特別展「雪村ー奇想の誕生ー」

雪村筆 《呂洞賓図》重要文化財 1幅 119.2×59.6cm 奈良・大和文華館蔵
(展示期間:3月28日~4月23日)
「雪村(せっそん)?名前は知っているけど、作品と言われると思い浮かばない」という人が多いのではないでしょうか。雪舟とともに歴史の時間にも出て来る時代を代表する絵師であることは知っていても、後代の宗達、等伯、蕭白、狩野派や琳派・・・に比べると、どうも影が薄いようです。
しかし過去最大規模というこの回顧展で海外からの里帰り作品も含め雪村のみを見てみると、躍動感あふれ、独創的で、タダモノでない画家であることがわかります。上記は重要文化財の《呂洞賓図》ですが、風がわき起こる中、龍の上に直立し、首を真後ろに倒してガッと目を開き、舌を出して両手を大きく広げて空にいるもう一匹の龍に何か叫ぶかしているようです。今にも雲の中の龍の不穏な空気や、足下の龍に逆巻く波頭の音や風が聞こえてきそうな、まるで映画の一場面のようです。それに対して《列子御風図》では、仙人が画面中央に浮き、地面の岩から飛び上がったところのようですが、これほどの跳躍力はないだろうと思える場所で風にふわふわ吹かれています。《欠伸布袋・紅白梅図》は三幅対ですが、左と右は紅白梅、中幅には「あー、よく寝たあ」と言わんばかりにアクビをする布袋さんがいます。《猿猴図》は猿カニ合戦なのか、猿が今まさに猫(猿)パンチをお見舞いするところです。
雪村筆《列子御風図》 1幅 127.5×56.0cm 公益財団法人アルカンシエール美術財団蔵
(展示期間:3月28日~4月23日)
雪村筆 《欠伸布袋・紅白梅図》のうち中幅 120.5×64.3cm 茨城県立歴史館蔵
(展示期間:3月28日~5月21日)
サブタイトルは「奇想の誕生」となっています。「奇想」といえば、伊藤若冲、曾我蕭白、歌川国芳へと続く「奇想の系譜」(著:辻惟雄氏)ですが、雪村が「日本絵画史上最初に誕生した『奇想の画家』」ということのようです。
琳派の代表である尾形光琳は、雪村を思慕し、模写や雪村を意識した作品を数多く残しました。近世には狩野派、近代では狩野芳崖、橋本雅邦らが雪村を研究します。展示終盤には光琳コーナーや、狩野芳崖が骨董屋で見て来た雪村の絵を橋本雅邦の前で描いた《竹虎図》(奈良県立美術館蔵)など、どれほど後代の画家を影響していたかが示されています。
雪村筆《猿猴図》1幅 120.7×47.2cm 個人蔵 (展示期間:3月28日~4月23日)
戦国時代に現在の茨城県の武士の家に生まれ、都へは上ったことがなく生涯を辺境といえる東国で過ごしたものの、これほど革新的で、かつ温かみのある作品は人間味にあふれていて、「マネジメントの父」であるピーター・F・ドラッカー(1909-2005)に愛されていたのもうなずけます。前期・後期と入れ替えもあります。もう一度見てみたい展覧会です。
雪村筆 《自画像》重要文化財 1幅 65.2×22.2cm 奈良・大和文華館蔵
(展示期間:5月9日~5月21日)
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開始日 | 2017/03/28 |
終了日 | 2017/05/21 |
エリア | 東京都 |
時間 | 午前10時~午後5時 入館は閉館の30分前まで |
休日 | 毎週月曜日、ただし5月1日は開館 |
その他備考 | 観覧料:一般1,600円、大学生1,200円、高校生900円 *中学生以下無料 *障がい者手帳をお持ちの方とその介助者一名は無料 会期中展示替えがあります。詳しくは上記「出品リスト」をご覧ください。 |
開催場所 | 東京藝術大学大学美術館 |
アクセス | 〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8 問い合わせ: ハローダイヤル 03-5777-8600 ・JR上野駅(公園口)、東京メトロ千代田線根津駅(1番出口)より徒歩10分 ・京成上野駅(正面口)、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅(7番出口)より徒歩15分 ・JR上野駅公園口から台東区循環バス「東西めぐりん」(東京芸術大学経由)で4分、停留所「東京芸術大学」下車(30分間隔) http://www.geidai.ac.jp/museum/information/information_ja.htm |
「奇想」の雪村を見に行った。なによりも力強い墨の線に圧倒される。 人物、動物、また想像上の龍などをユーモアたっぷりにまた生き生きと描きながらみなぎる力を感じる。飄々とした軽さのなかにしっかりした手応えという相反するものを感じさせるその才能はすごい。 尾形光琳の紅白梅図が雪村の影響を受け、雪村が書いた梅と虎の三幅の絵に準じているのではとその三幅の手前に紅白梅図を模した透けるカーテンをさげているのが興味深かった。馬の絵が断然かわいくてグッズを探したが残念なことになかった。
去年はじまった茨城県の県北芸術祭では、雪村は全くフィーチャーされていませんでした。雪村展を見た今思うと、残念なことです。岡倉天心の五浦だけでなく、都からはるか離れた常盤の国に(それは現在の何倍にもなる距離です)雪村がしいたことは、もっと取り上げられていいのではないでしょうか(主催者だけでなく参加アーティストも)。能のストーリーの舞台にも登場するし、一般にイメージされる茨城県の文化は、現在より昔の方がより濃密だったのでは。そういう遺産を活かしたらいいのにね、茨城県は。
雪村の今まで知らなかった発見がたくさんあり、とても刺激的で楽しい展示でした。
構図の面白さや表情に引きつけられる遊び心あふれる作品の数々、
キャプションの視点も面白く、カタログも参考になり、雪村のことを知る好機となりました。
今回は後期のみの鑑賞だったのですが、前期もぜひ行きたかったです。