鴻池朋子展「根源的暴力」Tomoko Konoike “Primordial Violence”

1_ 12人のホイト 2015 牛革、ミクストメディア (c)Tomoko Konoike

12人のホイト 2015 牛革、ミクストメディア © Tomoko Konoike

記憶に残る2009年の東京オペラシティにおける個展から6年。鴻池は、人類学、民俗学、考古学など多角的な方面より、アートという一言では集約できない人間の“つくる”行為を丁寧に考察し、新たな表現のための力を蓄えてきました。その集大成ともいえる本展は、過去の作品とは一線を画す、新作で構成される大規模な個展となります。

鴻池朋子は、2009年の個展以降、様々なグループ展や海外展に参加、アメリカ(サンフランシスコ)での初個展を開催、パブリックアートの制作(ワテラス/淡路町、サンポート港南港区児童公益施設)、一昨年には日経日本画大賞を受賞、そして数年前から継続的なプロジェクトを秋田県で行うなど活動の幅は非常に広く、常に新たな視点でつくることの可能性を開拓している作家です。

2011年3月11日の震災以降、自然の驚異にさらされた私たち人間の在り方を、鴻池は見つめ続けてきました。2012年から始めた秋田県での「東北を開く神話展」、「美術館ロッジプロジェクト」、近年の「物語るテーブルランナー」などの活動は、土地の地形、風土、人間のエネルギー無しには語ることはできません。数ある地域型イベントとは一線を画す、本当にこの場でなくてはならないものを見出し、そこに血を通わせるような活動は、私たちのアートの見方、感じ方を根本から揺るがします。それは、人間や自然そのものの存在を揺るがすことにも繋がるでしょう。

本展は、一作家の個展という枠を超えて、作家や作品と共に私たちが再生する物語であり、つくることを通して、これからの人間の在り方を模索し観客と共に考えていくものです。

ヤマナメクジと月 2015 牛革、ミクストメディア © Tomoko Konoike

<鴻池朋子(こうのいけ ともこ)プロフィール>
東京芸術大学日本画専攻卒業後、玩具と雑貨の企画、デザインの仕事に携わり、その後絵画、彫刻、アニメーション、絵本などの手法を駆使したインスタレーションで現代の神話を描き続けています。近年では個展2006年「第0章」大原美術館、2009年「鴻池朋子展 インタートラベラー神話と遊ぶ人」東京オペラシティ、鹿児島県霧島アートの森 、2013年ウェンディ・ノリスギャラリー(サンフランシスコ)などの他、2006年アヴァロフ美術館(ギリシャ)、CCP(オーストラリア)、2008年広州トリエンナーレ(中国)、2010年釜山ビエンナーレ(韓国)、ドレスデン州立美術館(ドイツ)等のグループ展、ワークショップも国内外で多数行われています。秋田では「東北を開く神話展」、「美術館ロッジ」、「物語るテーブルランナー」などの継続的なプロジェクトを行っています。

皮絵 赤い水 2015 牛革、ミクストメディア © Tomoko Konoike

<作家ステイトメント>
根源的暴力
2009年の東京オペラシティの大規模な個展『インタートラベラー 神話と遊ぶ人』から現在に至るまでの6年間、そして3.11の震災から私は、明らかに変容する自身の身体感覚と日本人全体の意識の変化を敏感に感じとり、積極的に美術の外に移動し、東北の山村を歩き、人類学、民俗学、考古学の方々と対話し、中心から周縁にある物語を丁寧に収集する旅をしてきました。そして現在も人間と野生の境にある秋田県森吉山避難小屋での『美術館ロッジ』や、歴史には記されない現代の民俗を記録する『物語るテーブルランナー』プロジェクト、一方、開発と地形の問題からパブリックアートの制作を続けています。まさに現代は近代以降に輸入された美術から、確実に転換期にいるといってよいでしょう。今回の展覧会ではこれまでの体験を糧とし、またかつての狭義的な美術神話を脱し、人間が地上に出現し、言葉を獲得し、山を出て文化を形成した

素朴で力強い場所まで立ち戻り、なぜ人間は自然を侵犯し文明をつくるのか、その根源的暴力について、ものをつくるたった一人の手から考えます。

今回私は過去の作品を全て精算し、一から技法を習得するように新たな素材や表現に取り組みました。牛皮を縫い合わせてつくられた20数メートルに及ぶツギハギの皮画面に描かれる絵は、「絵画」という概念を一度ぜんぶ裏返し、その内蔵を外気にさらす試みです。またたくさんの原始生命のような粘土たちは、博物館から借用する旧石器時代の石器、呪具類と同列に並べ、人間の経済的活動に収集されない純粋贈与とアートとの関係を探ります。アート・コンプレックスでは人間の音「声」に注目し、動物の鳴き声から言葉への変容を実験したいと思います。そして、サイエンス(科学)フィクションを読み過ぎた大人たちの影で、秘かに息づいてきた、「おとぎ話」オーラル(口伝)ワンダーテールが会場全体に通奏低音となって響き、かつて山にいた頃の人間の痕跡を赤裸々にしてゆきます。このように私の最近の行為は、美術の外へ、まるで文明から山という野生へ還ろうとする一匹の動物のようです。今回はその人間としての大きな矛盾に、全新作をもって全力で挑む所存でおります。

ここ数年間、今ほど私たちは自然の驚異を痛感させられる時はありませんでした。特に震災後の原発問題と放射能による目に見えない世界という異界と関わることは、「視る」ということが次の領域に入ったということを感じざるをえません。例え作家が変わらなくとも、確実に観客の眼は変わっています。それは日本だけではなく、地球規模で変革期を迎えていることであり、人間が野生とどのように対話してゆくのかを世界中で悩み探っています。アートは絵画や彫刻という形式でもなく、また美しさ、新しさという方向のベクトルだけでもない、重層的で矛盾する人間特有の表現であり、誰にでも存在する位相です。またアートは辺境の地の町興しという方便でもありません。人間がものをつくり生きていくということは、自然に背く行為であり、根源的な暴力です。この展覧会は、その根源的暴力を正面から見つめ、 なぜ人は“つくる”のか、というアートの根本的な問いに、考え、悩む展覧会にしたいと思います。

鴻池 朋子

皮緞帳 2015 牛革、クレヨン、水彩 600x2400cm © Tomoko Konoike

<関連企画>
詳細、最新情報につきましては、神奈川県民ホールギャラリーホームページをご覧ください。

●鴻池朋子 アーティスト・トーク
司会:坂本里英子(本展ゲスト・キュレーター、セゾン現代美術館学芸員)
日時:11月7日(土)14:00-

●トークセッション
「新らしき動物たち〜アート神話の解体」
石倉敏明(秋田公立美術大学講師/芸術人類学)
吉川耕太郎(秋田県立博物館 主査兼学芸主事)
鴻池朋子
日時:11月23日(月・祝)14:00- 
会場:両日展示室内
* 予約不要:当日入場券にて参加可
* 参加多数の場合は入場制限あり

●Art Complex 2015+トーク (下記参照)
「異界婚姻譚〜同じものではいられない」
美術を音楽、身体表現など他ジャンルと実験的に関係させることで、新たなアートの創造を試みるプロジェクト。2015はギャラリーの展示空間を舞台に、山川冬樹氏と鴻池朋子がパフォーマンスでの対話を行う。
出演:山川冬樹(ホーメイ歌手、アーティスト)、鴻池朋子
監修:村井まや子(神奈川大学教授/おとぎ話、比較文学)
日時:11月21日(土) 19:00 開演
会場:第5展示室
料金:全席自由/入場整理番号つき
一般2,500円、学生2,000円 発売:10/3(土)
詳細はwebにて
*公演当日に限り本チケットで展覧会入場可

着物 鳥 2015 羊毛フェルト、鳥の羽根、布 © Tomoko Konoike

Art Complex 2015について
神奈川県民ホールでは、様々なジャンルのアーティストたちが出会い、刺激的な表現を生み出す場を「アート・コンプレックス」と名付け、これまでにない新鮮で自由なアートを紹介してきました。

8回目となる今回は、鴻池朋子展「根源的暴力」の展示空間を舞台に、山川冬樹と鴻池朋子によるパフォーマンスを開催します。山川の筋肉や顔の表情、呼吸や声や心音らが、鴻池作品の皮膚を通り抜けると同時に、人間ではない多種多様な生命体としての活動となって変身をしはじめます。後半では、本公演の監修を行った村井まや子(おとぎ話研究者)を交えて、三者によるトークも行います。山川と鴻池の創造力の相互作用によって紡ぎ出される「異界婚姻譚」の世界を、ぜひご体験ください。

異界婚姻譚〜同じものではいられない 
Tales of Marriage to the Other World: You Will Never Be the Same

おとぎ話は、日常世界から異界に行って帰って来るという、単純だが無限に変奏が可能な基本構造を持つ。鴻池朋子の個展「根源的暴力」は、白いキャンバスと美術館という従来の美術の中心から遠く離れ、周縁を彷徨う旅を続けたのちに、異界から戻って来たアーティストの、いわば変身譚である。いったん日常世界の外に踏み出し、異界との交わりを持ったものは、たとえ一見すると同じ姿で元の世界に戻ったとしても、何かが変わってしまっている。狼と出会った赤ずきんや、竜宮城から地上へ戻った浦島太郎がそうであるように。この根底的な価値の変容こそが、変身の恐るべき効果であり、おとぎ話に深い魅力を与えている。異界の気配を呼び起こす山川冬樹の声と身体が紡ぎ出す変身譚では、「何ものか」の正体が見えたと思った瞬間には、すでにその反対物へと為り変わる過程が始まっている。おとぎ話の法則に従い、元の世界に戻れるとしても、異界と交わったすべてのものは−−−観客も含めて−−−もう同じものではいられない。    村井まや子

<山川冬樹 Fuyuki Yamakawa>
ホーメイ歌手/アーティスト。声と身体を扱った表現で、音楽、現代美術、舞台芸術の分野で活動。電子聴診器を用いて心音を増幅してみせるパフォーマンスや、骨伝導マイクで頭蓋骨の共鳴を増幅したパフォーマンスで、ヴェネツィア・ビエンナーレ、フジロック・フェスティバル、国内外のノイズ/即興音楽シーンなど、ジャンルを横断しながらこれまでに15カ国でパフォーマンスを行う。また一人で同時に二つの声で歌うと言われる、アジア中央部の伝統歌唱「ホーメイ」の名手として知られ、2003年ロシア連邦トゥバ共和国で開催された「ユネスコ主催 第4回国際ホーメイフェスティバル」では「アヴァンギャルド賞」を受賞。現代美術の分野では、個人と社会の記憶が交差するインスタレーション《The Voice-over》(2008)、「パ」という音節の所有権を、一人のアートコレクターに100万円で販売することで成立するパフォーマンス、《「パ」日誌メント》(2011-)などを発表。

<村井まや子  Mayako Murai>
おとぎ話・比較文学研究者。神戸生まれ。ロンドン大学ユニヴァーシティ・カレッジ博士課程修了。神奈川大学外国語学部教授。主著に、鴻池朋子をはじめ現代日本の女性作家や美術家の作品にみられるおとぎ話の表象を、西洋と比較して論じたFrom Dog Bridegroom to Wolf Girl: Contemporary Japanese Fairy-Tale Adaptations in Conversation with the West (Wayne State University Press, 2015)などがある。

神奈川県民ホールギャラリーホームページより)

皮着物 赤い川 2015 牛革、ミクストメディア © Tomoko Konoike

 

開始日2015/10/24
終了日2015/11/28
エリア神奈川県
時間10:00-18:00(入場は閉場の30分前まで)
* 11月21日(土)はアート・コンプレックス開催のため展覧会は17:00で閉場いたします。
休日会期中無休
その他備考料金:一般700円 学生・65歳以上500円 高校生以下無料
* 障がい者手帳をお持ちの方とその付添の方1名は無料
* 10名以上の団体は100円引き
* 毎週水曜日の午前は子どもや障がい者の方の優先日です。おしゃべりしながらご覧ください。
開催場所神奈川県民ホールギャラリー 全室
アクセス〒231-0023 神奈川県横浜市中区山下町3-1
みなとみらい線日本大通り駅3番出口より徒歩約6分
JR根岸線・市営地下鉄関内駅より徒歩約15分
http://www.kanagawa-kenminhall.com/access