある自画像》 1912-13年頃 油彩、画布 岩手県立美術館蔵

The daring expressions by YOROZU Tetsugoro (b. 1885 Tsuchizawa, Iwate – d. 1927 Chigasaki, Kanagawa) stood out prominently among the individualistic artists of the Taisho period. In addition to representative oil paintings such as Nude Beauty, Leaning Woman, and Self-portrait, this exhibition also focuses on his ink paintings, which have not been featured so much before.

It is twenty years since a major retrospective of Yorozu’s works has been held. The changes of his artistic styles and expressions and the relativity of his works to other oil paintings of the time are considered through altogether 400 or so works.

Exhibition Homepage

The Museum Homepage

《川辺の石垣》 1914-16年頃 紙本墨画 萬鉄五郎記念美術館蔵 (前期展示)

開始日2017/07/01
終了日2017/09/03
エリア神奈川県
時間午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休日月曜日(7月17日は開館)
その他備考観覧料:
一般1,000円、
20歳未満・学生850円、
65歳以上500円、
高校生100円


※中学生以下と障害者手帳等をお持ちの方(および介助者原則1名)は無料。

※ファミリー・コミュニケーションの日:毎月第1日曜日(7月2日、8月6日、9月3日)は、18歳未満のお子様連れのご家族は割引料金(65歳以上の方を除く)でご観覧いただけます。

※8月6日(日曜)は「会話を楽しむ日」。小さなお子様連れの方も遠慮なくご観覧ください。
開催場所神奈川県立近代美術館 葉山 The Museum of Modern Art Hayama
アクセス〒240-0111
神奈川県三浦郡葉山町一色 2208-1

電話:046-875-2800(代表)
JR横須賀線でお越しの場合
JR横須賀線「逗子」駅前(3番のりば)から京浜急行バス「逗11、12系統(海岸回り)」に乗車し、「三ヶ丘・神奈川県立近代美術館前」で下車(所要時間約20分)。
京浜急行でお越しの場合
京浜急行「新逗子」駅前(南口2番のりば)から京浜急行バス「逗11、12系統(海岸回り)」に乗車し、「三ヶ丘・神奈川県立近代美術館前」で下車(所要時間約18分)。
横浜横須賀道路でお越しの場合
逗子インターチェンジから逗葉新道経由で7.6km
横須賀インターチェンジから県道27号横須賀葉山線経由で7.2km
http://www.moma.pref.kanagawa.jp/hayama/access.html
For Admissions and Access
http://www.moma.pref.kanagawa.jp/en/hayama/info.html