〈練馬区独立70周年記念展〉19世紀パリ時間旅行-失われた街を求めてー

モーリス・ユトリロ《モンマルトルのキュスティーヌ通り》1938年
油彩、カンヴァス 松岡美術館
フランス文学者の鹿島茂氏が『芸術新潮』に連載していた「失われたパリの復元」を元に、19世紀のパリの全体像を絵画、版画、古地図、衣装など沢山の美術作品を展示して、パリの歴史、パリ大改造以前、以降を紹介している。
パリが好きな人にとっては魅力ある展覧会であることは間違いない。
パリの始まりは紀元前3世紀、以後少しずつ拡大し、世界を牽引する近代都市として形成された長い歴史の中、衝撃的な出来事が、第二帝政期(1852-70)に行われた「パリ大改造」(1853-70)である。「パリの外科手術」とも呼ばれるこの大改造は皇帝ナポレオン3世の肝いりで、セーヌ県知事のオスマン男爵によって着手された。1870年代に入り、大手術を終えたパリは印象派をはじめとした画家たちの格好の題材となり、それは新しいパリが同時代の芸術家にとって創作の源泉となっていく。反面この大改造で多くの下層民の労働者、職人はパリ周縁部へと強制的に追いやられ、翻弄される。苦しみと不満が募る中、昔ながらの街並みや消滅したコミュニティを懐かしむ声が聞こえ始め、懐かしいパリの路地風景を版画に起こして、アドルフ・マルシェル・ポテモン(1828-83)の「いにしえのパリ」にはそのノスタルジアが反映されている。これはユゴーやバルザックに描かれたかつてのパリを私たちに伝える唯一の版画連作である。
アドルフ・マルシアル=ポテモン《ロラン=プラン=ガージュ通り(袋小路)》1864年
エッチング、紙(『いにしえのパリ』1866年より) 鹿島茂コレクション
鹿島茂氏のコレクションには、パリへの熱い思いが集約され、いかにパリを愛しているかがよく解る。
展覧会は、膨大な数の版画、古地図、絵画、衣装を以下の6段階にテーマを分け、パリの歴史をなぞっていく。
Ⅰ.パリ、変貌の歴史
Ⅱ.タブロー・ド・パリ
Ⅲ.ナポレオン3世とセーヌ県知事オスマンのパリ大改造
Ⅳ.1870年、新しいパリ
Ⅴ.世紀末のパリ—ベル・エポック
Ⅵ.20世紀、描かれ続けるパリ
エドガー・ドガ《赤い衣裳をつけた三人の踊り子》1896年 パステル、紙 大原美術館
夥しい数の版画やポスター、絵画、また衣装など、合わせて約400点にのぼる出展作品は、19世紀の近代化するパリを丹念に追う貴重な資料である。鹿島氏の研究の成果が充分に出ている展覧会である。
題名の通りの時間旅行が楽しめる。
イベントなど詳しくは展覧会ホームページをご覧ください。
ポール・シニャック《ポン・ヌフ》1927年 水彩、紙 茨城県近代美術館
開始日 | 2017/04/16 |
終了日 | 2017/06/04 |
エリア | 東京都 |
時間 | 10:00~18:00 |
休日 | 月曜日 |
その他備考 | 観覧料 一般800円、大学生および65-74歳600円、中学生以下および75歳以上は無料 ※一般以外の方は年齢等の確認できるものをご提示ください。 |
開催場所 | 練馬区立美術館 |
アクセス | 〒176-0021
東京都練馬区貫井1-36-16 西武池袋線中村橋(池袋駅より各駅停車6駅目約16分)駅下車 徒歩3分。改札を左に出て、線路沿いの道を石神井公園駅方向に130メートル先の右側。 https://www.neribun.or.jp/access/museum.html |
5/14のNHK日曜美術館で鹿島先生が説明をされていました。
近代的な街並のパリですが、もとからその基礎があったわけでなく、大改造によって全く別のものに計画されて今日に至っているんですね。歴史を変えるような都市計画は皇帝だからできたことか、今日だったら権利がからまって不可能でしょう。わたしたちの知らないパリの姿をのぞきに行ってみようと思います。
地図や細やかな版画がたくさんあり、じっくり見応えある展示でした。
ボナールのリトグラフの美しさは、ひときわ印象に残りました。
パリの大改造がテーマかと思って行って、確かに展示は当時の地図や、当時と現在の場所の変遷などで、豊富な資料に、パリに詳しかったらもっと楽しめたのに、などと思いつつ、そろそろ終わりかなと思ってからが長い!改造前夜の風刺画あたりから、パリの風俗や(豪華なドレスが6着も!)絵画に残っている帝政下のパリの人々、改造前のパリの各所の版画(これだけで50点近く!)、パリ万博、と来て、その後の新しいパリとベル・エポックのパリ、そして最後には近代美術館にある佐伯祐三の「ガス灯と広告」まで、あふれる出展数の展示でした。記事に「夥しい数の」「膨大な数の」と書かれていましたが、納得です!19世紀がすべて盛り込まれた展示でした。そしてどれもが一級の資料です。例えばドレスはクオリティが高い。それもそのはずで、所蔵先は6月25日まで開催されている横浜美術館の「ファッションとアート」にも出展している京都のKCIさんで、これも納得です。https://to-co-to.com/wp/blog/req/2017/24546/