柳 幸典「ワンダリング・ポジション」Wandering Position YUKINORI YANAGI

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現代美術家、柳幸典さんの初期から現在までを追う展覧会です。作品の振り返りというのは、展覧会という場でなくても、作家が制作を続け、作品数が増えるなかで、鑑賞者は個人的な記憶から、また美術展で未見の作品に出会うなどしながら自然に行われています。それが難しい数少ない一人が柳幸典さんと言えます。

そもそも「柳幸典」という名前がどれだけ語られているでしょうか。現代美術を好きという人でもすぐにピンとこないかもしれません。「犬島の製錬所」と言えば思い出せるでしょう。その名前は作品や作品のイメージに隠れてしまい、また作品の多様な外見から名前を通じて作品が繋がりにくいかもしれません。

わたし自身、最初に見た作品は《ヒノマル》でした。白い紙に、「田中」など姓の丸い普通のハンコが無数に押されて日の丸の赤い部分になっている作品です。まだ現代美術をその単語の他には知らないころでしたが、衝撃的で作家名を覚えずとも作品ははっきりと思えています。2回目はその数年後、今から15年くらい前の横浜美術館コレクション展だったと思います。《Banzai Corner》は展示室の隅の角を使い1/4の円をウルトラマンがバンザイをして中心に向かって並び、両壁に貼られた鏡を含めて円形に見える作品です。「現代美術を見ています」とはいいがたい頃でしたが、明らかに他の作品とは異なる光を放っていて、作家名がインプットされました。

その後、現代美術を見るようになりましたが、美術館の企画展で《アント・ファーム》シリーズの作品に出会ったり、都内にあるギャラリーの応接室に掛けられたドローイング作品をガラスの壁越しにに眺めたりしましたが、「柳幸典を見た」と言えるのは瀬戸内国際芸術祭が始まった2011年のことです。

柳作品との出会いを紹介したのは、現代美術ファンにとって「柳幸典」という美術家はとらえようとしても捕まえられない存在だったということです。強烈なインパクトのある作品が確かにあるものの、他の作家のように次々と作品がギャラリーや美術展に出品されているわけではありません。一度その閃光を浴びた鑑賞者は、数年後別の光を浴びて戸惑います。「ワンダリング・ポジション」展は、断片的な作品の長年にわたる空白を埋め、「柳幸典」という美術家を知る貴重な機会なのです。

作家は、素材や製作技法や技術、あるいはまなざしそのものを発展させることで、作品を展開することが一般的です。それによるアウトプットである作品は直線的か、スパイラル状か、あるいは山谷を繰り返すような循環的に展開しますが、この作家については一つの作品が完結すると、まるで全てをリセットしてゼロにしてしまうように見えます。それは作品を構想するごとに、素材、技法、場所、機材等が選ばれていることに他ならないのですが、その度ごとに誰にも真似のできない発想力に基づくオリジナリティでや力強い作品が生み出されていることを思うと、妥協のないエネルギーを想像できます。

一見、作品間のつながりが希薄に見えますが、もちろん共通項はあります。《ヒノマル》、《Banzai Corner》、《アント・ファーム》から現状に対する批判を読むのは難しいことではありません。こうして初期からの作品を一堂に見ると、社会に対する批判、疑いの視線、問題認識への問いなどはどの作品に通底するイシューです。

また批判や疑問の視線がユーモアで包まれて、かろみとなっていることも特徴的です。「Ground」の付く作品群などはその名の通り地面や土を使い、また重機を使った大型で重量級の作品にもかろみは生きています。釣上げられた巨大なタイヤキ《Ground Fish》、泥団子の王様のような《Ground Transposition》など物質的な重量にかかわらず、明晰で素直です。説明を必要としない簡潔な作品は、リー・ウーファンのただ縦に一気に引かれた線に時や景色を見るのと同様で、千利休のシンプルさや江戸時代の俳諧の精神を受け継いでいるように見えます。

技術や技法を鍛錬し続ける美術家の軌跡を線で描くとするなら、まるで別の作家の作品が並ぶような柳幸典のそれは点といえます。その点を散りばめて求める先はどこにあるのか、柳によるこれまでのwonder な作品はwander(彷徨)することでつくられたのであるならば、これから先はどこへ行くのか、wanderして(迷子になって)見る者には想像がつきません。

現代美術はイマイチと思っている方は、「ワンダリング・ポジション」で衝撃的な出会いをしてください。現代美術を知っていると言える人なら必須の展覧会です。

オープニングでパフォーマンス中の柳氏

開始日2016/10/14
終了日2017/01/07
エリア神奈川県
時間11:00-19:00
休日会期が12月25日までで年中無休だったのが、1月7日(土)まで延長になりました。1月1日(日)のみ休館します。
その他備考観覧料:1,200円(一般)、900円(大学生、専門学校生、横浜市民 / 在住)、600円(高校生、65才以上)、障害者手帖お持ちの方/付き添1名・中学生以下無料
カタログ付観覧料:3,000円(一般)、2,800円(大学生、専門学校生、横浜市民 / 在住)、2,700円(高校生、65才以上)
カタログ仕様:A4変形、2冊組(箱入り)2,700円(税込)2冊目はドキュメンテーションにつき、会期終了後送付(送付料無料)
開催場所BankART Studio NYK
アクセス横浜市中区海岸通3-9
TEL: 045 (663) 2812
横浜みなとみらい線「馬車道駅」6出口[赤レンガ倉庫口] 徒歩4分
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