国立新美術館開館10周年 ジャコメッティ展 10th Anniversary of the National Art Center, Tokyo Alberto Giacometti Collection Fondation Marguerite et Aimé Maeght

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マーグ財団美術館の中庭に立つジャコメッティ
Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)

ジャコメッティ(1901-1966)は、日本でも広く知られていますね。あの、針金のように細い人物像は、誰でも忘れられないのではないでしょうか。わたしも初めて見た時に釘付けになりました。どの作品も極端に縦に細長く、表面もデコボコで、そんな人は実際にいるわけはないのに、その人の存在を確信できます。

子どもにそう思わせるほどの芸術家ですが、美術史上も重要な位置を占め、世界的にも20世紀を代表する彫刻家です。哲学者の矢内原伊作氏との交流があり、日本でも1973年の西武美術館での回顧展以来開催された展覧会もあり、また作品を所蔵する美術館もありますから、比較的親近感のある芸術家と言えるでしょう。

アルベルト・ジャコメッティ《大きな像(女:レオーニ)》1947年 ブロンズ
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス
Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)

今回はジャコメッティの世界三大コレクションの一つ、フランスのマーグ財団の作品を中心にしていますが、特徴としては、ジャコメッティにとって「黄金の道」であり、彫刻にも絵画にも基礎的で、わけても美的認識が獲得される、素描作品が多く、この芸術家の創作を掘り下げています。

少年期、アルベルト・ジャコメッティは画家である父親から「見える物を見えるままに描く」ことを学びますが、「実物大」にならず小さくなってしまうという、自分が対象に向き合った時の困難に向き合います。1922年にスイスからパリへ出て美術を学ぶと、初期にはキュビズム時代の作品、またアフリカの彫刻やシュルレアリスムに影響をうけた作品を制作します。これら、記憶を頼りとした作品が最初の展示室にまとめられています。

アルベルト・ジャコメッティ《女=スプーン》1926/27年 ブロンズ
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス
Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)

父の死を契機に1934年にシュルレアリスムと決別しますが、現実に似せようとすると台座のうえ2-3センチの高さになってしまいます。1942年から1945年は戦火を逃れてジュネーブに移りますが、パリに戻って来た時にはマッチ箱に入るほどの小さな6体の彫像のみだったそうです。それに対し1メートルの高さを自身に課し、モデルによる制作を再開するようになると、今度は彫像の幅が細くなっていったと言います。まなざしに現れるモデルの全体性を捉えようとし、見ることと造ることの間の葛藤を経て、削ぎ落とされたヴォリュームの独自のスタイルが確立されました。

アルベルト・ジャコメッティ 《小像》 1946/80年 ブロンズ
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス
Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)

今回出展数の多いデッサンや素描、また油彩、彫刻も全体を見ると、多くの作品に登場するモデルがいることに気づきます。一才年下の弟ディエゴ、22歳年下の妻アネット、母アネッタ、最初の恋人イザベル、など限られた人たちです。それは、長時間不動のポーズを数週間、ときには数ヶ月にも渡って強いるジャコメッティの要望に応えることができた身近な人たちです。

アルベルト・ジャコメッティ《ディエゴ》1949年 鉛筆、紙
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス
Photo Claude Germain –Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)

日本人哲学者の矢内原伊作(1918-1989)は、その忍耐強い役割を引き受けることのできた例外です。1955年に初めて会って以来、親近感を持った二人は時折会って語り合うようになりますが、モデルとなったのは別れを告げにアトリエを訪れた帰国2日前。鬼気迫る制作にうたれた矢内原は帰国を延期し、結局72日間一日も休むことなくポーズを取り続けることになったそうです。8つ目のセクションにある当時の写真からは想像しがたいですが、矢内原の残した言葉からそれがいかに緊迫したものであったかがわかります。矢内原が持ち帰った、ジャコメッティが落書きした新聞や雑誌も面白いです。落書きといえども展示されているデッサンと変わりません。カフェでくつろいでいても矢内原やそばにいる人を前に、手を動かさずにはいられなかったジャコメッティが目に浮かびます。

チェース・マンハッタン銀行のプロジェクトは円熟期の作品と言えます。《大きな女性立像》《大きな頭部》《歩く男》の3作品ですが、銀行の広場のためのモニュメントを依頼されたジャコメッティは繰り返し取り組んできた「女性立像」「頭部」「歩く男」の3つのテーマを選びます。3メートル近い《大きな女性立像》、巨大な《大きな頭部》、ほぼヒューマンスケールの《歩く男》は、作っては壊し、壊しては作ったもののジャコメッティは満足せず、協力を断念します。その後それぞれに数バージョンが制作され、ニューヨークの美術館や画廊で展示され、また1962年のヴェネチア・ビエンナーレにも出品されました。展示されている3作品は、1964年にマーグ美術館の開館に際して特別に制作されたものです。

アルベルト・ジャコメッティ 《歩く男Ⅰ》 1960年 ブロンズ
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス
Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)

ジャコメッティの作品のその人は、その異様な形状に反して、まるで生きているようです。作られて半世紀の時間がまるでないように、話を聞き、応えてくれそうな気がします。きっと100年後に向き合う人もそう思うのではないでしょうか。それは数百年を経た仏像に似ています。

名声を得てからもずっとパリの古いアトリエで制作していたジャコメッティ。創造と破壊を繰り返した求道者に終わりはなかったのでしょう。

”ひとつの彫刻はひとつのオブジェではない。
それはひとつの問いかけであり、質問であり、答えである。
それは完成されることもありえず、完全でもあり得ない。”

”そんなものは大したことではい。
絵画も彫刻も、デッサンも、文章、はたまた文学も、
そんなものはみなそれぞれ意味があってもそれ以上のものでない。
試みること、それがすべてだ。おお、何たる不思議のわざか。”

アルベルト・ジャコメッティ《ディエゴの胸像》1954年 ブロンズ
豊田市美術館

関連イベントにつきましては、展覧会特設サイトのイベント・タイアップグッズページ、または美術館ホームページをご覧ください。

展覧会特設サイト

国立新美術館展覧会ホームページ

アルベルト・ジャコメッティ 《鼻》 1947年 ブロンズ、針金、ロープ、鉄
大阪新美術館建設準備室

Born in Switzerland, based in France, Alberto Giacometti (1901-1966) was one of the 20th century’s most important European sculptors. Initially, the artist admired African and Oceanic sculpture and Cubism, and absorbed the influence of cutting-edge trends such as the Surrealist movement, which he joined in the late 1920s. Then, in 1935, Giacometti began working with models to develop his own unique creative style. By visibly elongating the lines of the body, he arrived at a completely new type of sculpture. Giacometti set out to capture the essential human qualities without ostentation while struggling with conflict between seeing and making. The fact that Giacometti’s idiosyncratic works were acclaimed in fields like existentialism and phenomenology demonstrates how closely his sculpture corresponded to the spirit of the age. The artist also enjoyed a friendship with Yanaihara Isaku (1918-1989) and his use of the Japanese philosopher as a model provided him with a great deal of inspiration.

Drawing primarily on the collection of the Fondation Maeght, located in southern France, this exhibition will serve as a full-scale retrospective of Alberto Giacometti’s career. Along with the Fondation Giacometti facilities in Paris and Zürich, the Fondation Maeght, housing countless works by this singular sculptor, boasts one of the three largest Giacometti collections in the world. With the cooperation of domestic collectors with invaluable works by the artist, the exhibition is scheduled to showcase 132 specially selected works, including sculptures, oil paintings, sketches, and prints, from throughout the artist’s life.

Exhibition Homepage

The National Art Center, Tokyo(Kokuritsu-Shin-Bijutsukan) Homepage

アルベルト・ジャコメッティ 《3人の男のグループⅠ(3人の歩く男たちⅠ)》 1948/49年
ブロンズ、マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス
Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)

開始日2017/06/14
終了日2017/09/04
エリア東京都
時間10:00 - 18:00。 金曜日・土曜日は20:00まで。入場は閉館の30分前まで。
休日毎週火曜日休館
その他備考観覧料: 1,600円(一般)、1,200円(大学生)、800円(高校生)
・団体は200円引き(20名につき1名無料)。
・中学生以下および障害者手帳をご持参の方(付添いの方1名含む)は入場無料。
・8月2日(水)~7日(月)は高校生無料観覧日(学生証の掲示が必要)。
開催場所国立新美術館 企画展示室 1E
アクセス〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
● 東京メトロ千代田線 乃木坂駅 青山霊園方面改札6出口(美術館直結) ● 東京メトロ日比谷線 六本木駅 4a出口から徒歩約5分 ● 都営地下鉄大江戸線 六本木駅 7出口から徒歩約4分
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