ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展

【7】《足跡》 1950年頃s

ソール・ライター 《足跡》 1950年頃 ソール・ライター財団蔵 ⒸSaul Leiter Estate

はじめて見る作家の作品が、後々もずっと印象や記憶に強くのこる場合は、やはり作品が強いインパクトを持っていて、写真の場合は、それは構図であったり、色彩や形、被写体との関係や切り取られた瞬間などであったりします。ソール・ライターの作品に写されているのは、ニューヨークの街角。都会のなにげない日常の風景を、被写体と同じ空気のなかで写した、しっとりした作品です。人物がこちら(カメラ)を向いていることはありません。色や形や構図は重要な役割をはたしていますが、ライター作品に決定的なのは、しみいるような、あたたかい強さを持つことのように思われます。それはソール・ライターという希有なアーティストの生き方によるものなのかもしれません。

ソール・ライター 《スカーフ》 1948年頃 ソール・ライター財団蔵 ⒸSaul Leiter Estate

1923年、ペンシルバニア州ピッツバーグに生まれたソール・ライター(1923-2013)は、1946年、両親の反対を押し切り大学を退学し、画家を志してニューヨークへ出ます。写真技術を学び、1950年代後半から第一線のファッション・カメラマンとして活躍したものの、1980年代に商業写真から退き、以後忘れられた存在となります。再び脚光を浴びるきっかけとなったのが、2006年にドイツのシュタイデル社によって出版された作品集『Early Color』で、この時ソール・ライター83歳。その後展覧会が相次ぎ、2012年にはドキュメンタリー映画「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」(日本公開は2015年)が公開されました。

展示作品は大きく分けて、ファッション誌で活躍した時代の作品、モノクロ写真、カラー写真、そして絵画作品の4種類があります。

ソール・ライター 《映画『Beyond the Fringe』 のキャスト(ダドリー・ムーア、
ピーター・クック、アラン・ベネット、ジョナサン・ミラー)とモデル
『Esquire』》 1962年頃 ソール・ライター財団蔵 ⒸSaul Leiter Estate

ライターは時代が変わり、自由な創造性が束縛されることが多くなった商業写真にフラストレーションを抱えていたようですが、ファッション誌時代の作品はエレガントで素敵です。すみずみまで計算されてスキのないファッション誌の写真からすると、屋外撮影によるゆるみというか、やわらかさが写真家の繊細さ、センスを物語っています。

ソール・ライター 《カルメン、『Harper’s Bazaar』》 1960年頃
ソール・ライター財団蔵 ⒸSaul Leiter Estate

モノクロとカラーの作品は自分のために撮影したものですが、カラー写真がもっともソール・ライターらしい作品と言えます。画家でもあり色が好きなことにもよるのでしょうが、ありのままの街の光景を写すには目視と同じカラーのほうが自然です。作品には赤や黄色が多く、緑や青が少ないのはニューヨークだからと言えます。とはいえニューヨークであることを示す、例えば高層ビルやランドマーク的なものはなく、カメラは被写体の人物と同じ高さか下向きです。アパートのあるイースト・ヴィレッジ界隈で、被写体が気づかないところからそっと写している様子が想像できます。特徴的なのは、街にある看板やサインの文字を大胆に切り落としたり、色による多面の分割や、何も写っていない部分が大きくとられたり、また縦位置の構図の多いこと、などでしょう。キュレーションを担当したニューヨーク国際写真センターのポリーヌ・ヴェルマールさんは、日本の浮世絵の影響を指摘しています。実際にライターは日本の美術作品を購入し、日本研究の本を蔵書に持っていたそうですから、日本文化と伝統絵画の表現に強く惹かれていたようです。

《赤信号》 1952年 ソール・ライター財団蔵 ⒸSaul Leiter Estate

展示会場の最後には、絵画作品、モノクロのヌード写真とそれに手彩色を加えた作品がまとめられています。ヌード写真は、それまでのストリートの風景から一変して、ライターのアパートでの撮影です。プライベートな空間とはいえ、被写体が自然なポーズや仕草でいるのは、パートナーや友人だからであり、生々しいがありのままの見過ごされるような日常の一瞬であることは共通しています。

ソール・ライター 《ジェイ》 写真1950年代 ・ 描画1990年頃 印画紙にガッシュ、
カゼインカラー、水彩絵具 ソール・ライター財団蔵 ⒸSaul Leiter Estate

「私は無視されることに自分の人生を費やした。それで、いつもとても幸福だった。」と言います。これは、驚くべきことです。成功することを目指して世界中から人や物が集まり、名声や財産が価値基準でもあり、また街のエネルギーとなっているニューヨークで、自分のためだけに作品を創造する、創作することだけで満足する、という人生を貫くのは簡単ではありません。

ソール・ライター《雪》 1960年 ソール・ライター財団蔵 ⒸSaul Leiter Estate

展示から作家の写真哲学、人生哲学が見えます。作品と同時に、ソール・ライターの生き方が強く印象に残る展覧会です。

イべントはこちら

「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」上映情報はこちら。

ソール・ライター 《看板のペンキ塗り》 1954年
ソール・ライター財団蔵 ⒸSaul Leiter Estate

展覧会ウェブサイト

Bunkamura ザ・ミュージアムホームページ

《東57丁目41番地で撮影するソール・ライター、2010年》 (撮影:マーギット・アーブ)
ⒸSaul Leiter Estate

開始日2017/04/29
終了日2017/06/25
エリア東京都
時間10:00-18:00 (入館は17:30まで)  毎週金・土曜日は21:00まで (入館は20:30まで)
休日6月6日(火)
その他備考入館料(消費税込) 一般 1,400円、大学・高校生 1,000円、中学・小学生  700円
◎学生券をお求めの場合は、学生証のご提示をお願いいたします(小学生は除く)。
◎ 障害者手帳のご提示で割引料金あり。詳細は窓口でお尋ねください。
開催場所Bunkamura ザ・ミュージアム
アクセス〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
お問合せ:ハローダイヤル 03-5777-8600
■JR線「渋谷駅」ハチ公口より徒歩7分
■東京メトロ銀座線、京王井の頭線「渋谷駅」より徒歩7分
■東急東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線「渋谷駅」3a出口より徒歩5分
http://www.bunkamura.co.jp/access/